先日ここに、真田正明『200字文章術』の感想を書いた。 https://note.com/merlin_witch/n/n50291345944c ソムリエに習う五感トレーニングの話についても記した。
 今日はその関連投稿である。本書には、ソムリエがなぜ文章術の本に出てきたかという理由も述べられている。

 五感とことばの回路をきたえ、ことばのストックを豊富にする。日々のそうした積み重ねが、語彙を増やし、表現力を向上させます。
 常にその訓練をしているのが、ワインのソムリエです。

 そうか、と納得したところへ、「ゆる言語学ラジオ」を聞いていた。すると「言語学から考える食レポ。なぜソムリエは謎の語彙を使うのか?【食レポ1】#202」の回でソムリエの話が出てきた。https://www.youtube.com/watch?v=hADC7RolFh8 「32:21 ソムリエの言葉はデータベースのタグ付け!?」のパート)
 食レポがうまくなる語彙というのがこの回のテーマだが、そこから発展して、ソムリエは「グロゼイユの香り」と言うよね、などと水野さん、堀元さんの二人は話す。ソムリエがそういう「ちょっとカッコつけた」語彙を使う理由は、「自分の脳内データベースにタグ付けしたい」からだという。一般人は右脳でワインの香りを嗅ぐが、ソムリエは「左脳でワインの香りを嗅いで」脳内のタグを探っている。「頭の中のマップ(データベース)を作る」ために「自在に引き出せて他人に通じる言葉」を使って「データ管理している」のだと、水野さんは語る。
 さらに同ラジオでは「アロマホイール(香りの分類表)」が紹介される。大分類・中分類・小分類があり、大分類には「果実」、中分類に「甘い果実」、小分類に「あんず」「洋梨」などと書かれている。
 ちょうど『200字文章術』でソムリエの話をここに書いた直後だったので「やっぱり、ソムリエは言葉の商売なんだ……」と改めて納得した。ちなみにグロゼイユというのは果実のひとつだそう。同書では、ソムリエの語彙についてこう述べている。

客にワインを薦めるときに、ただ「このワインはおいしいです」では話になりません。客の好みを聞いて、その日の料理を勘案し、予算も頭に置いて、このワインはどんなワインなのか、どうおいしいのか、なぜ今日の料理に合うのか、説明しなくてはいけません。

 たしかにその通り。続いて、世界的なソムリエの田崎真也さんの語彙について次のように紹介している。

(田崎さんは)「たとえば、あるワインに感じたことを一〇〇の言葉で表現し、記憶しておけば、お客様がこれまで飲んできたワインの経験や知識、好みの違いに応じて、二〇から三〇の単語を使い分けて適切に説明することができます」と言っています。
 田崎さんの頭の中では、数多くのワインの味や香りがあらかじめ言語化され、整理されて膨大なファイルになっているといいます。彼は新しいワインをテイスティングすると、そのファイルの中から似たような味、香りの記憶を引出し、すでに言語化されている表現を使います。

 そういうことなのかー。田崎さんは日本を代表するソムリエではあるが、ふつうのソムリエも同じプロセスを辿り、脳内にファイル(データベース)を作っていて、そこから引き出しているのだろう。
 なんだか、ワインバーに行きたくなってしまう。昔は大酒飲みだったわたしだが、いまはせいぜいグラスワイン2杯がいいところ。しかも、夜飲むと翌日に残るのでお昼がいいな。おひとりさまのオバサンに、昼から「美味しいワインを2杯」だけ飲ませてくれるバーを探してみなければ。

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