山田優『ChatGPT翻訳術 新AI時代の超英語スキルブック』~感想

 本書については、以前「AI翻訳講座に惹かれているならば」という投稿をした。以下がそれである。

 このときは未読であったが、2か月経って本書を読んだので感想を簡単に書こう。

ChatGPTを使って和文英訳を

 本書の「翻訳」は、和文英訳を指している。友人の翻訳者、鈴木立哉さんは「ChatGPTはいまのところ英語ネイティブであり、日本語ネイティブではない」と言っている。これを考慮すると、現時点では英訳の方がプロンプト次第で高精度の訳文を狙える。そのため著者は、英訳に絞った話にしているのだろう。
 鈴木さんはChatGPTを使って英訳や英語学習を日々続けている。以下に挙げるブログを一読すると、実際にどのように進めているのかがわかる。かなり使いこなしている様子だ。

ChatGPTはプロンプト次第

 本書の話に戻ろう。「はじめに」から第2章までは、ある程度AIや、AI翻訳のことを知っていれば流し読みしてもよいと思う。言い換えれば、ニューラルAI翻訳がなんなのか大体わかっていて、「ChatGPTをうまく使えるかどうかはプロンプト次第である」ことを知っているならば、ということになるだろうか。
 「そこまではなんとかわかった。プロンプトが書けないから自分にはChatGPTは無理と判断しているのだ!」というわたしのような人は、次章から実践してみよう。第3章「ChatGPTで翻訳する」において、丁寧にプロンプトの書き方をレクチャーしてくれている。
 このプロンプトを英語で書ければもっと柔軟な指示が出せ、ポイントを突いたアウトプットが出てくるだろう。前述したように、現在のChatGPTは鈴木さんの言うように「英語ネイティブ」であるからだ。

英語教材作成が変わる!

 さて、わたしは英語教材界にも身をおいているので、ここからは英語教材の話について書こう。
 第4章「実践で学ぶChatGPT翻訳術」には驚いた。丁寧にAIとやりとりを重ねることで、目的にかなった「自然」な英文が(人間のネイティブチェックを経ることなく)アウトプットされていく様子が紙上再現されている。
 たとえば使用英単語はCEFRのどのレベルと指定し、その範囲で書けというプロンプトを出せば、そんな指示にも対応するのがChatGPTであることが、目の前で展開されていくのだ。
 すなわち、このAIツールを使いこなせさえすれば、今後は英語教材もネイティブに英文を書いてもらったり、ネイティブチェックをしてもらったりする必要がなくなるかもしれない。
 いま教材を作るとき、課題文(素材文)を作るというところが最も大変なのである。本当にここには苦労する。ネイティブのライターに条件を指定して書いてもらったり、日本語で書いた文章をネイティブに翻訳してもらったりしているが、ぴたっとくる英文がなかなか上がってこない。
 これが、ChatGPTを使いこなせるならば、日本人ひとりだけでできるようになる。いや、すでにそうなっているのである。
 教材については京都大学教授の柳瀬陽介氏がかなり実践を重ねている様子だ。以下にX(旧Twitter)の投稿を貼っておく。

 同氏が述べているのは英作文の教材についてだが、読解用の長文であっても同じ手法でできるはずである。
 これはありがたいけれど恐ろしいことでもある。もう、苦労してネイティブに英文を書いてもらう必要はない。だがその分、自分の英語力を用いてChatGPTとやりとりを重ね、ネイティブ以上の教材を作る必要がある(そうでなければChatGPTを使った意味がない)からである。
 英語教材界はそうした大変革期を迎えている。従って教材界にいる人は、本書を読むことと、柳瀬氏のXをフォローしたほうがよいと断言できる。
 そういうわたしはというと、いま抱えている仕事が一段落したら、有料版にアップグレードして本書のプロンプトを使ってみるつもりである。そう、本書においては有料版を使ったアウトプットが述べられているので、ここで投資をして4.0を使うべきと判断した。自分の英語スキルを駆使して試行錯誤した結果、AIからどんな英文が出てくるのかが楽しみである。

翻訳者の仕事はなくなるのか

 最後に翻訳の話に戻ろう。著者はAI翻訳を推し進める第一人者だが、「人間翻訳が必要とされなくなる」とは述べていない。第5章で「AIと英語学習の未来予測」では、「AI技術の進化により翻訳活動を行う人口がふえると、その中でプロの翻訳者にしかできないような高品質な翻訳を求める需要も増える可能性があります」「私たちはこれからも翻訳者という職種が必要であり続けること、そしてその中でもトップレベルの翻訳者の重要性が増すことを予見することができます」と書いている。
 すなわち、翻訳はAIによってなくなってしまう職業ではなく、プロの翻訳者の需要は増えるだろうと予測しているのだ。ここに注目すべきだろう。
 だが本書では「AI技術の進化により、中級レベルの翻訳者が影響を受ける可能性はある」とも述べている。問題になるのはここだろう。現在、大多数を占めているのがこの「中級レベルの翻訳者」だからである。
 この層については、まずは英語力を「トップレベル」にするべく、今日から本書とChatGPTで英語力に磨きをかけていく。そう、本書はAIを使った英語の学習法も紹介している。高額な費用を投じて講座に通わずとも、自力でスキルアップできるのである。そうやってトップレベルを目指していくのが、「中級レベルの翻訳者」がすべきことなのではないか。

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