低単価の校正者は女性に多い? 抜けるにはどうしたらよい?

出版翻訳界に存在する男女差別

 twitterで翻訳者の男女差別について議論されている。出版翻訳、それも文学になると、男女差はあると思う。
女性が夫さんの扶養控除内でやっているとなると、印税率を低く抑えられていたり、印税率が低く設定されている書籍を回されたりしているのは事実だろう。
複数のソースから何度も聞いたことがある。いわゆる「やりがい搾取」というやつだ。「やりがいと引き換えに搾取する」ということだ。
 搾取されている人たちは「あなたの名前で訳書が出るんですよ! お金は問題ないでしょう! でも、もしもこの印税率が嫌なら、ほかにやりたい人はたくさんいるのでそちらに回します」と言われる。そして「ほかにやりたい人」は、確かにたくさんいるのである。ワード単価4円の買い切りだろうと印税率4%だろうと、それでも出版翻訳をやりたいと強く望んでいる人は大勢いる。

校正者には「やりがい搾取」は関係ない

 でも、校正者にはそういう搾取はない。みんな(名前ではなく)お金のためにやっているはずだ。それなのに、時給に換算すると数百円などとtweetしているのは女性ばかり。
 これはなぜなのか。
 ひとつは、翻訳者と同じく「扶養控除内」でやっている場合、発注者にとってコストを抑えられる、都合のいい存在だからということ。
 校正ではなく翻訳ではあるが、「訳者の名前は出ない」産業翻訳の例を引こう。わたしの友人に、日本の名門大学で英文科を出た後、留学をして翻訳の勉強をし、学士もとった人がいる。
 彼女は現在フリーランスとして翻訳会社から仕事を受け、時給換算でチェッカーをやっている。けれど、驚くほどその時給は低い。在宅とはいえ毎日8時間、週に5日間働いているのに扶養控除内に収まる。年収がそういう額だといえば想像はつくだろう。
 彼女の夫さんは超がつく高収入族で生活に困っているわけではない。「そんな安い仕事はやめなよ」と言ってしまった。すると「だって自分のお小遣いは自分で稼ぎたいじゃない?」と返ってきて何も言えなかった。
 業種を問わず、結局はこういうこと。つまり「扶養控除範囲」の主婦が狙われる。彼女たちは「自分の収入がいくらかでもあったほうがよいし、扶養控除を出るのは、自分というよりも、夫が嫌がる(手取り収入が減るから)」から、低単価に甘んじる。校正者も同じだろう。

扶養を出て高単価で稼いでいる人もいる

 だが、扶養を出てがっつり稼ぎたい、あるいは自分で生計を立てているのでそうするしかないという人だっているはずだ。そういう人も低単価の仕事を受けているのだろうか。
 これまた翻訳者の例だが、知り合いに、夫さんがやはり超高収入という人がいる。妻である彼女は帰国子女のバイリンガル組だ。翻訳は出版も産業もという両刀使い。
 彼女はフリーで仕事を始めて扶養控除範囲を超えそうになったとき、「扶養を出ます」と夫さんに宣言したそうだ。「相談」ではない、自分で決めてこう言ったというところがポイントである。
 校正者も彼女を習って、稼ぐことを目標として「扶養を出る」と夫さんに言い、自分でもがんばって(スキルを磨くだけじゃなく営業面も)高い仕事を見つけていくことは難しいだろうのか。

産業翻訳者は翻訳会社のトライアルを受ければよい。校正者は……

仕事探しという面から考えてみよう。産業翻訳者が自分のレートを上げたいと思ったとき、高単価の翻訳会社のトライアルを受けるという手がある。
 翻訳者同士は情報交換も盛んだ。「どこの仕事が高単価か」は誰も言わないが、「どこは安いか」は、気をつけてSNS発言を見ていればすぐわかる。
 ならば、校正者はどうだろう。校正プロダクションというのはある。けれども、翻訳会社のように「星の数ほどある」わけではないのではないだろうか。よってアプローチもしづらい。
 実際にはトライアルを課して、合格した人には仕事を出しているだろう。しかし、翻訳会社が自社の登録翻訳者を「囲い込」む、つまり自社の仕事だけで翻訳者のスケジュールを目一杯押さえてアサインするというのは、大手ならごくふつうのことだ。他社にとられないように、便利な存在として「自社の」スタッフにしておけるようスケジューリングしているということ。
 一社依存を否定する人は多いが、わたしは、ひとつの生存戦略として考えられるパターンだと思う。
 では、校正プロダクションも「囲い込」んでいるのだろうか。残念ながら、そうしている会社はゼロではないだろうが、少ないのではないか。
 つまり、フリーランス側から見てみれば「一社だけの仕事では手が空く時間があり、生計を立てるには足りない」ということではないか。

校正の派遣はどうか

時給数百円でフリーランスの仕事をするくらいなら、派遣に行ったほうがよい。これも考え方のひとつだ。それについては下の記事に「時給1,800円ならなんとか生計も立つ」だろうと書いている。

 問題は、どの程度仕事が存在するかということだ。twitterにちょっと流れてきている程度しか知らないが、なかなか競争率が高そうである。校正スキルを持っている人ならば高い確率で狙った職につけるというくらいの母数があるならよいのだが。

校正者はギャランティを交渉できるか

 最後にギャラ交渉の話を書こう。
 出版翻訳でも、翻訳者側が「自分の印税は◯%以上」と出版社に提示してから仕事を受ける人はいる。だがそんなことをすれば仕事がなくなると思っている人が大多数だろう。
 産業翻訳はどうか。こちらならば、「有り」だと思う。応募の段階で翻訳者側が単価を提示し、受容されたらトライアルを受けるということだ。翻訳会社側に翻訳者の「単価レンジ」が存在し、たとえば8円から16円の間であったとする。そこで8円の翻訳者が10円にしてほしいといえば、受注量は減るかもしれないが単価そのものは上がるかもしれない。
 また、トライアルを受け続けてレートのよい翻訳会社を狙っていくというのは産業翻訳では一般的な手段である。そうやって、自分の価値を少しずつ上げていくというのはよくある。
 では校正プロダクションや編集プロダクション、出版社はどうなのだろう。わたしが仕事を受けているところは、たぶん校正者「全員」におなじ単価で出しているはずだ。じっさいにそう言われたこともある。
 こうなると、ギャラ交渉をするだけ無駄である。「うちの条件でできないなら登録しません(または登録抹消します)」となるだろう。もっと単価の高い取引先を開拓していくしかない。

単価の高い校正案件とは

翻訳では、一般に出版翻訳の方が翻訳者の取り分は低く抑えられていると思う。金銭面だけを考えれば、産業翻訳の方がずっとよい。長年翻訳業界にいたからよくわかる。
 校正はどうだろう。やはり、出版校正では食べていけないと言われる。商業案件ならばギャラはもっと高い。校正一本で生計を立てている人は、多少なりとも商業案件を持っているはずだ。
 ということで、どうだろう。校正者で単価があまりにも安すぎる、と思うならば「派遣校正者の道を探す」、それが難しければ「商業案件を扱っている校正プロダクションに応募する」方向があるはずだ。
 嘆いている間に別の道を探そう。または、本に関する仕事であれば、時給は高くはない(もちろん「最低賃金」は上回っている)けれども、TRC(図書館流通センター」)に応募するという手もあると思う。下にリンクを貼っておく。


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