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「みんなの経済新聞」を読む

略して「みん経」。全国紙に載るほどのことでもない、しかし気になる地域のニュースが読めるウェブサイトで、読んでいて楽しい。今日も少しずついろんなことが動いていて、日本各地で平穏な日常が、小さな変化を孕みつつゆるゆる動いているのを感じる。

例えば熊谷(くまがや)のこんなニュース。「ドラゴンクエストウォーク」とコラボしたお饅頭が発売されるらしい。「ドラクエと饅頭のコラボ……?」と思った人はぜひ記事を読んでみてほしいのだけど、一応コラボ内容だけ引用しておく。

”コラボ商品は、3匹のスライムの焼き印を押した「スライムタワー」=1個、10万ゴールドの焼き印を押した「10万G」まんじゅう=4個の計5個を、「うまい、うますぎる」とつぶやくスライムの姿を描いた特別イラストパッケージに詰め合わせる。価格は780円”

だそうだ。「ドラゴンクエストウォーク」が何なのか、そもそも知らなかったので調べたところ、ポケモンGoに似た何かであるという結論に達した。スマホを持って外に出て、ゲームの世界を体験できる。外出ついでにスライム饅頭も買って食べてね、というのが今回のコラボらしい。こんなこと新聞には載らないけど、知っていたらちょっと楽しい。

他にも「町田ゼルビア、秋田に敗れる J2リーグ第18節」「JR東中野駅115周年で記念グッズ販売 番線ごとの色違いTシャツが人気」「山形駅裏に小さな和菓子店 あんこから手作りのもなかも」などなど、ご当地ニュースが並ぶ。大きく報道されることももちろん大事だけど、こういう人々の暮らしが直に伝わってくるのもいいな、と思う。

普段は「自分が暮らしている地域」と「全国ニュースで報道された場所」しか意識にのぼらない。同じ国の中で、それぞれの地方の人が何をしていたか、知る由もない。そういうのが、ずっと少しだけ嫌だった。同じように日々を生きていながら、お互いに存在しないかのように暮らす。なんか違うな、と思っていた。

テレビで流れるのはたいてい東京の事情ばかりで、あとは耳目を惹く事件や事故のこと。そのほか周辺地域以外の話なんて、何かしらのスキャンダルが起こらない限りまず入ってこない。

もちろん、報道時間には限界がある。重要な出来事が繰り返し放送され、些細なものは切り捨てられるのは当然だ。とはいえ、だからといってその気持ちが払拭されるわけじゃない。どこでも人々は生活しているはずなのに、報道に乗せられない地域の暮らしは、まるで存在しないみたいだ。それが小さな違和感になって、ずっと引っかかっていた。

だから、こういうローカルな報道を見ると安心する。今日も人々がちゃんと生きていて、見える場所にいてくれると安心する。知らない町のサッカーチームや、どこかで115周年を迎えている駅、東北に出来た小さな和菓子店のことを考える。「大きな」ニュースの影に隠れながら、ちゃんと日常が、緩やかに変化しながら続いていることに安心する。

いつだったか、雑誌「ブルータス」が「アンチ東京、クールローカル」を表紙に掲げたことがあった。「そんなこと言っても、雑誌の本社はどうせ東京でしょ」と言いたくなる気持ちを脇に置けば、あれは結構いいコピーだったと思う。

それは「東京が嫌い」という意味ではなくて「ローカル」=「人々が暮らす小さな単位、その土地」に注目する点で。東京の中にもローカルはある。中野のニュースと、おとなり新宿のニュースは違う。そういう「その土地」性、ローカリティへの注目が、なんかいいなと感じたのだ。

ちなみに「ドラクエウォーク」とコラボしているのは饅頭だけでなく、博多では「スライムにわかせんべい」なるものも出ているらしい。お近くの方はぜひぜひ。

https://hakata.keizai.biz/headline/3588/


本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。