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HR戦略によって成長するスタートアップ企業の特徴とは? |UTEC様インタビュー後編

UTEC(株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ)の飯沼様は、投資先のスタートアップ企業に対して採用リファラルから経営陣へのコーチングなど人事にまつわる様々な支援を担うVCHRとしてご活躍されています。取材前編では、飯沼氏がVCHRになるまでの経緯やミッションをはじめ、スタートアップ企業でHR領域への投資が後手になりやすい現状とその背景などをお話いただきました。
 
後編では、HRが企業成長に寄与しているスタートアップ企業の特徴や、社長に求められる採用スタンス、CxO採用のポイントについて掘り下げていきます。
 
前編はこちら
https://note.com/preview/n710e22c8d936?prev_access_key=a6b6cba53712f3d9f3384bfc3a55022b
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IPO前後のスタートアップ企業ではHRにどう取り組むべきか

ー採用や人材の価値発揮などに成功しているスタートアップ企業には、どのような特徴があると思いますか?

HRが成長に寄与しているスタートアップ企業には、自社や経営者自身の状態を正しく把握して採用戦略を立てていること、社員の役割や期待値コントロールに長けていること、そして経営者の役割がスムーズに移行していることの3つの特徴があると思います。それぞれ詳しくご説明します。

 1.自社を正しく客観視して採用戦略に落とし込む力

事業成長のために今どんな人材が必要なのかを見極めて、戦略的に採用に取り組める企業は大きく成長していると思います。正しく見極めるためには、経営者が自社・経営者自身を客観視して「今できていること・できていないこと」を正しく認識しなければなりません。そして、現状を客観視して事業成長に必要な人材を見極める力が求められます。

 正直なところ、ほとんどの経営者が自社やご自身を客観視することに苦慮していると思います。複数の企業や経営者と見比べて、「自社のファイナンスは今良い状態なのか」「自社のマーケティング戦略は正しいのか」と考えるのは難しいですよね。

 それ以前に「自分たちは〇〇できているのだろうか」と考える時間的余裕がない方も多いのではないでしょうか。

ー客観的に人材の優先順位をつけるコツはありますか?

 可能であれば事業計画から逆算してイシューツリーを作成し、ボトルネックを明らかにしたうえで強化すべき組織ファンクションを見極めると、優先順位がつけやすいと思います。

スタートアップ企業は、慢性的な人材不足であるため、あれもこれも任せられる人材が欲しいという気持ちは痛いほどわかります。しかし、実際にそのような人材がマーケットにどれだけいるのか、また求めるタイムラインで採用できるかを考えると、現実的ではないケースがほとんどです。そのような場合私たちからは、ファンクションを2つに分けて考えることをご提案することが多いですね。2つに分けて考えると、片方は既存メンバーでカバー出来そうだとなるケースもあります。事業計画を具現化し、組織ファンクションを整理しながら現実的な要員計画に落とし込むのが大切だと思います。

 VCHRは投資先企業の内情を理解しつつ、一歩引いた立場で客観的に企業を見ることができるのも特徴です。一般論や、他社ではどうしてるのか知りたいなどを含め、冷静な判断が必要なときこそ頼っていただけたら嬉しいです。

ーシード・アーリーフェーズのように事業計画のサイクルが短い場合、要員計画に落とし込みづらいのではないでしょうか?

たしかに、事業計画のサイクルが短いフェーズでは事業変化が大きいですよね。中にはガラッと方針転換を行う企業もありますが、四半期ごとに大きな変化が起こり続けるわけではありません。そのため、繰り返しになりますが、やはり事業計画を言語化したうえで要員計画を立てて、計画にもとづいて着実に進めていくことが重要だと思います。

どのような人材が欲しいのか採用ターゲットを言語化できていれば、多少の事業変化があっても適応できるはずです。

強いて言えば、10名前後の組織規模では事業計画がガラリと変わってしまう場合もあります。このフェーズでは機動力が高く、変化に耐え得る精神力を兼ね備えた人材を狙う必要があると思います。

2. 社員への期待値・役割のコミュニケーションとスムーズな権限委譲

HRが成長に寄与しているスタートアップ企業では、社員の役割を明確化して、スムーズに権限委譲ができているのも特徴だと思います。
 
同じ職種でも企業によって役割は異なり、CEOでさえ営業マネジメントの役割を担う企業もいれば、開発に深く関与するタイプの方もいます。そのため人材要件を定める際は、各ポジションの役割を決めながら、彼ら・彼女らに何を任せて、どのような課題解決を期待しているのかを決めるのが重要だと思います。
 
また、各ポジションの役割を決めるのと同時に、どこまで権限を渡すのかを示すことも大切です。どんなに役割を明確にして期待する成果を共有しても、十分な権限を与えていなければ、目標達成は難しいもの。とりわけ入社者に期待している役割と、本人のやりたいことにギャップが生じてしまうシーンは少なくありません。面と向かって話しづらい内容もあると思いますが、「こんなに負荷が大きいとは思わなかった/こんなに権限がないとは思わなかった」と入社後ギャップを与えないためにも、入社前のすり合わせを具体的にしておくことが望ましいと思います。

 
ー権限委譲をしたくない経営者は多いのではないでしょうか?
 
たしかに権限委譲に課題を抱える経営者は少なくありませんね。権限委譲をしているつもりでも、社員が決めたことを毎回社長にひっくり返されてしまえば、現場から不平不満が出やすくなると思います。実際にメンバーの実力的に任せることが難しい場合もありますが、タイプとしてそもそも権限委譲が苦手な経営者の方もいらっしゃいます。いずれにせよ、経営者が意思決定する事項は、組織の成長と共に変化していく必要があると思います。
 
権限委譲に関しては、委譲したまま放置してしまったり、委譲した後に口を出しすぎてしまったり、なかなか良い塩梅を見つけるのは簡単ではありません。
 
権限委譲した後に放置するパターンは一見問題ないように見えますが、蓋を開けてみたら方向性がずれていたという可能性も。方向性やスピード感に関して、お互いの認識があっているのか、適宜確認が必要です。
 
権限委譲をしたのに口を出してしまうパターンは、過渡期によくあることです。双方の努力をもって徐々に成果に結びつくようになれば、さほど問題視されないと思います。
 
どのパターンにおいても、経営者側もマネージャークラス側もそれぞれ変化が必要になる可能性もありますし、トライアンドエラーをしてみてください。権限委譲が進めば、経営者の役割も変化すると思います。
 
 
ー社員への期待や役割を伝える際に、工夫できることはありますか?
 
少し手がかかる例になりますが、CxOクラスの人材に対して、オファー面談時に入社後3か月間のジャーニーマップを提示するオンボーディング施策を実施することもあります。
 
具体的には、入社後の立ち上がりから活躍するまでの道のりを想定して言語化し、「あなたにはこんなことを期待しています」「一緒に頑張りましょう!」とウェルカムメッセージを添えたものでした。ここまで熱いオファーレターを作成するのは、非常に労力がかかりますが、重要ポジションとの相互理解のためには、このくらい取り組んでも良いと思います。
 

3.経営者の役割がスムーズに移行するスタートアップ企業は伸びている

ー3つ目の特徴である「経営者の役割がスムーズに移行している企業が伸びている」について、詳しく教えていただけますか?
 
売り上げ規模が伸びているスタートアップ企業では、経営者が採用や人事戦略などにも多くの時間を割いているのが特徴的だと思います。とくに、アーリー・グロースフェーズでは、日々の営業活動や開発現場で手を動かすのと同じくらい、HRにコミットされるケースが多いです。
 
私たちが投資先の社長とお話する際も「今どのくらい採用に時間を使っていますか?」という質問を投げかけることが多いですね。具体的には、創業期においてはご自身のキャパシティーの4割程度を採用に充てても良いくらいとお伝えしています。
 
また、企業の成長とともに、経営者の役割がスムーズに移行できている企業は成長が早いと思います。小規模な組織では、企業ミッションや経営者の想いが阿吽の呼吸で全社員に伝わりやすいですが、社員数が50名を超える頃には、経営陣と直接接点をもたない社員も増えていきます。すると、「最近、社長って何やっているんですか?」「企業の方針がよく分かりません」など、経営者と現場間に距離が生まれ始めるのです。
 
とくに社歴の浅い社員は、起業ストーリーやミッションなどを知らないケースも多く、創業初期から在籍している社員とのあいだで認識の差が生まれやすいものです。この状況を放置すると、徐々に社員の考え方や価値観にズレが生じ、業務にも支障が出てきます。
 
一方で、順調に事業成長している企業の経営者は、事業と組織の成長にあわせて自らの立ち回りを変えることに長けています。人が増え、チーム・組織化が進んだタイミングで自身の役割を変え、抱えていた業務をメンバーに任せて、ミッション/ビジョンの発信や中長期戦略の策定に注力ポイントを移行させています。
 
社長自らが先頭に立ち、企業のミッションや想いを自分の言葉で語れば、散らばりがちな社員の意思を統一することが可能です。「この船に乗ると、それぞれのキャリアにはどんなポジティブな影響を与えるのか」と伝えながら、エンゲージメントを高めていきます。
 
このように、組織成長にあわせて経営者の権限委譲を行い、経営者は社員に期待する役割を伝える立場に移行できると、強い組織状態を維持しやすいと思います。
 
 

強い経営チームを作るためのCxO採用のポイント

 
ー最後に、CxO採用についてご質問させてください。シード・アーリーフェーズのスタートアップ企業では、とくにCxO採用が重要になると思いますが、強い組織を作るためのCxO採用で心がけるべきことは何ですか?
 
CxO採用にかかわらず、期待することを明確にすることが大切だと思います。繰り返しになりますが、「どんな役割を与えるのか」「どのような成果を期待しているのか」「目標達成のためにどこまで権限委譲をするのか」。この3点をセットで伝えることが重要です。
 
加えて、CxOが参画する事業フェーズが早いほど、ミッション共感や経営者との相性も重要な指標となります。初期のころに採用するCxOほど、採用時に合意した役割や期待すること値が事業・組織の成長と共に変化する可能性が大きいため、経営者と候補者は、お互いしっかり相性を見極めていただきたいです。そのためどんなに忙しくても、口説きたい方には社長自らが時間を割いていただくのが良いですね。それ自体がアトラクトにもなります。
 
 
ー経営層との相性を見極めるコツはありますか?
 
CxOと経営層の相性を見極めるためには、入社前にお互いを知る時間を可能な限り設けることが有効です。例えば、業務委託として参画していただき、一緒にプロジェクトを回しながら双方を見極めたり、入社前に多くのメンバーと会ってもらったりする方法が考えられます。
 
また候補者からご紹介いただいた方へのリファレンスチェックも必須です。ただし、何も仮説を立てずに漫然とリファレンスを実施すると、ネガティブチェックで終わってしまうこともあるため注意が必要です。なお、UTEC HRチームでは、CxO採用におけるリファレンスチェックや業務委託期間の設定、入社前に会ってもらう社員の人選などのクロージング施策も、投資先とともに考えていきます。
 

これからも投資先の経営者・人事の拠り所になるために

前編からお伝えしてきたように、HR施策は大事だと思いつつも、どうしても後回しになりがちです。しかし、後回しにしすぎると取り返しがつかなくなるケースも多々あるため、組織崩壊・大量離職などを避けるためにも、VCHRとしてスタートアップ経営者とHRをテーマに支援を続けていきます。何よりもスタートアップ企業の「事業成功が1番」と考えているので、その手段としてのHR支援に従事していきたいです。
 
また、私はスタートアップ企業の現場で手を動かしていた経験もあるので、「そんなこと言われてもできないよ」「綺麗ごとばかり言わないで」と感じる気持ちも分かります。皆さんの気持ちを汲み取りながらも、事業成功に向けて伴走していきたいです。
 
UTECのVCHRは、投資先に強い経営陣を作ることを目標に、採用活動や評価制度構築など幅広いご支援をしているので、ぜひお気軽にご相談いただきたいです。
 
 
 
 

スタートアップイニシアティブリーダー筒井より取材後コメント
 

特にアーリー・グロースフェーズのスタートアップ企業において、なぜ人事の取り組みが重要か、ポイントとなることは何か飯沼様のお話からリアリティを持って実感できました。また、スタートアップ企業が人事を検討するということは、経営者自身が自社のマネジメントのあり方を考えることであり、まさに経営の重要な仕事であると感じます。成長し続ける会社をつくるためにも、まずは経営者が人事に意識を向けていただくような機会が少しでも増えるとよいと思います。
 

インタビュアー/ 記事企画:マーサージャパン 筒井祐輔


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