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成功するスタートアップ企業の人事戦略とは?|UTEC様インタビュー前編

スタートアップ企業において、即戦力人材の採用や、既存社員の力を最大限に引き出す人事施策が欠かせません。「人材は大事」と頭では分かっているものの、事業づくりを最優先するためにHRの優先度が下がってしまう企業は多いのではないでしょうか。

今回は、「スタートアップHRの重要性」をテーマに、ベンチャー企業への投資を通じて起業支援を行う UTEC(株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ)のHRマネージャーとして投資先の人事支援を行っている飯沼氏にインタビュー。投資先のスタートアップ企業に対して採用リファラルから経営陣へのコーチングなど人事にまつわる様々な支援を担う VCHRならではの支援スタイルや、スタートアップ企業がHRに取り組むべき理由、CxO採用のポイントについてお話を伺いました。

人物紹介|HRマネージャー 飯沼 舞子氏
2021年9月より、UTEC参画。投資先の組織開発、経営者候補の採用を含む人事活動全般を支援。IBMにてシステムエンジニア及びソフトウェアマーケティング職を経て、エグゼクティブサーチファームに参画。テクノロジー、コンシューマーグッズ領域のアソシエイトとして、国内外のクライアントに対する経営人材の外部招聘に従事。
前職では、データ活用のITスタートアップにてバックオフィスの初期メンバーとして参画。その後、人事採用担当マネージャーを務める。

公式HP:
飯沼 舞子|MEMBER|UTEC-東京大学エッジキャピタルパートナーズ (ut-ec.co.jp)


ヘッドハンティング業・人事経験を活かしてスタートアップ人事の支援に従事

ー今までの経歴を教えてください
UTECでHRマネージャーとして、投資先の人事支援を行っている飯沼です。新卒ではIBMに入社してエンジニアとマーケティング職を経験し、その後 ヘッドハンティングファーム に転職してHRのキャリアをスタートさせました。

6年ほど転職支援を行った後、テック系のスタートアップ企業にバックオフィス1人目として転職。事業会社の人事に立場を変えて、人事、総務、労務などの役割を担い、10名から50名規模に企業が成長する過程を共にしました。

ースタートアップ企業からUTECのVCHRにキャリアチェンジした理由は何ですか?

たまたまVCHRの存在を知り調べてみたところ、ヘッドハンティング業やスタートアップ企業の人事職の経験・知識を、フルに活かしながら新しいチャレンジも出来ると思ったのが入社の決め手ですね。採用に軸足を置きながら人事コンサルタントのようなことまで経験を広げられたことは、結果的に良かったと感じています。

また、スタートアップ企業のHRポジションで働いていた当事者として、スタートアップ企業ならではの苦悩を理解し、寄り添った支援をしたいと考えました。

現在の支援先は多くても50名規模の企業が多く、私の経験した企業規模と重なるため、より一層今までのキャリアが活かしやすいと感じています。

ーUTEC様のミッションや特徴を教えてください

UTECのミッションは、テクノロジー・サイエンススタートアップによるエコシステムを作ることです。国内の投資先はシード・アーリーフェーズの企業が中心で、ほとんどがリードインベスターとしての参画となります。

UTECでは次の3つの投資戦略を掲げています。

①優れたサイエンス、テクノロジー
②強力なチーム:①を活かした事業を推進するプロフェッショナルマネジメントを重視
③グローバルな市場や課題:設立当初からグローバル市場や、人類課題の解決を志向

投資先企業の事業ドメインは、Life Science&Healthcare、 Physical Science&Engineering、 ITの3つに大別されます。シード・アーリーなどの早いフェーズから関わるため、研究者の先生と共同創業をしたケースが豊富な点も特徴的です。
 
 
ーどのような投資実績がありますか?

UTECは、2024年4月1日に創業20周年を迎えました。2004年の創業以来、累積847億円・5本のファンドを運営し、150社の投資実績のうち20社が株式上場、20社がポジティブなM&Aを達成しています。現在アクティブな投資先は70〜80社ほどあり、多様な事例を保有しているのが強みです。

ちなみに、「東京大学の研究者が関与する投資先にのみ、投資をしているのでは?」と言われることがありますが、弊社は独立系VCであり、投資先スタートアップは国内外多岐に渡ります。

また、「バイオやマテリアルなどの研究開発を伴うディープテックしか投資をしないのでは?」と勘違いされることもありますが、実際はディープテックを含めた幅広いスタートアップに投資しています。

基本的には、サイエンス・テクノロジーを強みとするスタートアップ企業様にシード・アーリーフェーズからご一緒し、ファイナンス面だけではないハンズオン支援を行うことが多いですね。

スタートアップ人事の「心の拠り所」となるVCHRの価値とは

ー改めてVCHRの役割、ミッションを教えていただけますか?
 
私たちは、投資先企業のHR支援を通して、強い経営陣・組織体制づくりに貢献することをメインミッションとしています。単に採用代行や人事施策の助言をするだけでなく、「事業・組織づくり」を重要視しているのがポイントです。

具体的には、採用に関しては事業計画から落とし込んだ組織計画を一緒に考えるところから、採用ターゲット・採用手法の選定、求人票作成といった採用に関するインフラ構築まで、また組織開発では組織診断や人事評価の制度設計などのご支援をしています。

採用はあくまでも手段ととらえて、「どうしたら投資先企業の事業成長につながるか?」という目線を常に意識していますね。
 
 
ーなぜUTEC様ではVCHRに注力されているのですか?

多くのVCでは、投資先へのHR支援として、キャピタリストの人脈を活かした人材のご紹介を行っていると思います。しかしファンドが大きくなるほど、複数の投資先企業の採用ニーズに機動的に対応することは、容易ではありません。

また、シード・アーリーフェーズのスタートアップ企業には、創業当初からHR経験者が在籍しているとは限りません。くわえて、HRのスペシャリストを早期に採用するのも難しく、「HRの相談先がない…」とお困りの企業が多くいらっしゃるのが現状です。

スタートアップ企業の事業成長には、人・組織力の強化が不可欠ですから、VCとしてHRの専門チームを置くことは自然な流れだったと思います。

ースタートアップ企業のHR支援がなぜ重要と考えているのでしょうか?

HR支援があることで、スタートアップ企業における成長のスピードは大きく変わってくると思っています。人事業務を効率化する便利なシステムや、HRを支援する協業会社も多数存在しますが、「どの人事システムを選ぶべきか」「このエージェントに相談していいのか」「そもそも何から手をつけたら良いのか」など、もっと手前の部分でつまずくケースが多いためです。
 
たとえば、CxO採用をするにもCTO、CMO、CHROのどのポジションから採用すればいいか分からずお困りの方もいらっしゃいます。採用活動が熾烈化、複雑化している中、転職エージェント、リファラル、スカウト、RPO、採用広報など幅広い採用手法から適切なものを選び、戦略・実行へと進めるのも非常にパワーが必要です。

スタートアップ企業では事業づくりやファイナンスが最優先ですから、経営層の手を煩わせず、効率良く経営人材の組織づくりに取り組むために、サポートが重要だと考えています。

スタートアップHRは「変化への適応力」「見極め力」が重要

ースタートアップ企業のHRでおさえるべきポイントは何ですか?

スタートアップ企業のHRでは、事業戦略や事業フェーズなどの 変化に適応する力や、事業状態にあわせた人事戦略の見極め力が重要だと考えます。 HR施策に関しても、皆がやっているからうちでもやろう、は危ないと思っています。

たとえば、ライフサイエンス、フィジカルサイエンスのような分野では、人材を大量採用するよりも「既存社員の質を高めたい」「既存社員がよりバリューを発揮できるような人事施策を取り入れたい」という論点が中心となります。

一方、SaaSプロダクトを提供するIT企業であれば、年間の採用目標が数十〜百名単位となりやすく、スピーディーに複数ポジションを採用する力が求められます。

このように、スタートアップ企業の事業状態を見極めて、「今の自社の人事組織課題に対して、必要なHR施策は何か?」と正しく判断する力が必要ということです。事業ドメイン・事業フェーズ、掲げた事業計画によってHRの役割は変動しますから、企業の内情にあわせて柔軟に動かなくてはなりません。

仮に、人事戦略や施策が一人歩きをしてしまえば、事業の変化に適応しきれず、十分な成果は得られないですよね。企業の中長期的な成長戦略のためにも、HRの立ち回りは重要と考えています。
 
 
ーHRが大切にもかかわらず、スタートアップ企業のHRが後回しになりがちなのはなぜだと思いますか?

「人材が大事なのは分かってはいるんだけどね…」とおっしゃる経営陣の方は多いものの、HRの取り組みは緊急性が高くなりにくく、かつ成果が見えづらいためだと思います。

スタートアップ企業は事業そのものの変化も激しく、事業とファイナンスが最優先のため、HRにコスト投下しづらいのが実情です。人事組織課題は言語化しづらいことも、経営陣間で共通認識を持つハードルになっていると思います。

とはいえ、曖昧なままにしておいた結果、課題が深刻化してしまうケースもあります。それこそ優秀な人材から退職申出をされてから慌てても、引き留めるのは難しいですよね。

失敗して初めて気付くケースも多々ありますが、やはり早期に課題を特定して取り組んでいくことが大切ではないでしょうか。そういう意味では、2回目、3回目の起業家の方々は、事業や組織拡大の過程で起こりうることをある程度予測できていることが多いと思います。

企業規模が小さいアーリー・グロースフェーズのスタートアップ企業こそ、一人ひとりの影響力が大きくなりますから、HR施策が担う役割は大きいと思っています。

ー適切な人材戦略を描くために必要なことは何ですか?

VCHRとして採用手法の選定や人事施策の検討をする際は、事業計画やファイナンス情報、組織構成、カルチャーなどできる限りの情報を集め、その企業を多面的に理解することを意識しています。

本来、事業目標を達成するために事業計画があり、事業計画を達成するために組織・人の計画があります。単刀直入に言えば、人材を確保する目的は事業利益の拡大ですから、採用計画単独ではなく、事業計画からブレイクダウンして考えることが必要です。

企業から提示された求人票(新規ポジション案)に対して、「わかりました!では求人掲載しましょう」と進めるのは簡単です。そうではなく、大きなポジションであればあるほど、そのポジションの優先度を事業計画や市場の需給から考える想定タイムラインに照らし合わせて、自分なりにもう一度考えてみるようにしています。

また、事業戦略や成長までのロードマップを深く理解できるのは、VCHRならではの強みともとらえています。

見切り発車採用は危険!スタートアップ企業のよくある失敗談

ースタートアップ企業への注意喚起として、よくあるHR失敗談があれば教えていただけますか?

事業計画と要員計画を無視して勢いで採用してしまい、うまくいかなかった事例はよく見聞きします。

「ポジションはないんだけど、たまたま良さそうな人材がいたから採用してもいいかな?優秀そうだから、何かしら任せられるだろう」と見切り発車で採用をしても、創業期など一部条件下を除き、上手くいくケースは多くはありません。

この場合は、新しく入る人が何をする人か、どのような課題を解決する人かが決まっていることが大切だと思います。たとえ採用した方の総合力(経験/スキル等)が高かったとしても、その時のその企業に必要なスキルとのフィットがなくければ、継続的な活躍は見込めません。 ピカピカな経歴でマルチスキル、何でもできそうな優秀な方がいると、是が非でも採用したくなる気持ちはとてもよく分かりますが…

こういったケースを避けるためにも、今の組織に必要なポジションの要件が明確化できていることが重要と考えています。

事業や資金の内情に詳しいVCだからできるHR支援とは

ー改めて、VCHRが提供できる価値について教えていただけますか?

投資先企業の経営事情(事業/ファイナンス/組織)を深く理解している私たちだからこそ、相談の際に、企業様の安心感を醸成できると考えています。また、投資先から追加費用をいただかず、キャピタリストと共にVCHRがチームに加わるため、 コスト面のメリット もあると思います。

VCHRは、採用支援の一歩先に行くことを求められていると思います。投資先企業の成功が私たちVCの成功でもあり、いわば運命共同体の立場だからこそ、事業に深く入り込んだご支援が可能です。

個人的には、投資先企業とキャピタリストのあいだに立って、キャピタリストとまた違う関係性を投資先企業の方々と築いていけたらと思います。キャピタリストは時には投資先にとって耳の痛いことを伝える役割もあるので、その際にはVCHRを第二の窓口として考えていただけると嬉しいです。

今後も経営者や一人目人事の心の拠り所になれるよう、尽力していきたいと思います。

~編集後記 ~

前編ではUTEC様のVCHRの特徴や、スタートアップ企業がHRに取り組む重要性についてお話いただきました。後編では、スタートアップ企業がHR施策の優先度をつける方法や、候補者への期待値調整、CxOなどのハイレイヤー採用のコツなど、具体的なアプローチ方法について掘り下げます。

インタビュアー/ 記事企画:マーサージャパン 筒井祐輔


「エンジニアの報酬設定がむずかしい」というスタートアップ経営者の課題への一助となることを目指し、マーサージャパンではスタートアップ向けエンジニア報酬調査を実施しています。

調査にご参加いただいた方には、無料で調査結果レポートをお送りしています(報酬水準、株式報酬の支給状況などを集計)。

この調査には、複数のベンチャーキャピタルにもご協力いただき、多くの国内スタートアップが参加しています。まだご参加いただいていない場合は、ぜひこの機会にご参加ください。

本調査の趣旨にご賛同いただけるスタートアップのお知り合いの方への共有も大歓迎です!