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オフィスの壊れた椅子が、腰掛けられるアートに。magmaとともに手掛けた「再生」のお話。

2020年6月。人もまばらなメルカリオフィスのエントランスに、新しい椅子が届きました。新しい椅子というと、ちょっと違うかもしれません。もともとエントランスで長く使用され老朽化していた椅子をもとに、メルカリで購入した資材を組み合わせることで再生した、腰掛けられるアート作品です。

手掛けたのは、アーティストユニット「magma」の2人。新しい価値を持つ椅子とロゴアートがつくられた経緯、そこに込めた思い、ものづくりへの姿勢について、magmaの杉山さんと宮澤さん、そしてメルカリ相樂の3人の対話を通してお届けします。普段のデザインブログとは違う形式ですが、どうぞお付き合いください。

※撮影は自粛要請が解除された後に最小人数で実施し、インタビューはオンラインで行いました

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magma
杉山純と宮澤謙一によるアーティストユニット。
廃材や電動器具などを組み合わせ創りだす独自の世界観で、作品制作のほか、家具やプロダクト、空間演出まで幅広く手掛ける。
2017年に活動10周年を迎え、ラフォーレミュージアム原宿で大規模な個展を開催。
どこか懐かしさを覚えるアナログ感とクレイジーな色彩が融合した作品群は、国内外から注目を集めている。
http://magma-web.jp
相樂園香
メルカリデザイナー
Brand Managementチームにて、主にブランディング業務を担当。

社員ひとりひとりが伝えられる、エントランスのストーリー

ーはじめまして。magmaさんがメルカリのために椅子をつくってくれると聞いて、とにかく嬉しく思いました。まずはこのプロジェクトがはじまったきっかけについて教えてください。

宮澤:ありがとうございます。最初のきっかけは、実はけっこう前ですね。メルカリさんには別のプロジェクトでお声がけいただいたんです。でも、その企画が頓挫してしまって。その後に、あらためてメルカリの相樂さんから「エントランスの椅子をつくってもらえないか?」とお声がけいただきました。

杉山:2019年の夏だったかな?サンダルを履いてた記憶があります。

相樂:私はサングラスをかけてたから、夏ですね。

ー紆余曲折あったんですね。メルカリからお声がけさせていただいたときは、どう感じましたか?

宮澤:まずは単純にびっくりしましたよ。メルカリさんから声をかけてもらうとは想像していなかったので。

杉山:Whateverのクリエイティブディレクター・川村さんとは以前から何度かごいっしょさせてもらっていたんですけど、彼が以前メルカリのロゴリブランディングに関わっていたと聞いて、おもしろそうだなって思いましたね。

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ー普段から、企業といっしょにものづくりをすることも多いのでしょうか?

杉山:そうですね。普段は依頼されたアートワーク制作が多かったりします。スポーツブランドやファッションブランドのイベントとか、ホテルのエントランスだとか、あとは映画のアートワークなどもつくったことがあります。


宮澤:自分たちで自由に作品をつくるのとは少し違って、そこにお題やルールがあるからこそ、おもしろいんですよ。


ーそういった並びのなかで、メルカリは少し毛色が違いますよね。相樂さんに聞きたいのですが、どうしてmagmaさんにお願いしたのでしょうか?

相樂:もともと「オフィスのエントランスがちょっと暗いよね」っていう話があったんです。企業の顔になるところなのに、これでいいんだっけ?って。オフィスに訪れるひとが「メルカリらしさ」を感じられて、お客さまを迎える社員ひとりひとりが伝えられるストーリーが持たせられたらいいなあ、と思っていたんです。

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制作途中のロゴアート。さまざまな素材を元に生まれました。「多様なモノが集まり、新たな価値が生まれるマーケットプレイス」というコンセプトを表現しています。ちなみに、magmaさんによるネーミングは、『mercari魂』。

ーメルカリらしさってどういうものか、改めて教えてください。

相樂:メルカリは「循環型社会」の実現を目指しているのですが、簡単にいうと、「地球資源が大切に使われ、誰もが豊かに暮らせる社会の実現」ですね。ものがあふれた社会で、全く新しく作るのではなく手をかけて再度使うという思想をもっと大切にして、ひとつひとつの空間にも反映させていきたかったんです。

ー北欧には、家具は新しく買う物ではなく引き継ぐ物である、という考え方がありますね。そこでmagmaさんに依頼したのはなぜでしょう?

相樂:以前、magmaさんのインタビューを拝見して、すごくいいな、と思ったことがあって…。廃材を用いて制作した作品について語っている内容です。こちらの記事ですね。「作品として展示したとき、見る人が廃材の原型を知っていて、『あ、これってアレだよね』って気づく姿を見ると嬉しくなるんです。要は"いらない"とされて、底辺まで下がったモノの価値が、再発見されることでふわっと浮かび上がってきた瞬間、"見直された"と感じるんです。」あとは、単純に個人的にも大好きだったので、ぜひ、とお願いさせていただきました。

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さまざまなサイズ、種類の木材をつなぎあわせてひとつのベンチがつくられていきます。

もともとあった椅子と、メルカリで集めた素材がひとつのアートに

ーこういった背景をもとに、実際に制作されていったわけですが、どんなコンセプトを掲げたのでしょうか?

宮澤:メルカリさんから、エントランスの木製の椅子が老朽化していて、少し壊れ始めたりしているっていうのを聞いて、まずはその椅子を使いたいなと思ったんです。もともとそこにあった椅子をもとに、エントランスのかたちにハマるようなモノにしたい、と。

相樂:しみがついていたり、ネジがガタガタになっていたり、椅子の写真を細かくお送りして、それを見ていろいろ考えてもらいました。

杉山:提供していただいた椅子の他にも、メルカリを使って素材を集めたんです。僕らは日常的にメルカリを使って作品の素材を手に入れたりしているんですけど、その過程を丁寧に記録して、ひとつの作品がかたちになるまでを追っていったというかんじです。

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ー普段からメルカリを使っていただいているんですね。これまでどんなものを買いましたか?

宮澤:一時期は、「ジェンガ」を買い集めていました。

ーあのおもちゃのジェンガ?

宮澤:そうです。大量のジェンガを使ってテーブルを作ろうと思ったことがあって。メルカリで中古のものを集めました。味が出ていたり、微妙にシリーズが違ったりしているのがおもしろくて。自分は移動していないのにアプリだけで探せるっていうのは本当に便利だなって。

ー今回の作品用にはどんなものを?

杉山:大工さんが使っているような足場板ですね。正規で買うと高いんですけど、カットして余った端材がメルカリにあって、安いし、ペンキがついていたりして、かなりいい雰囲気でした。

ーその端材を、もともとメルカリのオフィスで使用していた椅子と組み合わせているんですね。

杉山:そうです。メルカリのエントランスにあった6脚の古い椅子をいちど分解して、パーツにわけて、そしてもう一度椅子を作り直す、というプロセスでした。8〜10人掛けくらいの椅子になっています。待合の場所でもあるから、椅子としてちゃんと座れるもの。暗めの空間だったので、少しピンポイントでライトが落ちるような設計になっているんですよ。

ー技術的にこだわったところについても教えてください。

杉山:メルカリで購入した足場板の端材は、本当に不揃いなものだったので、つくりやすくはないんですよね。きれいなものを適切にカットするほうがスピードは速いし手間もかからない。どんなものが来るのか実物を見るまではわからないこともあるし、実際に届いた端材を繋ぎあわせていくなかで、細かい作業はたくさん増えるんです。でも、木材を整えながら構成するという制約の向こうには予定調和じゃない仕上がりが待っているんですね。すごく大変なんですけど、そこがおもしろいし、こだわったところかもしれません。

宮澤:柔軟に変更しながらつくるのは、すごく楽しいですよ。最初は絵(図面)を描くところからスタートするんですけど、それがどんどん変わっていくんです。実際にできたものは座面と脚がずれていたりして、違和感があると思います。でも、普通に座れるものになっています。

ーお二人はどのように分業を?

宮澤:今回は、僕がメルカリのロゴのアートワークを。椅子を杉山が担当しました。

杉山:ふたりそれぞれが手を動かして作っているんですよ。

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コラージュには、時計、オカリナ、パズル、工具入れ、マトリョーシカ、食品サンプル、おままごと用のおもちゃ、ツボ押しマット、積み木などが用いられています。

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様々な端材を用いて、統一感と違和感が共存した作品をつくりだすのは、magmaさんのセンスと技術があってこそ。

価値がないとされ、捨てられてしまうものを見出す醍醐味

ーたとえば、捨てられてしまうものを減らそう、というようなことを考えたりするんですか?

杉山:僕らの作品の素材には「誰かに捨てられたもの」を使用することが多いのですが、そこにリサイクルという意識はありません。メルカリで買うものは、僕らにとってはあくまで材料。自分たちのものになったら、それをどううまく使っていくかということを考えます。シンプルですね。

宮澤:ホームセンターとか木材屋さんで板を買ったり、リサイクルショップでテーブルを買ってそれの使いたい部分だけ切り取って素材として用いたり、素材の調達方法はいろいろありますよね。僕らはそういうなかで、メルカリを使って買うということがひとつの当たり前の選択肢としてあるっていうことなんです。そこは、あまり意識せずに、フラットに使っています。

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そして完成したのが、世界に一つだけのベンチ。ネーミングはそのまま「メルカリズ・ベンチ」なのですが、響きがあの座り心地のいい高級車に似ているような…。

ー素材をたくさん集めて、ストックして、何が出てくるのかわからないブラックボックスみたいな感覚もあるのでは?

杉山:そうですね。用途ありきで買う場合もあるし、何に使うかわからないけど気に入って買う場合もあります。メルカリで木材を買う場合、一度加工されているものなのに、そのままの木材を買うより安かったりするんですよ。本当は高いものなのに、安く売っているってことがたくさんあります。昔、ロデオボーイのモーターが必要になって探していたことがあって、そのモーターだけを注文して買うと数万円するのに、メルカリでは1000円くらいで買えたりして。

ーものの価値について考えさせられますね。

宮澤:たとえば、音楽とかもそうかもしれませんが、全く評価されず、価値がないとされているもの、今は流行っていないとか、世間から置き去りにされているもの、クオリティーはやけに高いのになんらかの理由で需要がないけれど、自分たちだけには刺さるもの。そういったものに手を加えるのは、醍醐味です。

ー最後に、お二人がこれから、どんなことをやっていきたいか、教えてください。

宮澤:怪しげな遊園地の乗り物とか、田舎のパチンコ屋の大きすぎる看板とか、もし閉店して廃棄されてしまったら、もう二度と出会えないような物体を作品に使ってみたいです。

杉山:さまざまな企業や人と関わりながら、おもしろいものをつくって、ちゃんと影響力がある、という存在でありたいと思っています。

ー今回の取り組みが、少しでも後押しできたら嬉しいです。ありがとうございました。

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新型コロナウイルスの影響で、現在メルカリはオフィスへの出社を推奨していません。感染拡大の予防のために、企業として最善を尽くしていきたいと考えています。
けれど、そんな時期だからこそ、空間の価値を感じているというのも事実です。オフィスの役割はこれから少しずつ変わるでしょう。けれど、空間を通して得られる体験、人と人が集うことから生まれる価値は、他に代えがたいものだとも思います。
気軽に、とはもちろん言えないけれど、ほんの少しだけ先の未来、実際にオフィスへお越しいただく機会があれば、ぜひ腰掛けてみてください。

こちらのフォトアーカイブに、椅子ができあがるまでの過程が記録されています。あわせてご注目を。
https://www.behance.net/gallery/97749963/Mercari-meets-magma

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メルカリは「循環型社会」の実現を目指しています。制約を設けたり我慢したりするのではなく、楽しく続けられる方法で、さまざまな文化・芸術を尊重しながら実現に向けて取り組んでいきます。

写真:Kenya Chiba
編集、インタビュー、執筆:Taiyo Nagashima