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リリースから2年。たどりついた「共創するデザイン」

こんにちは!メルペイでデザインマネージャーをしているのぶおです。

メルペイデザインチームで2020年実施してきた「共創するデザイン」、つまりデザインチームにおけるフィードバックループの作り方を、5つの項目に分けて紹介します。
デザイナー同士の担当を重ね合わせることで、お互いにフィードバックしやすい状況を作りました。一方通行でフィードバックするのではなく、みんなが、みんなにフィードバックしていく、そういうお話です。

これまでのメルペイデザインチーム

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先日のメルカンでも記事になりましたが、メルペイが2021年2月で2018年の設立から3年、リリースして2年が経ちました。ぎっしりつまった2年ですが、思い返すとメルペイが4名のデザイナーで立ち上がった当初は、お互いの仕事をラグビーのように横のデザイナーへパスし、向かってくる課題にタックルしながら核となる体験設計やUIを全員でデザインしていました。

2018年、メルペイは何もプロダクトがない状態でしたが、会社のミッション「信用を創造し、なめらかな社会を創る」に共感し入社してくる組織で、メルペイデザインチームは、社会的な意義・想いなどの軸がしっかりとある、とても個性豊かな人たちで構成されていています。

ここで少し、当たり前かもしれない話をします。

デザイナーは利用者に対する高い共感力を求められる仕事です。たとえば、「店舗で決済する」機能を使うお客さまに共感した個別最適も正しいのですが、決済の表裏一体となる事業者向けの機能もまた欠かせない機能です。そこで、機能一つを最適化する「個別最適」だけでなくサービス全体での「全体最適」も常に考える必要があります。個別最適と全体最適を1人のデザイナーだけで考慮しつくすには、とてもコストが高いです。

2019年のリリースから1年がたった2020年、それぞれが異なるプロジェクトを担当することで独自の専門領域を身につけていましたが、個人に背景知識が偏り、プロジェクトを入れ替えにくいという課題がありました。ある程度の属人化は許容してスピード重視で進んできましたが、メンバー全員の良心とプロダクト愛でなんとかブランド・体験・UIそれぞれを繋いでいる状態が続いていました。(そういうタイミング、皆さんのチームにもありませんか?)

共創型のチームを作る

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では実際どういうことをしてきたのか、ということの前にチームの型について。

これまでは、プロジェクトのデザインは1人で担当し、そしてそれぞれが複数のプロジェクトに関わり、必要があればマネージャーやチームでレビューするという体制で行っていたのですが、立ち上げから一貫して定期的なレビュー会などの砦を設けるような方法はおこなわないようにしていました。

理由は、「メルペイに集まったメンバーを見る限り、中央集権的な構チームは合っていない。チームでありつつ、できるかぎり自由度を感じられるチームにしよう」という想いは、マネージャーも含めてチーム全体として一貫していました。

みんな大好き、自由度。でもチームでしょ?結局1人でやるよりも動きやすくならないんじゃない?っていう疑問がありますよね。

複数人のデザイナーではなく1名でプロジェクトのすべてを担当することは、事業やプロジェクトの0→1フェーズにおいて一般的な進め方だと思います。海外、特にUSでは以前から複数人でデザインする風土がありますが、近年では日本のスタートアップでも複数人のデザイナーでプロダクトを作る組織も増えてきています。1人目のデザイナーが同じデザイナーからクオリティを上げるためのフィードバックを欲しい、というケースはよくある話ですよね。(参考: Goodpach社によるDesign Data Book 2019

小規模チームはスピード感を持って業務に臨むことができるという意味ではメリットが大きい反面、2つデメリットがあります。1つ目は、事業や組織のスケールに対しては逆にスピードを鈍化させる要因になること。そして2つ目は、全体最適するコストが高いことです。

この2つのデメリットはメルペイの場合にも当てはまり、できるだけ早く解消したいチーム課題でした。拡大する組織の成長の方が個人の成長よりも圧倒的に早く、個人が組織成長のブロッカーになってはいけないと考えているからです。

ここからが本題です。

プロジェクトとデザインチームで2つのフィードバックループを回す

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まず、どのようにチーム編成を変えていったかを説明します。

これまで通りプロジェクトごとにプロダクトマネージャーと共に進行し、定期的に行うUXリサーチデイで実際のお客さまに調査を行います。今まではこの1つのループのみでしたが、それに加えてこれまで担当だったメンバーと初めて担当するメンバーを混ぜ、前任デザイナーと体験設計から細部まで並走してデザインできるような環境にしました。

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プロジェクトとデザイナーを1:1で組み合わせていたところから、店舗での決済 / 事業者向け機能 / 本人確認など、広めの領域に対して複数のデザイナーに担当してもらうように変更しました。こういった複数人のフィードバックループをデザインチーム内にいくつも作り、どのプロジェクトに対しても1人で担当している時よりも解像度の高いデザインを作り上げることを目標に、一歩一歩進めていきました。

ちなみにですが、メルカリ・メルペイのサービス理解・お客さま体験・UI・トンマナなど、事業背景を理解してプロダクトの細部にまで全体最適化していく過程において、デザインシステムという議論の土台が不可欠でした。「どのように不可欠かというと、デザイナーやエンジニアの中で共通して議論できる土台がないと、どこを共通させてどこを変えるのか」という議論をまとめられないからです。

こういった共有できる仕組みを持つことで、個々のプロジェクトに対して自由度を与えることができるんですよね。

小さな心理ハードルを取り除くこと

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フィードバックをする際に、お互いにフィードバックしやすい状態とはどういう状態か?について考えました。同じFintech領域に関わっているのですが、店舗での決済 / 事業者向け機能 / メルペイスマート払い / 本人確認など、どの領域も深い仕様理解が必要で、初めて担当する人がオンボーディングするにはそれぞれ数ヶ月必要です。

この環境で相談する際に心理的なハードルとなるのは下記ようなケースではないかと仮説を立てました。

相談する側:
・誰からも反応なかったらどうしよう
・反応ないけどわかりづらかったかな、このまま進めていいのかな...

フィードバックする側:
・背景理解あってるかな、的外れなコメントしていないかな
・前提がわからないかも...他の人の方が詳しそう
・フィードバックしたとしてどれだけ修正する時間あるのかな

どれも、同じオフィスで一緒に仕事をしていたら解決しやすかったかもしれません。しかしオンラインでのリモートワークが進んだ2020年、環境が大きく変わり、上記のような課題が浮き彫りになってきました。

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そこで、「オンラインで働くための新しいコミュニケーションを作っていこう」という会社の流れに沿いながら、実際のプロジェクトのなかで試していきました。その1つに、本人確認 (eKYC)プロジェクトがあります。

メインのデザイナーがプロダクトマネージャーと共にプロトタイプを作成し、UXリサーチを行います。そのフローの中に、前任デザイナーからのフィードバックを混ぜていきます。前提条件を知っているのでプロジェクトの共有も早いですし、なによりメインデザイナーが悩んだ時の信頼の壁打ち相手としての前任デザイナーはとても心強く感じました。

「前任者から後任者へ引き継ぎする」という手続きイベントで終始するのではなく、プロジェクトをよく知るデザイナーが壁打ち相手となり、共創するデザインを行える手応えを感じたプロジェクトでした。

フィードバックループによる効果

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複数人のデザイナーで担当することで、「チーム全体の解像を高める」「担当領域を広げて担当を変更しやすくする」という目的に加えて生まれた3つの効果があります。

1つ目は、1人で担当するより2人、3人のほうが精神的に余裕が生まれるという利点です。いざとなれば助けに入れるレベルで現状を把握できている人が、自分以外に数人いるというのは心強いですよね。実際に助けてもらわなかったとしても、誰かが控えてくれているということが精神的な安心材料になります。

2つ目は、フィードバックを受け取りやすくなるという点です。デザイナーはアウトプットが目に見える形になるため、色々な人からフィードバックをもらう機会があります。フィードバックをもらうことが仕事の半分かもしれません。とはいえ、誰もがフィードバックを受け取ることに最初から慣れているわけではないですよね。

特に立場が違う人の意見は、必ず受け取らなくてはいけないフィードバックのように感じてしまいがちです。しかし、どんなに強い意見でも、複数いるメンバーの1人として意見を言う状況を作れば、受け取る側も過度に強いフィードバックとして受け取らずに、1つの意見として捉えやすくなります。様々なフィードバックを比較検証する中で、相対的にベストな解決策を導きやすくもなります。

そして3つ目が、自分の意見を伝える習慣を作り、提案の精度を上げることです。フィードバックを受けることはたくさんあっても、他のデザイナーに意見をいう機会は意識して作らないと少ないものです。同じグループ内でフィードバックしあって進めるという決めごとをすることで、「意見をいうこと=正しいアクション」となり、リモート環境下でも安心して意見を伝えられるようになります。

また相談に対して提案するには、相手から情報を集めて整理し、再構築する必要があります。いきなりできることではないですが、日々の繰り返しで確実に精度は高くなります。筋のよい提案で的を撃ち抜くための精度を高める習慣こそが、レベルの高いデザイナーへの近道なんじゃないでしょうか。

最後に

ここまで読んでくださったみなさん、ありがとうございます。

2020年は、リモートワーク元年と言えるでしょう。突然の環境変化のなかで、予定通りに進ん打ことはほとんどありませんでした。元々抱えていた担当プロジェクトの属人化問題、コロナで生まれたコミュニケーションの問題などもあり、「1人で課題を抱えず、チームで協力しながらモノ作りするにはどうしたらいいか」をひたすら考え続ける日々でした。

文中で紹介した、砦型・共創型それぞれにメリット・デメリットがありますし、状況によって異なります。そして、共創型のように複数人でデザインすることは一見、リソースをぜいたくに使っているように思えるかもしれません。ただ、一人ひとりが自立して背中をあずけて仕事ができるチームを作るには、できるだけ日常的に情報を回転させる仕組みが必要だと思います。

結果として、かつては速さゆえに1人でやり切り、個人のコミュニケーション能力でどうにか繋ぐという選択肢をとっていたチームが、共創することで1人では出せないクオリティとスピードを出せるようになったと感じています。

この記事を書く中で、これまでデザインチームに関わってくれた方を一人ひとり思い出しました。チームからもフィードバックもらいながら書かせてもらいました。常にチームの環境は変化し続けると思いますが、メルカリ・メルペイらしいプロダクトを作れる、そんなデザインチームの文化になったらいいなと思います。

記事を読んで、もしメルカリグループのデザイナーに興味を持っていただけた方は採用サイトをのぞいてみてください! 定期的に募集ポジションもアップデートされていきます。

執筆・図版作成:のぶお
編集:crema / taiyo