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メルカリのデザイン指針を作る取り組み [前半: 指針の紹介編]

はじめに

UX Designチームのasakomです。2022年12月〜2023年3月にかけて、メルカリのデザイン指針を作ることを目的に検討プロジェクトを立ち上げ、Brand Core(ブランド・コア)とDesign Principles(デザイン原則)を作成しました。今回はこの活動を、2つの記事で紹介していきたいと思います。
この記事ではメルカリのBrand CoreとDesign Principlesの役割や、内容についてお話しします。策定するまでのプロセスについては、[後半: プロセス編] で紹介しています。


Design Principlesとは

一般的にDesign Principlesはどんなもので、その役割はなんでしょうか?
例えば、Nielsen Norman GroupやInVisionのサイトでは次のように述べられてます。

Product Design Principlesは、デザインの意思決定を形づくり、同じ製品やサービスに取り組むチーム全体で一貫性のある意思決定をサポートする、共通の価値観です。

Nielsen Norman Group "Design Principles"

Design Principlesとは、プロダクトに対してコンパスのように機能する一式の価値観です。この価値観はチームで合意されたものであり、デザインプロセスを進行する時にチーム全体を同じ道に導く指標となります。Design Principlesは具体的で、微妙な意味の違いも示し、実行可能なものである必要があります。

InVision "Design principles"

また、世の中のDesign Principlesの例はこちらのサイトで見ることができます。有名なグローバル企業の例も多数掲載されており、SpotifyやAtlassianは定義のレベル感や説明の仕方がわかりやすく、今回のプロジェクトでも参考にしています。

これらの定義や、メルカリの中の開発の現場を通して見てきたことを踏まえて、Design Principlesの役割や意義を次のように整理しました。

どんなものか?

自分たちのプロダクトらしいデザインとは何かを示す基準。多くの場合、5〜6個の単語のひとセットと、それぞれの単語を説明する文章(場合によってはグラフィック付き)で構成されている。

役割は何か?

体験をデザインする時の基準となり、“私たちらしさ”からずれないようにチームの意思決定をサポートする。

どんなメリットがあるか?

人・チームや時間による認識の差を減らす
プロダクトはデザイナー以外のメンバー、複数のチームによって開発・運用されます。プロダクトチームではPdMやエンジニア、マーケティング、カスタマーサポートのチームなど立場はさまざまです。また、プロダクトの改善サイクルを続けながら時間が経過し、人やチームの構成もどんどん変わります。このような立場の違いや時間経過がある状況であっても、“ユーザーに届けるべき私たちらしい価値とは何か”の認識をチーム全体で揃えることができるきます。

すぐ取り出せる”ものさし”によって意思決定の効率を上げる
プロダクトの開発をしていると、この体験や機能が私たちらしさに沿っているのかいないのか、という議論になることが度々あります。プロジェクトチームごとに、届けるべき体験価値を新たに定義しているシーンも度々見てきました。そんな時に、すでに社内で合意が取れているDesign Principlesがあると、ここをスタート視点として議論することができ、意思決定にかかる時間を短縮することができます。
デザイン指針の検討チームでは、Deasign Principlesを”ものさし”と呼び、身近なツールとして使われるようになることを目指しました。

つまり、Design Pinciplesがあると、“私たちらしさ”をプロダクトのすみずみまで行き渡らせ、一貫性のある体験を効率よく届けることができるようになると言えそうです。

メルカリのデザイン指針

デザイン指針を検討するプロジェクトでは、Design Principlesを作ること目的にスタートし、実際に整理した内容は、1. ブランド構造、2. Brand Core、3. Design Principlesの3つです。この3つに至った背景はプロセス編の記事でご覧いただけます。では、3つの内容を見ていきましょう。

1. メルカリのブランド構造

会社のミッションから、体験を作るデザインアセットまでの親子関係を示したものです。構造図は、デザイン指針の整理する過程で、それぞれのレイヤーの役割をクリアにするために必要でした。もう一つの理由としては、デザイン指針を社内に浸透させていく時に、このデザイン指針を活用することが、会社のミッションの達成につながる、という信頼性を高めるためにも有効であると考えています。

メルカリのブランド構造

ミッションからお客さまとのタッチポイントとなるデザイン要素の間に“ブランド”のレイヤーを置き、ブランドを“Brand Core”と“Design Principles”の2階層に分けています。
それぞれの定義を見ていきましょう。

ブランドとは

ブランドとブランディングの役割

メルカリにとってのブランドとは、お客さまが感じる“メルカリらしさ”を意味します。
また、ブランディブランディングとは、メルカリが「こう感じてもらいたい」というイメージと、お客さまが「メルカリをこう感じる」という印象を一致させていく行為です。

なぜブランドが必要なのか

ブランドの必要性

メルカリはこれまで、誰でもかんたんに売る・買うことができる機能を提供し、日本一のマーケットプレースを目指してきました。今後さらに他社との差別化や、新グループミッションの達成を目指すには、「かんたん・便利だから使う」機能的な価値だけではなく、「メルカリの体験や世界観まで好き」という情緒的な価値まで届けることが求められます。

メルカリの体験づくりに関わる人すべての指針となるブランド定義があることで、お客さまとのあらゆるタッチポイントで継続的に“メルカリらしさ”感じ、生活に浸透していただくことができます。

Brand Coreとは

MissionからBrand Coreへのつながり

メルカリの体験を通してお客さまにどのように感じてほしいのか。
ミッション”あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる”を突き詰めた結果、どのようなお客さま体験を実現したいのかを言語化したものをBrand Coreと名付けました。言い換えると、Brand Coreが示す体験を達成すればミッションを達成できる、と言えるくらい密接なものを目指しました。

Design Principlesとは

Brand Coreからお客さま体験へのつながり

ブランドコアを届けきるために、どんな世界観や体験を大切にするのか。
Design Principlesはより具体的なデザイン指針となり、プロダクトやマーケティング、PRのガイドラインが作るときのベースとなるものを目指しました。

2. Mercari Brand Core

4つのBrand Core

Mercari Brand Coreは、メルカリの体験を通してお客さまにどのように感じてほしいことです。あんしんで頼れる、だれでもカンタン、使うほどワクワク、ちょっといいことしてる気分のよさ、の4つで構成されます。それぞれの価値を、なぜ必要なのか、どのように実現するのか、めざす未来とは、に分けて紹介します。

あんしんで頼れる

なぜ必要なのか
あらゆる人の可能性を解放するためには、誰もが安心して参加できるサービスであることが求められます。
どのように実現するのか
メルカリは、あらゆる体験において、常に安心を感じてもらえるよう徹底します。サービスへの信頼があってはじめて、お客さまが不安を感じずに、自由に行動していける状態が生まれます。
めざす未来
「安全であること」「信頼できること」「人道的であること」の姿勢を一貫して大切にすることで、多様な価値観を持った人がさらに可能性を広げていける場を創っていきます。

だれでもカンタン

なぜ必要なのか
あらゆる人の可能性を解放するためには、年齢・ライフスタイル・デジタルリテラシーを問わず、誰でもカンタンに使える体験であることが大切です。
どのように実現するのか
メルカリは、お客さまがやりたいことをカンタンに実現できる体験を追求します。そのために日々の改善はもちろん、新しい仕組みやテクノロジーを活用することで、今までにないレベルでカンタンさを実現できないかにも挑戦します。
めざす未来
その一つひとつの積み重ねで、あらゆる人が自然と使いこなすことができ、自ら可能性を広げていける、みんなのインフラを目指していきます。

使うほどワクワク

なぜ必要なのか
何かを始めたくなるワクワク感や、さらに探索したくなるワクワク感によって、あらゆる人の可能性をもっと解放できると私たちは考えています。
どのように実現するのか
メルカリは、はじめてでも、使い慣れていても、使うほど新しい出会いや発見が広がっていく体験を大切にします。Mercariが目指すのは、表面的なワクワク感ではなく、「探す・売る・買う」などの価値を循環させる行動から生まれるワクワク感。
めざす未来
お客さま自らが可能性を広げていくことをワクワクと楽しめることが、世界中のモノ、コト、そして人が持つ、いまだ見出されていない可能性をも解放していくことにつながります。

ちょっといいことしてる気分のよさ

なぜ必要なのか
モノという資源や、人の感謝や価値観を循環させることで生まれる「ちょっといいことしてる気分のよさ」を大切にすることで、あらゆる価値の循環を後押ししていきます。
どのように実現するのか
人と人がつながり、好きなモノやコトを共有でき、感謝の気持ちを伝え合える気分のよさ。捨てることから解放され、資源や環境を大切にできる気分のよさ。それらをメルカリを使う中で、自然と感じてもらえる体験を大切にします。
めざす未来
暮らしを楽しむ延長線で、ついでにいいことができて「気分がいい」という体験が、環境に意識が高い人だけでなく、あらゆる人とともに循環型社会を実現していくことにつながります。

3. Mercari Design Principles

5つのDesign Principles

Mercari Design Principleは、Brand Coreを届けきるために大切にする世界観や体験です。Trusted、Open、Simple、Empowering、Connectingの5で構成されます。Design Principlesはより具体的な体験への落とし込みの場で使われることを期待しているため、UX Goal(実現すべてき体験)とPolicy(デザインで考慮すべきこと)の2段階に分けて指針を詳細化しています。

Trusted: 誠実で一貫性があり、常に安心・安全を感じる

UX Goal
“お客さま同士が安心して取引をすすめられるサポートを、メルカリ体験全体で提供する”
オンライン・オフラインすべてのインタラクションにおいて、メルカリがお客さまに対して誠実であることが感じられ、”安心”のベース上で売り買いを行えるプラットフォームであることを体現します。

  • 安全・信頼・人道的の原則に沿う
    安心安全なマーケットプレイスを実現するためのポリシー・運営体制・技術があることの認知を広める。

  • 正しい情報を提供する
    影響の大小にかかわらず、間違った情報、矛盾のある説明をしない。

  • 誠実に対応する
    次のアクションに誘導する時に、明確な表現をする。含みのある表現やリスクを隠すことはしない。

Open: 多様なお客さまのコンテキストを配慮し、誰もが使える

UX Goal
“あらゆるお客さまに対して可能性を広げるために、あらゆるコンテキストを包括する”
メルカリの習熟度、ITリテラシー、アクセシビリティ、時間・地域による制限、売る側・買う側など、お客さま体験を多角的に捉え、すべてのお客さまに入り口が開かれたプラットフォームを提供します。

  • 初心者の体験を考える
    初めてのメルカリ、初めての買い物、初めての出品に対してわかりやすいワーディング、ステップになっているかを考慮する。

  • 多角的な視点をもつ
    想像がつきやすい状況や、完璧な状況で使用しているケースだけにフォーカスしない。

  • 慎重にスコープを決める
    あらゆる使用シーンが想定される中で、共通するニーズの抽出や優先すべきケースを慎重に特定する。

Simple: シンプルかつ明快で、目的を効率よく達成できる

UX Goal
“ECサイトとは異なる手続きが起こるメルカリの体験であっても、慣れ親しみやすいものにする”
購入や出品のステップ一つひとつや、お客さま同士のコミュニケーションの仕方など、いまやるべきアクションをスムーズに理解し、効率よく達成できるようにします。

  • 明確なゴールを設定する
    目の前の作業のゴールを明確に表現し、最も効率よく達成できる方法を検討する。

  • 情報の優先度づけする
    次のアクションについて言葉で説明する前に、優先度をつけ、最小限の情報量で達成できる方法を考える。

  • 親しみのある法則を使う
    世の中の一般的なUIの原則として慣れ親しんだ方法を使い、時間をかけて学習しなくてもアクションが取れるようにする。

Empowering: 動作やワクワクを止めず、スムーズに行動できる

UX Goal
“メルカリ特有の売る側・買う側それぞれのジャーニー全体を端的に把握でき、次のアクション”をとりやすくする”
アクションし続けたくなる体験のスムーズさと、能動的にやり遂げた達成感を提供することで、次の取引、次のアクションへのモチベーションを高められるようにします。

  • 見通しがつくようにする
    売り買いの流れに対する、進捗や現在のステータスを伝え、取引を進めるためのよりよいやり方を適切なタイミングで提供する。

  • 達成感を提供する
    ビジュアルや適切なワーディングでステップごとの完了をポジティブに認識し、次のステップにつなげる。

  • 回復できるようにする
    取引上でトラブルが起こったり、間違った手順を踏んだ時に、速やかに回復できる選択肢を提供する。

Connecting: 人や社会とのつながり、価値を循環させる気持ちよさを感じる

UX Goal
“価値を循環させることで生まれるワクワク感や、人や社会への貢献を、押し付けたり表層的に感じさせることをしない”
売り買いによる価値交換の体験上に、人との触れ合いや、モノの循環への関与で生まれる心地よさなど、本質的な価値を埋め込むことで、メルカリが暮らしに欠かせないものになるようにしていきます。

  • つながりを作る
    お客さま同士の接点において、リアクションを取りやすい・気づきやすい導線を構築する。

  • 次の循環につなげる
    新たな取引の始まりとなる、欲しい商品との出会いや新たな出品につながる気づきを、デザインと技術の両面を駆使して個々のお客さまの向けて精度高く、期待を上回る提案をする。

  • 成長できるしくみを作る
    循環を促進するために、メルカリをより使いこなすためのステップアップができるようになっているか考慮する。

おわりに

現在Brand CoreやDesign Principlesは、メルカリのグループビジョンのステートメントに尽かされていたり、既存のガイドラインの見直し、コーポレート部門のブランディングの活動につながるなど、活用が広がっています。メルカリデザインブログで新たな取り組みの紹介がされるのを、ぜひ期待してお待ちください。

Brand CoreやDesign Principlesを検討したプロセスについて興味のある方は、ぜひ [後半: プロセス編] もチェックしてみてください。