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【読書感想文】風が強く吹いている

読書後も感動と興奮がなかなか冷めない。この本に出会えて良かったと思える1冊。

三浦しをんさんもまた、私の好きな著者のひとりである。この本は青春小説っていうのと、表紙の絵にあまり惹かれなくて、今まで読んでいなかったのだが、友人が経営する喫茶店の本棚で見つけて手に取り、ちょっと読んでみると止められず、許可を得て持って帰る。

竹青荘という名のボロ学生寮に住む10人の学生が、陸上未経験者も多くいる中で、箱根駅伝出場を目指す物語。

私は箱根駅伝を真剣に見たことがない。お正月のバラエティの特番がさほど面白くないからか、家族の誰かが好きだったからなのかは分からないけれど、お正月を過ごす祖父母の家のテレビは駅伝の中継チャンネルを映していることが多かった。見ず知らずの大学生が走っているのを見て何が面白いのか。子供の頃の私はそんなふうに思っていた。

毎年この箱根駅伝を多くの人が沿道で、またはテレビで見るのは、リアルな人間ドラマだからなのかもしれない。私は駅伝のルールを、この本を読むまで知らなかった。選手一人ひとりがどんなに苦しくても、たとえ怪我をしても、棄権しない理由、前に進むことを止めない理由。それは襷を手渡す仲間各々が胸に秘めている夢や目標を閉ざさないためなんだろう。

小説の大部分は主人公のひとりである蔵原走の目線で語られているのだが、箱根駅伝の当日部分は、襷をかけた人物一人ひとりがこの舞台に懸ける思いが描かれる。ただ単にゴールを目指しているのではない。仲間との絆だったり、家族の期待、自分自身との戦いを胸に抱えている。走り切った後に得られると信じる何かを掴み取るために登場人物が全力疾走している様を思いうかべながら、読者の(私の)感情の昂ぶりも加速していく。ゴールテープを切った後、なかなか鼓動の速まりが治まらないのと同じように、読了後、感動による興奮がしばらく冷めなかった。

強さとは、走るとは、生きるとは。最近自分自身になんの目標も掲げることなく、日々をダラダラと過ごしている私に、喝をいれてくれた一冊。この陸上競技を題材とした小説に感化されて、半年前にフルマラソンを走ったきりサボっているランニングを先ずは再開しようと、年内のマラソン大会にエントリーしてみる。


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