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【感想】目撃!にっぽん「どんな子も断らない〜“障害児の学童保育”の記録〜」

佐賀県武雄市にある障害児の学童保育施設「ガラパゴス」の特集。ガラパゴスというネーミングには、障害のある子どもたちも独自に成長を遂げてほしいという願いがこめられている。代表の小柳さん(38)は、自身も発達障害の子供を持つシングルマザーだ。小柳さんが学童保育施設(放課後等デイサービス)を立ち上げたのは、自分が子供を預けたいと思ったときに、2つの施設から断られた経験をきっかけになっている。

「問題児」ほど、行き場がなくなる。小柳さんは、子供たちの問題行動の背後には、本人の苦しみがあると見抜いている。それなのに、その子たちを断ったら、子供はどこに行けばよいのか。小柳さんのモットーは「断らない」だ。ガラパゴスは、運営が始まってまだ2年。発達障害を抱える子どもと真摯に向き合う小柳さんの姿勢に感動した。

問題行動の理由

小柳さんは、発達障害のある子どもが訴えているものを知ろうと努力している。子供たちの問題行動の背後には必ず理由がある。つぶさに観察し続ければ、その子の伝えたい気持ちが分かる。小柳さんは、自分を「通訳者」のようなものだと考えている。発達障害を抱える子が一堂に会する時には、互い同士のコミュニケーションで問題が発生しやすい。

あつし君(小3)はADHDで、興奮すると暴力的になり、すぐに手が出てしまう。これまでの施設も、いわゆる「問題行動」のゆえに辞めさせられてしまっていた。あつし君は、ガラパゴスの中でも、やはり暴力的なふるまいを見せることが多いのだが、その理由は一体何か。小柳さんを含め事務所のスタッフは定期的にミーティングを行って、一人一人に目を向ける。

小柳さんは、問題を起こすあつし君について語る時「あつしが、加害者ではなくて被害者だとしたら?」と問いかけた。ある日のあつし君の暴れる一時間前の行動、ビデオカメラでは、何とかして皆の注意をひきたいのに、どうしても一人になってしまうあつし君の姿が映し出されていた。ポツンとしたあつし君は、そのうち、かんしゃくを起こして暴れだした。本当は寂しいのに、それを伝えられなくて暴れだしているとしたらどうなのだろうか。

発達障害の子供の「問題行動」には必ず「理由」がある。「問題児」(加害者)だと思えば、もはやその理由は見えなくなる。その背後に、どんな気持ちが潜んでいるかを考えてあげることが必要だ。そのためには、ひたすらその子のことを知って観察するしかない。

気づかせて、教えて、伝えて

小柳さんの息子、士結君(中2)は普段は何も問題がない好奇心旺盛な男の子に見える。しかし、彼はASD(自閉症スペクトラム)で、こだわりが強く、対人コミュニケーションに難しさを抱える。ガラパゴスで、子供たちと遊んでいる間にも、士結君は取り乱して泣き出してしまった。怒りのあまり、震えてバンバンと物に当たった。この日、士結君は何度も取り乱した。

その都度、小柳さんは士結君が落ち着くのを待ってから、彼にしっかり向き合って、あきらめないで仲間の輪の中に入るように促した。ただ、なだめすかしたり、放置したりするのではなく、しっかり向き合って目を見て正している姿に愛を感じた。まあ、息子だからよく分かっているっていうのもあると思うんだけど。

士結君は、バレーボールの際に、スコアラーだったあつし君の点数の付け方にブチ切れして泣いて怒ってしまったのだが、小柳さんは、あつし君の気持ちや事情を考えるように説得した。士結君があまりに白・黒つけようとすることや、決めつけて物を言うことが、あつし君の気持ちを傷つけたことを理解させた。自分の未熟さを理解した士結君は、気持ちを落ち着けた後、自らあつし君に謝りにやってきた。

これには驚いた。あれほど、取り乱していた士結君を見れば、私なら「発達障害だからしょうがない」と放置したかもしれないなと思った。そして、仲間にも「彼は過敏だからしょうがないんだよね」と言ってその場を濁したかもしれない。しかし、小柳さんは、そんな中途半端なことをしないのだ。ちゃんと理解させ、行動させる。

興味深いのは、あつし君に対しても小柳さんが手を緩めないことだ。謝罪を繰り返す士結君に対して、あつし君は面と向かうのを避けようとする。そこで小柳さんは「謝るっていうのは勇気のいること。謝っている人にちゃんと答えないのは失礼」と、あつし君が士結君と向き合うまで見つめ続ける。やがて、あつし君は筆談で「いいよ」と伝えた。士結君は「ありがとう」とメモに書いて、二人の仲直りは成立したのだ。

乗り越えられる自信

小柳さんは、発達障害を持つ子供たちが、自分の特性を理解したうえで、難しい問題・苦手だと思えることを乗り越えられるように助けたいと思っている。自分のことを本当に理解するためには、まず誰かに自分のことを理解してもらう必要がある。誰にもわかってもらえないと感じる時、人は集団の中にいても孤独を感じる。その孤独が「問題行動」を生じさせる。

本当の「理解」に触れると、人は自ら問題に向き合おうとするものではないか。小柳さんの使う手法は「魔法の杖」にはならない。スタッフが子供たちに向き合うには、時間も労力も人一倍かかる。しかし、ガラパゴスで遊んだ子供たちが、やがて自分の特性を理解したうえで、社会の中で、傷つきながらも自立していってほしいと思った。

「発達障害」とラベルをつけて一括りにするのではなく、一人一人に本当に向き合う大切さを知った。小柳さんの活動と思いを応援したい。

綿樽剛の著書一覧

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq