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メンタルを強くする負け方の美学!「覆す力」森内俊之九段

アスリートや勝負師から学べることは多い。特に将棋の世界は奥深い。NHKのドキュメンタリーなどで、将棋物を連続して見たせいで、つい将棋本が読みたくなってしまった。派手さはないけれど、羽生世代の大物棋士である森内俊之九段の本を手に取った。

人生と将棋は似ている。メンタルを強くするために、森内氏から学べたことをいくつか書き残しておきたい。

自分の戦い方を知る

森内氏は羽生氏と小学生時代からの同期だ。羽生氏は25歳で7冠を達成した天才棋士、オールラウンダーだ。実は森内氏もめっぽう強いんだけど、羽生氏が同世代なので、ちょっと陰に隠れた存在か。森内氏は羽生氏をライバルと捉えつつも、まったく同じ戦い方ができないことをわかっていた。自分の将棋の特徴をよく知っていたからだ。

森内氏は長考型だ。とにかく、持ち時間を目いっぱいに使って、考えて、考えて一手を指す。だからこそ、名人戦のように持ち時間が長いタイトルが向いていた。また、名人になればA級でしのぎを削るプレッシャーから解放される。自分の特徴を知っていた森内氏は「相性の良い」名人戦に繰り返し挑み、羽生さんよりも早く永世名人の称号を手に入れている。

「名人戦との相性の良さは感じ始めていた。長時間の将棋であることに加え、春の時期は私自身のコンディションが良い。・・・名人になると、その年のA級順位戦を戦わなくて済む。・・・名人になれば、少なくとも一年間はその心配(降級)をしなくて済むのだ。」(P149 )

覆す力 (小学館新書) 森内 俊之 

将棋のタイトルは誰でも持てる時期と持てない時期があるけれど、永世名人を名乗れる人は将棋界でも一握りしかいない。将棋界のタイトルは、比較的複雑だけれど、勝てそうなところ(勝てそうなのが名人位というのはすごいけど)で勝つ森内流は賢い。

自分をよく知り、自分がどこで戦えば勝てるかを計算することは大事だということが分かる。

ペース配分を知ること

羽生氏は直感型、森内氏は思考型だ。森内氏曰く、A・B・Cという3つの選択肢がある場合、Aがベストだという直感があっても、BとCを選んだ時の結果をじっくり考えるタイプだ。しかし、これが行き過ぎて、若いときは弱点にもなっていた。

将棋には持ち時間がある。序盤で持ち時間を使い切り、後半は1分将棋になってしまい、大事なところで考える時間がなくなってしまうことが多かったのだ。そこで、30歳を越えるあたりからペース配分を計画することで飛躍的に強くなる。名人位を獲得したのも31歳の時だ。

「私は勝つために自分のこだわりを捨て、序盤を研究の成果に頼るように頭を切り替えた・・・序盤の攻防は、ある程度はパターン化された戦型で行われることが多い。ならば、序盤は日頃の研究の成果を信じてテンポよく進め、難問が待ち構える中盤から終盤に余力を残しておいたほうがよい」(P126)

「序盤はなるべく研究の成果などに頼り、局面が複雑になる後半に体力を温存するようにした。これが結果的に、中盤、終盤での指し手の精度を上げることにもつながった」(P158)

覆す力 (小学館新書) 森内 俊之 

力を入れるところと抜くところの切り替えが勝敗に直接関係する。

将棋に限らず、若い時には体力があるものだから、ペース配分を調整するところまで頭が回らない。私も、ペース配分の重要さに気付いたのは40代になってからだ。自分の持っているエネルギーが有限であることを認めて、持っているキャパの中で、どのように「手駒」を組み合わせて戦うかが大事。まるで人生は将棋だ。

負け方を大切にする

森内氏の将棋で、もっとも際立っているのは「負け方を大切にする」ことだろう。そもそも、将棋は必ず振り返りがある。勝者と敗者が盤を見ながら、一手一手、勝因と敗因を振り返るのだ。結果だけではなく「なぜ負けたのか」がわかると、その勝負には意味があることになる。

特に森内氏は、負けを大切にする棋士だ。見方によっては多少泥臭いかもしれないけれど、ここまで負けを大事にする勝負師も珍しいだろう。負けが分かっているのに、簡単には負けない(早指ししない)のだ。必ずしも逆転勝利を狙っているわけではないのが面白いところだ。

「十代後半からは負け方も意識的になってきた。とにかく持ち時間をすべて使って考える。無駄になるかもしれないが、状況を打破することができないか。徹底的に考え続けるのだ。それが勝利につながることはめったにない。しかし、負け将棋を指しながら必死で考えたことが、後々役に立ったという経験は何度もある。」(覆す力 (小学館新書) 森内 俊之 P202)

森内氏が子供たちに将棋を教える「奇跡のレッスン」では、負けた将棋の大切さを教え込んでいたのが印象的だった。

森内氏は生徒たちに、自分が肝心な場面でミスを犯して、大逆転負けを喫した一局を見せながら、どの一手が良かったかを考えさせる教材とした。負けに向き合い続ける人でなければ、こういうことはできない。

自分が敗北した勝負は見たくないのが本音だろうけど、自分の失敗にしっかり向き合って、負けから学ぼうとしている人は強くなる。私は過去の失敗を振り返ろうとすると、体に拒否反応が出る。まだまだ謙虚ではないということだろう。

おすすめ本:「覆す力」森内 俊之 

森内氏からは、燃え盛るような闘争心が感じられない。もともと争うのが嫌いなのだという。そんな勝負師いるのか?・・・( ;∀;) この本を読むと、森内氏が、とにかく謙虚で、努力の人であることが分かる。

将棋をメタファにして、ビジネスとか、人生とかに当てはめられそうなことが多くて中途半端なビジネス書を読むより、ずっと楽しい。


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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq