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意思決定する際に重要なのは〇〇と〇〇のバランス。脳神経科学から考える

ある日、あなたが通りかかった場所で、止まらないトロッコが5人の作業員に向かって暴走しています。このままでは5人が間違いなく命を失います。しかし、そこには一つのレバーがあり、それを引くことでトロッコの進路を変えることができます。ただし、その代償として別の線路上の1人が犠牲になるでしょう。あなたならどうしますか?(この実験については後ほど解説します)

トロッコ問題


このような状況は実際にはめったに起こりませんが、「トロッコ問題」として知られるこの思考実験は、私たちが直面する倫理的ジレンマを浮き彫りにします。

これらの問題は、ただの哲学的な議論を超え、私たちの日常生活での意思決定にも深く関連しています。どうして人は同じ状況でも異なる選択をするのでしょうか?この疑問に答えるために、心理学者や神経科学者がどのようにこれらのジレンマを解析しているのかを見ていきたいと思います。


心理学と神経科学の観点からの分析
トロッコ問題と歩道橋問題の概要

  • トロッコ問題:制御不能になったトロッコが、線路上にいる5人の作業員に向かって走っています。あなたは線路の分岐点におり、レバーを引くことでトロッコの進路を変え、別の線路上の1人を犠牲にして5人を救うことができます。


  • 歩道橋問題:同様に5人が危険にさらされていますが、今回はあなたと体格の大きな人が歩道橋の上にいます。この大きな人を線路に押し落とせば、彼の体重でトロッコは停止し、5人を救うことができますが、その人は死亡します。

歩道橋問題

この思考実験について、トロッコ問題では多くの人がレバーを引く選択をしますが、歩道橋問題になると人を直接押し落とす行為に抵抗を感じ、行動を起こさない人が多い結果がでています。この異なる反応は、どうしておこるのでしょうか?心理学と神経科学の研究で説明が試みられています。

ジョシュア・グリーンの調査
ハーバード大学のジョシュア・グリーンは、これらのジレンマが脳内でどのように処理されるかを調査しました。

  • トロッコ問題の反応:この問題では、背外側前頭前野が活動し、合理的な判断や論理的思考が優位になります。多数を救うために少数を犠牲にする功利主義的な反応が引き起こされます。


  • 歩道橋問題の反応:この問題では、内側前頭前野が活動し、感情が判断に大きく影響します。直接的な行動による人の犠牲が必要なため、義務論的な反応(行動を起こさない)が優位になります。


脳の損傷が判断に与える影響

上記の結果を別の角度から検証するための研究も行われています。感情の処理に重要な役割を果たす腹内側前頭前野に損傷がある人の場合、その人の道徳的判断がどのように変わるかについての研究です。研究によると、この領域が損傷を受けた人々は、健常者に比べて功利主義的な判断を行う割合が増加することが示されました。つまり、感情を感じる脳の部位を損傷すると、感情ではなく論理的な判断をする傾向が強くなったということです。

情動に関わる腹内側前頭前野に損傷がある患者群は功利主義的な判断の割合が健常者に比べて増加

まとめ

これらの心理学的および神経科学的研究は、私たちが道徳的ジレンマに直面した時に、理性と感情がどのように相互作用するか、そしてそれがどのようにして異なる道徳的判断に結びつくかを理解するのに役立ちます。道徳的決定は単に論理的な思考だけでなく、深い感情的な要素も含んでいることが明らかにされています。

これらのことは私たちの日常生活においても非常に重要な意味を持ちます。例えば、職場や家庭内での対人関係、地域の中で行われる意思決定、さらには政策決定のプロセスにおいても、人々の感情を理解し、尊重することが重要です。理性だけでなく感情も重要視することで、より公平でバランスの取れた決定が可能になると考えられます。私たちは理性を重要視して、時には感情が意思決定をする際の邪魔なものと言われることもあります。しかし、理性と感情のバランスを意識することが大切なのです。

理性と感情のバランスが大切


この感情と理性のバランスを整えて効果的な意思決定をする際に重要な能力がEQ(感情知能)と言われています。EQは学習や経験によって成長されることができる能力と言われています。この記事については、以下を参照してください。

ちなみに・・・
トロッコ問題についてはこのような回答をする方もいました。思考を柔軟にし、常識ではない意思決定の道を探るというもの大切にしたいものです。





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