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保育士における、心と体の健康が与える影響とは【研究結果】

この記事では、保育士という職業の心と体の健康が与える影響を論文と研究結果をもとに解説していきます。

■研究の背景

近年、仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスを感じる労働者が増加しています。特に、保育士の早期離職の傾向が高まり問題視されています。

厚生労働省が保育士資格を保有している求職者向けに行った調査結果は以下の通りです。

厚生労働省の平成27年度の調査では、
保育士資格を保有しながら保育士としての再就職を希望しない求職者のうち約50%は勤務年数5年未満であり、早期離職の傾向も顕著であることが報告されています。

このことから、保育士としての責任の重さや事故への不安など、職務上感じるストレスが高いことが指摘されています。

保育士は、子どもと接するだけではなく、その保護者とのコミュニケーションや連絡帳、定期的に行うイベントの準備など仕事内容が多岐にわたります。そのため、日々の仕事に追われてじっくりと仕事の効率化や問題解決を相談する時間がないことも原因でしょう。

保育士のストレス状態が続くと精神的健康に影響を与え、保育の質の低下や、保育士本人の保育感や保育の専門性を高めていく意識の低下にも繋がります。

論文によると、人には一人一人固有の特徴と強みがあり、仕事にはまた一つ一つ異なる要件があるため、個人の特徴と仕事の要件をマッチングできる度合いが高いほど、個人の職業生活における満足度は高くなることが報告されています。

つまり、保育士それぞれが抱えるキャリア形成を適切に分析して、結果から出たニーズや特性を活かせる職務や教育の機会を与えることで、満足度が高まり保育士の心と体の健康状態に影響を与えるということです。

■分析と調査方法

ここからは、行われた分析方法と調査方法をまとめていきます。具体的な分析・調査方法は以下の通りです。

・対象者

本研究に対する説明会を実施し、質問紙に含まれる研究参加への同意説明を読み、研究参加に同意を得た保育園従事者女性 129 名を調査対象とし、データ収集を行った。収集されたデータの中、欠損データ 20 例を除外し、109 例のデータを最終対象者数として分析を行った(有効回答率 84.5%)。

・調査方法

すべての対象者において Scale C3 の自己評価用質問紙を配布し、普段の様子を各項目に沿って、5 段階でチェックを行うことを依頼した。対象者には匿名で記入を依頼し、説明会終了後に回収を行った。

分析で利用される尺度は「Scale C 3」というキャリア形成のニーズ把握ツールです。まずは、保育士それぞれがどのようなキャリア形成や働き方を望んでいるのかを把握した上で、ストレスをチェックする必要があります。

保育士の勤務環境は厳しく、日常的に関わる子どもたちやその保護者への対応などによる身体的疲労感や慢性疲労症候群など、保育士の84.9%が職場において何らかのストレスを感じていると指摘されています。

メンタルヘルスの代表的な疾患であるうつ病は、認知機能にも影響を及ぼし、健常者に比べ、視覚的記憶の継続的な欠損や持続的な注意欠損が報告されています。

■調査結果

信頼性検証の結果、すべての領域および尺度全体において高い信頼性が確認されました。

対象者は50代(33.0%)が最も多く、勤続年数は1~4年(35.8%)が最も多く、職種は保育士が78.9%、調理員が18.3%となりました。研究結果から、年代と勤続年数がモデルの適合度に影響を及ぼしていることが分かりました。


■研究からの考察

1.勤続年数と年齢による違い

まずは保育士の勤続年数と年齢によるストレスへの影響の違いが明らかになりました。

対象者の中でも50代の従事者が最も多かったが、乳幼児の保育の特性上、腰痛などの肉体的な疲労感が生じやすく、子どもから目を離せない緊張感より精神的な疲労感が増していくことが報告されています。

反対に勤務年数が短い従事者は、勤務年数が長い従事者より、保育園の同僚または保護者との人間関係に困難を抱きやすく、自身の感情を抑制する傾向があり、ストレスを受けやすいことが報告されています。

この結果からも、とくに勤続年数が短い保育士にメンタルヘルスケアが必要になると予測できるでしょう。

2.ストレスと不注意の関連性

続いて、職場環境でのストレスが不注意に影響しているという関連性が明らかになりました。

成人においてストレスフルな日常が続くと、不注意は比較的長期に持続し、仕事場面で失敗を繰り返すことが多いことも報告されています。
さらに職場環境において精神的苦痛が持続する場合、不注意が強くなることから、メンタルヘルスと不注意は密接な関連があると考えられます。

保育士は、幼い子供のお世話をする仕事なので、少しの不注意が大きな事故にも繋がりかねません。そのため、論文でわかったように、ストレスが続く職場環境を改善して未然に事故やミスを防ぐことが大切だと言えるでしょう。

■まとめ

この研究結果からわかったことは以下の内容です。

・保育士の多くはメンタルヘルスが低下している
・とくに勤続年数が5年未満の保育士はストレスを感じやすい
・ストレスが増えると勤務内での不注意リスクが高まる

上記のように、保育士は職務で多くのストレスを抱えていることがわかりました。

この現状を放置することは、保育士の離職や不注意につながるため、園全体のリスクになってしまうでしょう。保育士のメンタルヘルスを高めるためには、現状を適切に把握して長期的に改善していく意識が大切です。

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参考文献:砂原 雅夫, 西村 政子, 宇多川 清美, 金 珉智、職業人における心と体の健康が情報取得と情報表出に与える影響―パス解析による適合度の分析―、短報論文、2020 年 9 巻 p. 102-110、https://doi.org/10.20744/incleedu.9.0_102

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