全員で取り組むメンタルヘルス、健康な組織作りのコツ
パワハラ防止法の遵守が中小企業にも義務付けられたり、企業の健康経営にメンタルヘルスケアは欠かせない存在となる中、心理カウンセラーであり健康経営アドバイザーでもある中井裕規氏に、Mental-Fit代表の各務が事業主としてのメンタルヘルス対策について迫ります。
メンタルヘルスに対するトップの強いメッセージ
各務: 組織や企業として、特定の従業員のストレスが高いと分かった時に、経営者、人事部長あるいは上長は実際にどのようなアクションに取り組むべきなのかについてお話を伺えますでしょうか。
中井: ストレスチェックの結果では、既にストレスに苦しんでいる従業員や困っている部署が見て取れると思います。高ストレス者と判定された人、健康リスクが120を超えている部署などです。
まずは、早急に彼らに対するサポートや対策を考えることです。次は、対処を終えて何をしていこうかということになります。やはり企業として「メンタルヘルスを重要視にしている」というトップのメッセージというのをしっかり出していただきたいと思います。
社長が取り組もうと言っているものでないと、その部下達はついて来ないのは、企業という組織として当然のことと思います。まずトップからそういった意識を持って強いメッセージを発していただきたいと思います。その目標に合わせて、組織として何に取り組んでいくのかについては、担当者であったり現場レベルで深く考えていくステップが有効的だと思います。
自分の意見や失敗が正しく表現できる環境作り
各務: 健康経営やSDGsは非常に重要な概念ですが、それが実際に施策に落とし込まれていたり、本当にアクションに移されてる企業はまだまだ少ないという印象です。現場レベルにおいて組織マネジメントを考えた時に、メンタルが比較的安定しやすい環境やストレス発散しやすい環境など、組織作りのコツはありますか?
中井: 今流行の言葉で言うと、心理的安全性というキーワードが理解しやすいかと思います。心理的安全性については、学術的には細かい定義や測定しようとすると尺度がいくつかに分かれてたりしますが、1番分かりやすい理解をすると「自分の意見や失敗が正しく表現できる環境作り」という考え方になります。
やはり上司・部下という関係では、上司はついつい部下に対して自分が上に立つものという意識を持っている方が多いと思います。決してそれを否定してるわけではないですが、上司にとって大事なのは「マネジメントする」というところで、業務については部下の方が優秀であってもいいと思います。
自分が上だから自分が指導する立場というイメージではなく、優秀な部下とともにこの部署の利益を最大化していくんだという視点でマネジメントしていただきたいと思います。
このように捉えていただく事によって、上司の方も自分がどんどん引っ張っていかないといけないというようなプレッシャーを感じる必要もなくなります。さらに部下から上がってくる声にどんどん耳を傾けようという意識に繋がると、相互作用的により良い関係が構築されます。そして部署の全体のベネフィットがどんどん最大化していくことになると思います。
各務: なるほど、肩書きによる優劣ではなく、いい意味でのフラットな関係性や互いにリスペクトし合う事は大切ですね。チーム全体として同じディレクションを目指すというマインドセットがあることで、ミスも許容できる関係が構築できるということだと思います。
戦後の団塊の世代からの価値観を全部根底から変えていくような、年功序列のような考え方も見直さなければいけないと思います。組織自体の考え方を変えていかない限りは、ストレスはずっと自然発生してしまうのではないか、ということですよね。
「組織をより元気にする」というマインド
各務: 大企業では会社の中に様々な業務、部署やチームがあるので、このチームが合わなかったら別のチームに異動しよう、別の業務に挑戦してみようなど、チーム編成を変える、つまり人間関係の組成を変えることでストレスを低減していく方法があると思います。
その一方で、スタートアップや、日本全国の90%以上を占める中小企業に関しては人数的にもなかなか業務に幅を持たせたり、チーム編成を変えたりできない会社が実はほとんどではないかなと思います。
その中で、ストレス過多の現状を把握した経営者や上長はどのように従業員のメンタルヘルスに、より配慮できるのか、どのようなアクションがありますか。
中井: メンタルヘルス対策というと、何かネガティブなものを生まないようにという印象を持つことが多いと思います。しかしメンタルヘルスというのは、そういったネガティブな気持ちもメンタルであり、ポジティブな気持ちもメンタルであると思います。このように連続したものだと捉えていただくと、不調者を生まないようにするというマインドより、「会社をより元気にする」というマインドを持っていただけると思います。
では、元気な会社・活気のある会社はどのような会社かというと、例えばコミュニケーションの多い職場である、何か1つ成果が出た時にはみんなでワーッと拍手をするような雰囲気があり、その中でもよく頑張った人には表彰がされるなど、多くの方が想像される通りだと思います。
このようにネガティブを生まないというよりも、ポジティブを増やしていこうという意識を高めることは、企業の規模に関わらず取り組めることだと思います。
各務: 働きがいなど、ポジティブな側面からもしっかりとアクションを起こしていき、定量的に様々な施策を打っていく事が重要な習慣作りなのですね。
まずは全員がカウンセリングを受けてみる
各務: 大企業では産業医の面談がありますし、近年ではオンラインカウンセリングサービスも増えてきました。そのカウンセリング窓口をしっかりと設ける事のポジティブな面とネガティブな面、両方お伺いできればと思います。
中井: やはりこういった相談窓口を増やしていただくということは決して悪いことではないので、どんどん企業には進めていただきたいと思います。
ただ、やはりせっかく用意しても使われなければもったいないということは間違いないと思います。特に企業は、利用する従業員本人ではなくて会社がお金を出していますので、会社としてはお金を出した分しっかりと活用されるものにしたいと思われるのは当然だと思います。
その一方で、やはりお医者さんって言うと心のハードルが上がって相談しにくいという方もいらっしゃったりしますし、産業医は会社と直接契約しているので会社に情報が流れるんじゃないかという心配をされる方もいらっしゃいます。
こういった観点から、外部のカウンセリングの窓口を設けていただくというのは、相談のハードルが下がるという面や個人情報が守られるだろうというような期待感が高まるというところも含めて、非常に良い部分だと思います。
やはり利用されるということが一番大事と考えますと、「カウンセリングの場所」についても重要なポイントになります。より多くの従業員に利用してもらえるよう、例えば専用のカウンセリングルームを一室設ける、月1回は会議室をカウンセラーに使ってもらう、オンラインならいつでもどこからでもアクセスできるので利便性が高くてよいのではないか、などなど。これについては、実際にやりながら従業員の反応や手応えを見ながらという試行錯誤していくべきかと思いますが、使いやすさというところを考えながら是非利用していただきたいと思いますね。
各務: 使う側のマインドセットでもありますが、日本では「自分はカウンセリングを受けてる」と言うと、周りからのレピュテーションや世間体が気になってしまい、相談の場所にすら行くのが恥ずかしいと感じている人も少なくないと思います。
中井: 特にカウンセリングを利用したことない方にとっては、カウンセリングって何か病んでる人が行くんじゃないの?というような印象、イメージを持っておられる方が多いかなと思います。
そこで、会社がカウンセリングを導入する際に、「まず1回はみんなで使ってみましょう」と声掛けすることが大切だと思います。やはり使い方が分からない、これまでカウンセラーというものを関わったことがない人も多いと思うので、まずはこの部署から順番に全員面談してカウンセラーと顔合わせしましょう、というかたちで導入していただく事をおすすめしています。
各務: 一度全員が利用することによって、フラットな状況を作ってしまうということですね。産業医の部屋に行くこと自体を見られたくない・恥ずかしいと感じる風潮に対して、全員マストで最初は1回は行くと会社で決めてもらうことによって、その課題はかなり解消されると思います。
定期的に健康診断があるように、カウンセリングに行くという1つのカルチャーを作ることが会社としても大切にしなければならないですね。
中井裕規|プロフィール
大学・大学院にて心理学を専攻。個人の内面の問題だけでなく、社会や環境を視野に入れたアプローチの重要性を感じ、専門学校にてソーシャルワークを学ぶ。社会福祉協議会、働く人のメンタルヘルスサポートを行なう企業(通称EAP)を経て、現在は大阪心理カウンセリング喜びを独立開業。「働きたい会社」と「働いてほしい人財」をつくるコンサルタントとして企業へのメンタルヘルス対策を実施。EAP社に所属する専門職への教育や、パーソナルカウンセラーなどとして直接支援にも積極的に活動。
【主な資格】精神保健福祉士、公認心理師、社会福祉士、認定心理士、産業カウンセラー、両立支援コーディネーター、健康経営アドバイザー
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