水炊きの日は大荒れに

貧乏な家だったが、美味しいものが大好きだった父のおかげで、夕飯のおかずはなかなかの豪華さだった。

今ではポピュラーな焼肉も、私の小さい頃はそんなに食べられていなかったと思うが、日曜日や休みの日は焼肉の確率が高かったと思う。

住んでいた場所が海産物が豊富な町だったのこともあり、お刺身をはじめ、魚介類の鍋物や、あんこう鍋、ふぐなども食卓を彩った。フグと言えば、だいたいどこの町だったかは想像がつくと思うが。。

職人だった父は、天気のいい日は仕事をするが、雨の日や気が乗らない日には仕事に行かなかった。そんな気まぐれな働き方だったのにあの食卓。。家計は火の車だったはず。そんな中でもあの食卓を続けていた母の苦労は計り知れない。

そんなグルメな父にも苦手なものがあった。それは水炊きだ。鶏肉が嫌いということではなかったのだか、水炊きは鶏のビジュアルがダメなのかと私は思っていたが、本当は、父が小さい頃、祖母が鶏を絞めるのを何度も見ていたことでトラウマになっていたらしい。それを知ったのは私が大人になってからだったが。

母は、きっとそのことを知っていたと思う。水炊きの日は、必ずといっていいほど父の機嫌が悪かった。酒が入っていることもあり、声がどんどん大きくなり、暴れ出し、挙句食卓がひっくり返る。。昔、ちゃぶ台がひっくり返るアニメがあったが、ちゃぶ台ではなくテーブルが鍋ごとひっくり返るから大惨事になる。子供達は、水炊きの日は危険だと知っていたから、ご飯が喉を通らず、テーブルがひっくり返る瞬間をなんとか阻止できないものかと小さな手でテーブルを抑えていたりもした。

なぜ母は、父が機嫌が悪くなることをあえてやっていたのか。明らかに喧嘩を売っているわけである。子供の時は理解できなかったが、今思えば、ろくに働かないのに食費ばかりかかる日常と父への無言の抗議だったのかもしれないが、もっと他にやり方があっただろうにと私は思ってしまう。

まあその不器用さが母なのだが。

トラウマとまではいかないが、今でも水炊きを食べるのにはちょっと抵抗がある。


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