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【永久保存版】唯一無二の鬼才クリストファー・ノーラン監督の履歴書

その作家性と驚異の映像表現で人気を博す、鬼才クリストファー・ノーラン。
これまで数多くの作品を世に送り出してきたノーランだが、そのジャンルは多岐にわたる。
あなたが好きなのは、圧倒的なリアリティを持たせたアメコミ映画だろうか?とてつもないテーマ性を持ったSF映画だろうか?それとも史実に基づく戦争映画だろうか?
ここでは、これまで様々なジャンルで才能を遺憾なく発揮してきたクリストファー・ノーラン監督作品をナビゲート!


『Doodlebug』(1997)

当時クリス・ノーラン名義だったノーランが、長編映画を監督する以前に製作した短編映画。
アパートの一室を舞台に何かにとり憑かれたかのような男の姿を描く一作だが、その焦燥感を煽る描写や謎めいた空気感は当時から健在だった。
若くして、フィルムメーカーとしての実力と才能を遺憾なく発揮しており、日常にありふれたシチュエーションの中に、ミステリーを混在させる。
約3分間と短めであるが、驚愕のラストは圧巻だ!

『フォロウィング』(1998)

クリストファー・ノーランが監督・脚本・製作・撮影・編集をこなし、製作費6000ドルの低予算で作り出した、衝撃の長編デビュー作。
退屈のあまり人を尾行する趣味に没頭する男の不運な末路を描く『フォロウィング』は、人間の性をテーマに扱った作品である。
時系列をごっちゃにしたところはまさにノーランらしく、モノクロで手持ちカメラの揺れを利用したアーティスティックな映像は、とてつもない芸術性に優れている。
中盤で部屋のドアにバットマンのロゴが登場し、その後のキャリアを想起させる。
随所にちりばめられた伏線の数々を見逃さないようにしたい。

『メメント』(2000)

クリストファー・ノーランの名前を一躍世界に知らしめた、時間逆行型サスペンス。
主人公の保険調査員・レナード(ガイ・ピアース)が、ある男を射殺した瞬間から始まり、そこにいたる発端となった出来事まで遡っていくストーリーが展開される。
時間的展開が通常の映画と異なる点が非常に革新的であり、フィルムメーカーとしてのノーランの個性が現れている。
カラー映像とモノクロ映像を混合させ、物語が進むにつれて謎が紐解かれていく様は観ている側としても鳥肌ものだ。
クリストファー・ノーランの弟であるジョナサン・ノーランが書いた短編『Memento Mori』が基になっている。

『インソムニア』(2002)

クリストファー・ノーランがキャリア史上唯一、脚本を兼任していない作品。
昼と夜が逆転する白夜のアラスカを舞台に、17歳の少女の殺人事件を捜査するためにやって来た刑事とその犯人との駆け引きを絶妙な心理描写で描き切る、傑作サスペンス。
同名のノルウェー映画のリメイクであり、ノーランはスタジオに雇われる形でメガホンをとった。
そのため、彼の個性というものが発揮されていない印象を受けるが、それでも画角の使い方やフラッシュバック描写などからはノーランらしさを感じさせる。
アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクといったオスカー俳優たちの演技を見事に引き出している。

『バットマン ビギンズ』(2005)

DCコミックス原作の「バットマン」を、当時、『メメント』(2000)や『インソムニア』(2002)で注目を集めていた新進気鋭の監督クリストファー・ノーランによって、よりリアルに、そしてダークに構築された世界観が魅力の三部作。
1作目である2005年の『バットマン ビギンズ』では、‘‘闇の騎士’’の誕生と共に、犯罪が横行するゴッサム・シティに守護者となるべく存在が台頭していく様を描きだした。

『プレステージ』(2006)

『バットマン ビギンズ』で商業的成功を収めたノーランが、クリストファー・プリーストの小説『奇術師』を映像化した、サスペンス・ミステリー。
19世紀末のロンドンを舞台に、過去の因縁によって、お互いをライバル視する2人の天才マジシャンの姿を描く。
映画自体が一つのマジックショーのようになっており、プレッジ(確認)、ターン(展開)、プレステージ(偉業)という段階を踏んで映し出される。
驚愕のラストへと繋がる数々の伏線を読み解くのが非常に困難であり、本作からクリストファー・ノーラン作品における難解さが話題になるようになった。

『ダークナイト』(2008)

「バットマン」シリーズ2作目となった『ダークナイト』(2008)では、それまでの「バットマン」実写映画ではありえなかった「バットマン」の名前をタイトルから外した作品として大変な注目を集め、ヒーロー映画、アメコミ映画というジャンルには収まり切らない魅力を醸し出した。
「人間とはいかなるものか?」「ゆるぎない人間の性」といった奥深いテーマを解き明かし、ゴッサムの絶対的守護者だった男の零落を描いた。

『インセプション』(2010)

そもそもの始まりは、『インセプション』公開の約20年前。若かりし頃にノーランが思いついた一つのアイディアだった。
夢の中に入り込む泥棒を描くコンセプトで執筆した脚本を、2002年にワーナー・ブラザースに提示。
ここからさらなる年月をかけて、構想から約20年を費やし製作された超大作が『インセプション』なのである。
他人の脳内に侵入し、アイディアを奪い合う産業スパイの姿を描いた本作の斬新なストーリー性と唯一無二の映像表現は観る者を圧倒し、クリストファー・ノーランの才能に全世界が惚れ込んだ。

『ダークナイト ライジング』(2012)

「ダークナイト」三部作の完結編となった『ダークナイト ライジング』(2012)では、前作で一線を退いた‘‘闇の騎士’’が再び、守護者として飛翔する様を描く。
地下牢獄‘‘奈落’’から這い上がるブルース・ウェインの姿は、まさに本作の象徴的シーンと言えるだろう。
「ダークナイト」三部作は、ヒーローとして現れた一人の男が飛び立ち、一度奈落の底に突き落とされながらも、再び舞い上がる不屈の闘志を描いている。
ノーランもまた2005年の『バットマン ビギンズ』で飛翔し、その後のキャリアを決定づけたと言えるだろう。

『インターステラー』(2014)

謎の疫病によって浸食された地球から人類を救うために、居住可能な惑星を探索する宇宙飛行士たちの姿を描いた、SF大作。
特殊相対性理論、特異点、ニュートン力学などの科学的考証を用いた非常に難解な作品ではあるが、父と娘の絆や飛行士たちの人生といった人間の本質を描いた一本でもある。
クリストファーとジョナサンのノーラン兄弟が脚本を執筆しており、終始、挑戦的なストーリーが繰り広げられる。
公開当時はリピーターが続出したことでも有名である。

『ダンケルク』(2017)

クリストファー・ノーラン監督作品で一際異彩を放つのが、第二次大戦下で繰り広げられた史上最大の救出作戦を描き出した映画『ダンケルク』である。
これまでのキャリアでは、完全オリジナルの作品が多く、ストーリーや世界観も自らの頭の中で作り上げてきた印象の強いノーランが初めて挑んだ実話映画なのだ。
しかしながら、その演出には斬新さが際立っており、陸・海・空の3つの視点から戦争のリアルが映し出される。
劇中で描かれている期間というのは極めて短く、第二次大戦のほんの一部分のみを映し出した作品ではあるが、戦場の緊張感をセリフをほとんど使わない圧倒的なディテールで描写したその手腕はさすがの一言に尽きる。

『TENET テネット』(2020)

タイムパラドックスや時間の逆行といったテーマでSFファン、科学オタクを唸らせた一本。
物語の舞台となるのは、現代。一人の名もなき男が、「逆行する銃弾」やそのほかの特別な装置を利用して世界を破滅させようとする武器商人を止めようとする物語が展開される。
車が後ろ向きに走ったり、銃弾が銃に逆戻り、まるで巻き戻し映像を見ているかのような気分にさせる、誰も観たことがないような映像作品。
タイトルに現れているように、本作は「回文」が重要な要素であり、劇中に登場する人物や会社名にも注目したいところだ。ともあれ、絶対に一度の鑑賞ではすべてを読み解くことは不可能であろう。
ノーランが構想に20年以上をかけ、幾度となく脚本を練り直したという本作は、ノーラン作品特有のリピート必須の一本である。

『オッペンハイマー』(2023)

第96回アカデミー賞において、作品賞、監督賞を含む最多7部門受賞の伝記映画。
‘‘原爆の父’’として知られる理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描く。
2023年の全米公開以来、日本での公開が長らく懸念されていた衝撃作が、ついに日本上陸を果たした。
世界が再び「戦争」という過ちを繰り返す時代へと突入した現代だからこそ観るべき一本である。決してオッペンハイマー自身を肯定するわけではなく、その解釈は観客に委ねるものとなっている。唯一の原爆による被爆国である日本で公開することにこそ意義があるのではないか。

その斬新な切り口と独創的な世界観で映画ファンを虜にしてきたクリストファー・ノーランは、まさに映像作家と呼ぶにふさわしい。
毎回、斬新かつ唯一無二のストーリーや映像で、我々に難問を突き付ける。
何度も何度も鑑賞しては‘‘答え’’を見つけていくところに、クリストファー・ノーラン監督作品の醍醐味があるのだろう。
(※筆者がノーラン作品を鑑賞するたびに、この履歴書はアップデートされていく)

(文・構成:zash)

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