【Memory of Movies】第6章 あまりにも衝撃的だったヒース・レジャーの演技…『ダークナイト』
クリストファー・ノーラン監督最新作『Oppenheimer(原題)』が全米で公開され、映画ファンの間で大きな話題となっているのをSNSで眺めていた。
そんな時、ふと、2008年に『ダークナイト』を劇場に観に行った時のことを思い出した。
当時は、現在とは違い、SNSがそこまで普及していたわけではなかったため、私自身もTwitter(X)などをやっていなかった。そのため、あの時の衝撃を消化する場所がなかった。
『ダークナイト』は私の映画人生をいろいろな意味で大きく変えた作品であり、その衝撃は計り知れなった。
今回は、あれから15年の時を経て、どれほどまでの衝撃だったのかを吐き出したいと思う。
まさか「バットマン」の映画だとは!
当時、高校1年生だった私は、映画漬けの日々を送っていた。
高校進学と共に、周囲に映画友達が増えたことも要因していると思うが、あらゆる作品を片っ端から鑑賞する日々を送っていたのだ。
その最中に、ある予告編に目が留まった。
『ダークナイト』と冠されたアメコミ映画のその予告編は、初心な映画ファンである私の心に突き刺さった。
最初は、これがまさかバットマン主体の映画だとは思わなかった。どうしてもピエロメイクの怪人にばかり目が行ってしまい、これはジョーカーが主人公になる映画なのかと思ったのである。
字幕版を初めて劇場で鑑賞した作品
私の中での「バットマン」映画と言えば、ティム・バートン版の『バットマン』(1989)やヴァル・キルマーが主演を務めた『バットマン フォーエヴァー』(1995)など、どちらかと言えばポップでファンタジー色が強めの作品だというイメージがあったためか、『ダークナイト』のシリアス且つリアルな描写というのは「バットマン」映画とは結びつかなかったのだろう。
この予告編を観た後、すぐに『バットマン ビギンズ』(2005)を鑑賞し、クリストファー・ノーラン版の「バットマン」に触れたわけだが、正直なところ、未熟な考えの持ち主だった私には初見ではその魅力が伝わらなかった。おそらく、アメコミ映画らしいバットマンのド派手な活躍が観られなかったことが原因だと思う。そのような状況の中で劇場へと足を運び鑑賞した『ダークナイト』は、あまりにも衝撃だった。
DCコミックス「バットマン」を鬼才クリストファー・ノーラン監督が映像化した「ダークナイト・トリロジー」第2作『ダークナイト』は、ゴッサム・シティを守るバットマン=ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)の前にピエロの仮装をした宿敵ジョーカー(ヒース・レジャー)が現れ、恐怖の殺人ゲームを繰り広げる様を描く。
実は、『ダークナイト』は私にとって、人生で初めて字幕版を劇場で観た映画なのだ。
それまでは吹き替え版で鑑賞するのが通例だったのだが、字幕版のみの上映だったために、仕方なく字幕版を鑑賞したのだ。
これが大正解で、その後の映画人生を大きく変えたのである。
あまりにも衝撃的だったヒース・レジャーの演技
『バットマン ビギンズ』にハマれなかったため、そこまで期待はしていなかったのだが、冒頭でヒース・レジャー演じるジョーカーがピエロマスクを取って顔を露にする瞬間に鳥肌が立ったのだ。
その圧倒的存在感とカリスマ性、そして、まさにジョーカーが憑依したかのような演技の数々に圧倒され、約2時間30分の間、不覚にも目が釘付けになってしまった。
上映終了後もしばらく席から立ち上がれなかったことを覚えている。
自分は一体なにを観たのか?触れてはいけないものに触れてしまったのではないか?まさにパンドラの箱を開けてしまったかのような気分になったのだ。
思い起こすのはジョーカーの姿のみ。スクリーンいっぱいに広がる不敵な笑みと不気味な笑い声が忘れられなかった。
あのヒース・レジャーという男は何者なのか?帰宅後に彼を調べるうちに、受け入れられない事実を知ってしまう。ヒースは、すでにこの世にはいなかったのだ…。
私は不運にも死後にヒース・レジャーを知った。そのため、生前の彼の俳優活動をほとんど知らない。
それがあまりにもショックで、『ダークナイト』鑑賞後に、ひたすら彼の出演作を観まくった。
作品ごとに印象が変わる抜群の演技力とカリスマ性は、もはや常人には到達できないほどの境地にあり、最高の演技者であるヒース・レジャーという男をもっと早くに知っておきたかったと改めて実感させられた。
『ダークナイト』で俳優個人の演技を楽しむということを知った私は、その後、映画は字幕で鑑賞すると決めた。
人生に大きな影響を与えるような最高の演技を見逃さないために…。
『ダークナイト』におけるジョーカー=ヒース・レジャーは、映画の鑑賞方法を大きく変えるきっかけになった作品なのである。
(文・構成:zash)
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