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詩 『死に向かう二十歳のうた』 5




「夜に爪を切ったら親の死に目に遭えない。」



そう言われて育ってきた。

私は親の死に目になんて遭いたくない。

親は自分のこの世からの旅立ちを我が子に見てもらいたいものなのだろうか。


私は誰の死に目も見たくないし

私の死に目は誰にも見られたくない。

誰かをこの世から見届けるなんて

そんな崇高なこと私にはできない。

どんな綺麗な涙も感謝の言葉もあげられない。


私はいつもそうだ。


大切な言葉は私の口からは出てこない。


暗いバスタブの底に沈んだかのような空気の中に誰かといるということに耐えられない。

気の利いた言葉の一つもかけてあげられないし

そんなことしている自分が偽善者の様に感じられてどうも耐えられない。


暗いバスタブの底に沈んだかのような静かな空気の中に私ひとり。

何にも邪魔されずあなたのことをただ考えていたい。

心の中であなたとの思い出を辿って感謝の言葉を贈る。


あなたが大切だから

あなたの生き生きとした記憶を最後にしたいです。

あなたにもそうしてほしい。

どちらが先に旅立つかはわからない。

親より先に旅立つことが一番の親不孝。

そしてあなたの死に目に遭いたくないという更なる親不孝。

常に愛しているし感謝しているけどその言葉は私の口からは出てこない。

だってあなたたちの口からも出てこないから。

私やっぱりあなたたちに似てる。

似たもの同士わかりあえてるって思い込みながら生きていこう。

ここには記しておくことにします。

今日も愛しています。



家族へ

2024/06/24

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