私小説家の題材【求めたひと】

どこかに満たしてくれる人はいないかと彷徨っていました。私を正確に確実に満たすのは誰であるか、そんなことはまるでわかりませんでしたから、ただただ思いのままに気持ちのままに進軍を続けていました。

いつものことです。私はどこに行っても女であろうとしてしまいます。人である前に女であろうとするのです。特段欲しくもないけれど、そんなふうに女であることが癖になっているのかもしれません。時に人の感情を殺してまでも欲しいものを手に入れようとします。それは、自分の手を汚しませんから男性にとっては心地よいものでしょう。ヒーローにしてあげるのです、この私が。たきつけるように心地よい行動に誘導してあげますから、男性は喜んで殺してしまいます。だれの感情かは論ずるまでもありませんが、それだから私はいつも最後まで誰ともなじめないのです。愛しいと思うことも多くありましたが、感謝はしますが、やはりその方の周囲に目ざとい女性がいれば、その男性の価値がわかりますから、すっと気持ちも冷え切ってしまいます。

男の価値は女で決まります

私は誰の女でもありませんから、どの男性と共にいても「この方が私のものだ」とは表情にも言葉にも嘘がつけませんでした。


さて、私が求めたひとというのは誰のことか。それを知りたいのだと思いますから包み隠さずに申し上げます。

女性が自慰行為にふけることを多くの女性は眉をひそめてしまうでしょう。そんなことはありえない!と声高に言う女ほど、男性は何か怪しみますから、そう人間臭さを消そうと努めれば努めるほど人はその人の本質を見抜くのです。隠すとき人は本質をさらしてしまうのです。話がそれましたが、女性が自慰行為をしているときに、男性の顔を思い浮かべることが時にあるとかないとか。無意識を私は潜在意識と呼びますけれども、その時に夢のように襲い掛かった人がその「誰」でありました。名前は知りません。知る必要がありませんから私はいまだに聞こうとはしません。何を日々食べ飲み、何を生業にしているかそれも存じ上げません。それも私にとって取るに足らないことだからです。そのすべてがなくてもその人はきっちりと私の隙間を埋めます。隙間という隙間をです。私に隙間があることを指摘しましたから、その日から私は目覚めたというわけです。

この文章を読んでいる男性の中にたったひとりだけご自分のことだとわかる人がいます。偶然にも今日この文章を発見したのでしょう。はじめての私とあの時のあの女が合致したのだから驚いていることと思います。大変なことですが、見つけてくれてありがとう。

ヒントは血管がまるで刺青のように張り出た腕と、細く神経質な視線、蟹股の歩き方と、日焼けした武骨な手、社会的成功のその姿には多くの女性が群がり、幾度となく多くの女性と朝を迎えたことでしょう。品の良い丈の整ったスラックスと磨き上げた革靴の時もあり、プライベートでのスタイリッシュな私服はきっと長年のランニングで培ったしなやかなふくらはぎを中心に考えられたコーディネートなのでしょう。(私がプライベートを知っていたことに驚かれたかもしれません。ごめんなさい、これでも恋をすると一心不乱にすべてをかけてしまう性分なのです)年齢も私は存じ上げませんが、あなたはきっと40歳前後かしら?残念なことに私はあなたが家族といることを幾度も見ているの。がっかりしてしまったけれど、それも運命の中のことですから仕方ありません。受け入れることにしています。いつもそこにいて私を熱心に見つめてくれました。ありがとう。

男の価値は共にいる女で決まります。

再会の前にひとつだけお聞きしたいことがあります。

あなたは、私を隣においてくださいますか?



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