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秋山幽
2021年4月13日 22:45
朝焼けにも似た色の照明が、賑わうホールを明るく照らしている。等間隔に並べられた円テーブルは、どれも真っ白なクロスを敷いた上にぴかぴかの食器を備え、真ん中には花が飾られていた。 出席者は四〇人ほどか。誰もが正装をして、皆一様に楽しそうな顔で、同じ席の面々と話をしている。誰とも喋らないまま遠巻きにそれを眺めているのは、美鳥ひとりだった。 ぼうっとしていると、賑やかな声の間をすり抜けるようにこちら
2019年9月23日 03:12
義母さんの運転する車が家を出て、まっすぐな道を進んでいく。私はいつもこのまっすぐさがもどかしくて、じっとバックミラーを睨んでしまう。様々な外観をした住宅が映っては消えていく。自分の家はすぐに見えなくなっても、立ち並ぶ家々がどれもどこか同じように見えるから、まるで自宅に付き纏われているような心地になる。それを嫌だと思うのはきっと、自分の家自体を嫌っているわけではないからだった。 ようやく最初の曲
2019年8月7日 10:29
スマートフォンから響く素っ気ないアラーム音で目を覚まし、怜は誰に憚ることもなく大あくびをした。緩慢な動きでアラームを止めると日付が目に入り、ああ、と小さな声が漏れた。菜々緒がこの部屋を出ていって、今日でちょうど二ヶ月だった。 ダブルベッドの使われなくなった半分へと、知らず視線が向いた。モノトーンの調度で揃えた寝室の中で、そこに残ったままの菜々緒の枕だけが、ぽっかりとパステルブルーだった。 も