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印刷業界から在庫紙が消える日をめざして。“ない”部分にこそ感じる「kamikatu舎」のノートの価値

STORY08:”ほぼ在庫紙100%”のノート「kamikatu舎」

つくり手のストーリーを通じてつかい手と“いとしさ”を共有するエシカルオンラインショップ「メルとモノサシ」に掲載中のブランドストーリーをnoteでもご紹介しています。ブランドさまへのインタビュー記事です。

印刷業界から在庫紙が消える日をめざして。“ない”部分にこそ感じる「kamikatu舎」のノートの価値

西嶋輝さんのSTORY

パソコンやタブレットなどが普及しても、日常のどこかできっとつかい続けていくであろうものの一つ、ノート。

メモ用だったり、日記用だったり、はたまたなんとなく持ち歩いていたり。ふっとアイデアが浮かんだ時は、デジタルよりも紙にペンで書く方がむくむくと膨らんでいくあの感覚、わかる人も多いはず。

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「kamikatu舎」の小ぶりでシンプルなノートは、印刷会社の倉庫に眠っていた在庫紙でつくられています。

ディレクターを務める西嶋さんは、地元・兵庫県加古川市で活動するグラフィックデザイナー。kamikatu舎に関わったのは、かつて勤めていた姫路市の印刷会社「くぼ写真製版所」の社員さんから、倉庫の在庫紙について話を聞いたことがきっかけでした。

「西嶋さん:4年ぐらい前、倉庫内の整理や掃除をしたときに、紙のストックが大量に出てきたらしく、「この紙、うまくつかえないかな」と軽く相談されたんです。社長と営業さんと3人で相談し、「捨てるのはもったいない。文房具をつくろう」とkamikatu舎がスタートしました。

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大量の在庫紙が余ってしまう背景には、印刷会社ならではの事情がありました。注文枚数にかかわらず、発注の単位が100枚・200枚と大きかったり、校正用やサンプル用を見越して多めに発注したりするため、印刷枚数よりも発注枚数が多くなり、余ってしまうのです。活用しきれない紙がどんどん積み重なり、倉庫に大量に眠っている状態でした。

「西嶋さん:そもそも僕は紙が好き。「もったいないから、なんとかできないか」という強い思いがありました。

調べてみると、東京には自社の在庫紙でメモ帳をつくって無料配布をするような印刷会社も。西嶋さんは在庫紙に可能性を感じ、プロダクトづくりに挑戦することにしました。とはいえ、お互いにプロダクト企画ははじめての経験。全くゼロからのスタートでした。

「西嶋さん:「消耗品だったら何度も買ってもらえるからいいよね」「ノートだったら使い終わっても手元に残しておけるよね」と、ノートをつくることになりました。ストーリーを伝えやすいかなとも思って。

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いろんな種類の在庫紙がある中、「表紙にはどれがいいか」「ノート部分は書きやすいものを」と、できるだけ全ての在庫紙をつかいながら、ある程度の品質を保てるような生産方法を考えました。

「西嶋さん:kamikatu舎は、“少量生産”で進めています。あまりたくさんつくったら在庫を抱えることになってしまうので、基本的には「その時に出た紙でつくる」というスタンス。一つの紙がなくなると次はまた違う、余っている紙でつくっていくんです。

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初期は、長年倉庫で保管していたために日に焼けてしまった紙も入っていたそう。今でも、「一つひとつ見れば少し端が折れているものもあるかもしれない」と西嶋さん。そんな在庫紙ならではの“焼け”や“折れ”すらも味として楽しめるよう、イベントなどでストーリーを語って販売してきました。

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ノートの柄は、無地・ドット・ラインの全3種類。ドットとラインの柄は印刷しています。

一方、表紙につかっている厚みのある紙は、印刷につかう「版」が梱包されていた厚紙。印刷が終われば活用の術もなく捨てられていたものが、表紙にぴったりの厚みだったのです。

「西嶋さん:これがなかったらノートづくりは無理だったと思いますね。在庫紙はチラシ用の薄い紙が多いので。版は印刷で必ず必要なので、この厚紙は印刷業をやめない限りあるんです。表紙はスタート時からずっと同じものをつかっています。

2017年の発足から4年がたち、デザインをリニューアル。大きなポイントは、製本テープをなくしたこと。見た目もスッキリし、よりシンプルな印象になりました。

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「西嶋さん:テープをなくして、よりスリムにしました。見た目だけでなく、考え方のスリム化。“在庫紙だけをつかったノート”にしたくて。製本テープは資材として購入していたので、テープをなくすことによって価値が高められると考えました。

本当はホッチキス綴じもやめたいんですよ。でも今はまだ、強度のためにホッチキスを使わざるを得ない。できることなら紙のホッチキスで綴じたいんですけどね。とにかく100%在庫紙でつくって、捨ててしまう紙を極力減らし、つかい切りたいです。

ノートにつかっている在庫紙は、A3の紙を半分にカットしただけで、切れ端を出さずに無駄なくつかい切っているそう。つかいやすさを追求しながらも、「在庫紙をつかい切りたい」という思いが随所に反映されています。

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また、表紙に刻印が押されているのもリニューアルのポイント。右下にはkamikatu舎ロゴ、右上にはドット・ラインを表すマークをそれぞれ、西嶋さんが一つひとつ手作業で押しています。

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さらに今回、印刷で裁ち落としたときに出るカラーバーを活用し、発送時にセットを束ねてもらうことになりました。

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「西嶋さん:本当は、在庫紙がない方がいいんです。在庫紙をなくすのが僕らのミッションだと思っていて。そのためには印刷業界のしくみから変えていくしかないけど、それはあまりにも大きな課題で、僕らの力じゃ何十年もかかる。それだったら、今は日の目を見なかった在庫紙をアップサイクルしてつかってもらう方がいいと思ってやっています。

kamikatu舎の次のステップとして、近隣の印刷会社や紙屋さんから在庫紙を買い取り、プロダクトをつくっていくことも考えています。

「西嶋さん:そのしくみができて、新しい関係性が生まれてくることにも価値があると思っています。「こういうことをやっています」「じゃぁうちもやりたいな」っていうのが理想ですよね。kamikatu舎がハブにならなくてもいいから、みんなが影響をもらって独自でこういうプロジェクトが生まれて、新しい価値を築いてくれたらいいなと。

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印刷業界全体の問題も見据えながら、「紙が好き」「在庫紙をなくしたい」という思いで続けてきた西嶋さんですが、それと同時に、kamikatu舎の活動にこれまでにない楽しさを見出しているそう。

「西嶋さん:やっぱり僕一人でやっていないところがいい。人と何かをやっていることに価値があると思っています。それが世の中をよくしたり、社会的に意味があったりするっていう部分が、僕は好きなんだろうなぁと。くぼさんだからこそ一緒にやっていて楽しいし。紙好きの僕とつながったも何かの縁かな、と。

クライアントの繊細な思いにしっかり寄り添うのが、デザイナーとしての西嶋さんのスタンス。しかも「地元」にこだわって仕事をしているため、デザインの納品後もお店に立ち寄ったり別のプロジェクトに声をかけたりと、さまざまな形で関わり続けています。そんな関係づくりの経験が、kamikatu舎でのプロダクトアウトにいきているように感じました。

ものづくりやデザインは、思いが強いほど、時に要素が溢れかえってしまうことも。シンプルで無駄のないkamikatu舎のノートをつかっていると、このデザインに至るまでに削ぎ落とされた部分にこそ、「100%在庫紙でつくりたい」「在庫紙をつかい切りたい」という思いが詰まっている気がします。“ない”からこそ見えてくる価値を感じながら、いつかこのプロダクトがなくなる日まで、何冊も何冊もつかっていきたい、そんなノートです。

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