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「この店のコーヒー豆で染めた生地で作りました」という価値。

ちょうどゴールデンウィークの頃だったかと思います。

地元・名古屋の高校時代からの友人で、CHIMA CHIMA BORNというブランド名で布小物やつまみ細工などを製作する作家の子から電話がありました。彼女は、名古屋市内のカフェで作品を常設販売しています。

今日は、そんな彼女の作品に使う生地を、私なんぞが染めてしまったというお話です。

人気のマスクに、”染め”で新たな価値を

さてこの電話、最近はマスクがとても売れるからマスクばかり作っている、だんだんと市場でマスク入手のハードルが下がってきたので、これまでと違う価値をつけてみたいと思っていたところ、私のインスタグラムでキッチン染めをやっているのが気になったから相談したい、ということでした。

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↑CHIMA CHIMA BORNのマスク。(実はこのブランド名も提案させてもらいました)

最初は、染め方を伝える(教える、というほどはまだ技術がないので)つもりで話を聞いていた私でしたが、意外なことに「染めてもらいたい」と言われ、思わず動揺…。

自分の着なくなった服を染めたり、”染め”を通じて人と人の対話を促すことはできても、作家さんの(プロ)!商品の材料となる(プレッシャー)!生地(やったことない)!戦々恐々でしたが、チャンスが訪れるとすぐ飛びついてしまう性分…「成果報酬型」という条件で、引き受けることにしました。

何で染めよう?”単なる色”ではない価値とは

そこからは、「マスクに適した色」を話し合いました。彼女の経験だと、3月ごろまでは花柄などの可愛い柄物が売れていたけれど、徐々に通勤に適した無地の渋い色のものが売れるようになった、ということでした。

私のインスタグラムを見て、コーヒーの色が気になっているということでした。「カフェのマスターも興味津々だったよ!コーヒーでこんな青い色に染まるんだねーって」と。

青!?と思いましたが、この写真、確かに少し青っぽく見えるかもしれないですね・・実際にはもっと赤みが強く、そんなことはないんですが。写真というのは光加減で本当に色が変わるから、色味を伝えるのが難しいですよね。

商品企画をやっていたころ、色味の確認は生地スワッチ(生地そのものの見本)で!という世界で生きてきた私としては、スワッチを作って送ろうか?とも思ったのですが、キッチン染めは毎回色の出方が違うもの。スワッチ通りの色にならないことも明白…。

そんな不安に駆られながらも、インスタグラムの写真を参考に色の話を進めることに。私からは、キッチン染めならではの、「色」だけでなく「効能」を訴求する提案をしました。

例えば、みかん染め。みかんの皮を乾燥させたもので染料をつくるのですが、みかんの皮を乾燥させたものって、実は漢方薬では「鎮咳剤」として使われているんですよね。”よもぎ蒸し”でおなじみよもぎには、体を温める作用がある、とか。自然のものにはこういったことがうたえるものは多いのです。

ただ、薬事法上、効能は明言はできないので「みかんの皮は、咳に良いと言われています」などとやんわり表記する必要があります。(これは、会社員時代、化粧品EC担当だった時に身に付けた知識です・・)

彼女自身も初めてのことなので、提案をたくさん受け入れてくれ、「そんなのもありだね〜」と話し合いはどんどん進みました。

”この店のコーヒーで染めた生地”で商品をつくる

先述のように、カフェのマスターがコーヒー染めに興味津々だということを聞き、「ならばお店のコーヒーで染めてみては?」という案が浮かびました。

「お店のコーヒーで染めた生地で作った布製品をお店で販売する」って、うんうん、想像するだけでワクワクしますよね。あいにく青ではないのだけど(笑)、コーヒー染めを鉄で色止めしたものはとても渋い、かっこいい色味になるので良いのでは?と勧めました。

ただ、鉄で色止めした生地には鉄の匂いが残ってしまうのが難点。マスクには向かないかな、と話していました。彼女も「カフェのマスターの意見も聞いてみる!」と悩める様子。

あとは彼女の中で検討を進めて種類を絞り、決定したものを知らせてもらうことになりました。

コーヒー・みかん・よもぎ・アボカドの4色に

最終的に、お店のコーヒー豆ガラ、みかん、よもぎ・アボカドの4色を染めることになりました。すぐに生地と豆ガラ(20 杯分くらい?)が届き、納期は1週間後。ドキドキしすぎるあまり、翌日から1日1色を4日連続で行い、一気に染め上げました。

ダブルガーゼの生地は意外と染まりにくい、というのは経験があり知っていたので、下処理をかなり長めに。半日くらいかけてタンパク処理を行いました。染液も、材料をいつもより多めに入れ、長時間グツグツ…。念には念を。失敗のなきように。丁寧に丁寧に。こういう時、実は自分の本性が真面目で几帳面でビビリ屋なことを思い知らされます(笑)

染液に数時間浸し、媒染液に浸し、、を繰り返し行い、色が徐々に濃くなっていくのを確認…この時間が、染色で一番好きな時間かもしれません。「あ、うまくいった」「あー今回はだめだ」が如実に表れるのがこの時です。幸いにも、この度は4色とも、「あ、うまくいった」を味わうことができました。

トータルで何リットルの水を使い、どれだけのガスを使ったのでしょう…それは分かりませんが、「職人ってこんな感じで仕事してるのかなぁ〜」と考えてしまうような、黙々と作業をする4日間を過ごしました。

そして出来上がったのがこちら。

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やはり本物の色とは少し違うんですけどね。上からみかん・よもぎ・コーヒー(生地1)コーヒー(生地2)・アボカド、です。どれもほんのりと着色し、いい感じの自然な風合いになりました。

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別角度からの写真。こちらの方が実際の色味に近いですね。真ん中のコーヒー(生地1)は太番手の糸を使った厚手の生地。たて糸は白のままで染まっていないのでどうやらポリエステル糸だったようです。

反省点とこれからのこと。

「うまく染まったぞー!」と舞い上がった私。わかっていたのにやってしまったことがあります。それは、「できたよー!」と、彼女に先に写真を送ってしまったこと。先述のとおり「写真と実際の色の差が怖い」とさんざん心配していたくせに、嬉しくてすぐさま送ってしまったのです。

間違いなくこれは、先に染め上がった生地を送るべきでした。写真の陰影・光加減でイメージが膨らんでいるところに、実際のものが届き、「写真と違う」という印象だったようです。ああ、本当に後悔。でも、「どれもいい色だね」と喜んでくれたことが嬉しかったです。

コーヒー染めの生地で、彼女は自分使い用のショルダーバッグを作ったそう。私の活動コンセプトに合わせて「内生地は新しいものを買わずに、家にあったものにしたよ!」とのことで、そのことも嬉しかったです。

さらに、以前彼女が購入してくれた、私が企画する「誰もが、誰かの支えになるプロジェクト」のキーホルダーをつけてくれました!

今回の生地染め、昔からの友人とこのような遠隔コラボができ、とっても嬉しかったし、とっても勉強になりました。染めた生地を使って、これからマスクやその他の布小物を色々と製作する予定らしく、それらを見られる日がとっても楽しみです。

こうして「人からの依頼で染める」という、初めてのことをなんとか終えたわけですが、では私が今後、依頼を受けて作家さんの材料を染めるという、職人としての「染色業」をやっていくか、というと、それはなんだか違うのかなぁと思いました。

今回のように、知っている人からお話をいただき、一緒にストーリーを考えて、という一連の流れであれば「是非とも!」と思うのですが、やっぱり自分はこの「ストーリー部分」を提案することが一番好きであり、やりたいことなんですよね。なので、今後もし機会をいただいたら、「ストーリーづくりのところから関わらせてもらいたい!」とお返事をするんだと思います。(もうこんな機会は巡ってこない気もしますが)

自粛期間に興味本位で始めたキッチン染め。ありがたいことにワークショップ講師をさせてもらったり、ハンドメイドの材料を染めさせてもらったり。これらの経験を通して、自分が新たに身に付けたキッチン染めのスキルを、どうやって生かしていきたいか、徐々にしっかり描けてきた気がします。

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CHIMACHIMABORNの商品が販売されているカフェは、名古屋にある「隠れ家ギャラリーえん」さん。(※現在は「街と珈琲」さんという新しいお店になっています)

自家焙煎コーヒーが売りのカフェ。ご興味あればぜひ、足を運んでみてください。(生地と一緒に豆を送ってもらい、美味しくいただきました…!)

※情報が古くなっていたため、2023年1月に追記・修正しました。

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