思い出話その3・家族旅行

旅についてふたつ書いたけれど、子どもの頃は、旅行、というのは、実際、あんまり嬉しいものではなかった。

ほとんど毎年、夏休みになると、祖父母があちこち(しかし祖父が飛行機嫌いなので車で行かれる範囲がほとんど)、連れて行ってくれて、みんなでわいわい、おいしいものを食べ、温泉に入り、城とか遺跡とか遺産とかを見る。
宿題の日記にも書けるし、まさに完璧な家族旅行だったのだけど、ひとつ、問題なのが、そう、暑い。

それももう、ちょっと暑いなぁのレベルではない、一年で最も暑いであろう八月の、晴天、しかも観光地なので人がわんさか。
日焼け止め塗っても汗ですぐ落ちてしまう南国で、祖父の構えるカメラを見ながらも、まぶしすぎて、あぁ、はやく旅館に帰りたいぃ…。

それこそ、松山城。
暑くて暑くて暑い以外なにもないくらいに暑かった真昼、長い長い階段を、祖母と、汗を拭きあいっこしながら上まで登った。
先を駆け上がる幼い従兄弟を見上げ、あぁどうしてたった六歳しか違わないのにあなたはそんなに爽やかなの…と、終わらない階段に半ば絶望して、あのとき汗を拭いたのは、ピンク色のタオルだった。
そして肝心の城のことは、まったく憶えていない。

十五年以上が経って、あんなにつらかったのに、どうしてかとてもいいものだったように思い返してしまう。
あの旅もまた、あの旅も。

母と妹と、三人で行った淡路島。ピカソの絵に祖母がえらく感動していた倉敷。もっとずーっと昔の、白浜でぼんやりと踊る人たちをみた、ハマブランカ。

しかし結局。
北海道で、暑いどころか肌寒いねって、ただひとり七分袖のカーディガンを持ってきていた母をうらやましく思ったあの夏が、馬に乗って、夜風にあたって。やっぱりいちばん、たのしかったような気がする。

小樽で買ってもらったガラスは、今でもずっと、宝物です。

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