- 運営しているクリエイター
#クマ問答
うたは、そおっと毛布をかける。
クマが子ぐまに言った。やさしいうたをうたうひとは、うまくうたえるようにではなく、そおっと毛布をかけるようにうたっているよ。それは、そのひとがやさしいひとだからではなく、いままでそうゆうことができていなかったから、せめて、という祈りと願いと懺悔から。そしてそうゆううたは強いんだ。
悲しくならなくて済むには
悲しくならなくて済むには
どうすればいいの?
子ぐまが訊いた。
クマが答えた。
ただ、立ち止まらずに
進むのさ。
その痛みに、状況に、言葉に
立ち止まらずに、すこし先を見て。
秀でたひとがその先へ
ゆけるんじゃない。
立ち止まらなかったひとが
その先の光を見つけるのさ。
どうしても見つからないものはどこへ行ったの?
どうしても見つからないものはどこへ行ったの?子ぐまが訊いた。クマが答えた。ペルセウス座流星群の遺失物扱い所さ。長い列ができてる。みんなもっと大きな失くしものを探しに来ている。自分さ。たいてい見つからない。係の人はこう言う。はじめから無かったんです。今日からのあなたがあなたです。
花は咲いているものではない。
クマが子ぐまに言った。
ほら、冬が育んだ
冬の子どもだよ。
植えたのが去年の10月で
咲いているのは
1、2週間。
でもずっと一緒にいた。
花は咲いているものではなく
咲くまでと、咲いたときと、
枯れるときまで
ずっと一緒にいるもの。
だから生きることも
良い時だけを見てはいけないよ。
止まっているときの悲しみや怒りはほんとうの悲しみや怒りではない。
クマが子ぐまに言った。
悲しみや怒りは
進んでいるときに
静かに根底にあるもので
止まっているときの
悲しみや怒りは
ほんとうの悲しみや怒りではなく
なにか別の怠惰なものだよ。
失っても、こころが忘れても、身体に残っている。
子ぐまが訊いた。
なにも残らない。
生きることは悲しいこと?
クマが答えた。
そうだね。
ただね、近しいひとが
花を飾っていたこと、旅先の朝の匂い。
美しいもの。
きみの身体に残っている。
それが、ふとした時に
仕草に、習慣に、言葉に出てしまう。
生きることは
悲しくて素敵なことさ。
憂鬱のサイズを計る。
やる気がでない。
やらなきゃならない
ことが憂鬱。
どうすればいいの?
子ぐまが訊いた。
クマが答えた。
タイマーをかけるのさ。
たいがいそんなに
時間はかからない。
渋滞に入ると絶望するけど
解消まで5分と聞くと絶望しない。
ひとは憂鬱を盛っている。
憂鬱のサイズを計るのさ。
朝という儀式が、成長を試みる一日を用意する。
クマが子ぐまに言った。
朝自体が儀式なのさ。
その儀式は街が眠っているうちに
執り行われる。
空を黄金色に焼き
紫の露草をうるませて
未熟さを省みて
成長を試みるいちにちが用意される、
その儀式のおかげで
これまでが
どのようなものであっでも、
また新たに
成長を試みることができる。
きみの詩集は、どんなタイトルと表紙にする?
クマが子ぐまに言った。
世界の果てのある町では
みんな生涯に一冊
手のひらサイズの
ちいさな詩集をつくる。
亡くなるとその詩集を
棺桶に入れる。
みんなその詩集に
タイトルをつけ表紙を考える。
きみなら、君の詩集に
どんなタイトルをつけ
どんな表紙にする?