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#幻想小説

闇に輝く白い庭

闇に輝く白い庭

「闇に輝く白い庭」

男の子は女の子に小箱を送った。

小箱の中身は、
闇に輝く白い庭だった。

闇が深ければ深いほど
庭の白い花たちは
月明かりに輝いた。

闇に輝く白い庭のことは
闇の中のともだちだけの
秘密だった。

いつかそこで会える気がしたし
もうずっとそこで
会っている気がした。

うつむいた花に見下ろされながら。

うつむいた花に見下ろされながら。

少年はちいさくなって
クリスマスローズの小径を
しばらく歩き、腰をおろした。
うつむいた花に見下ろされながら
風と土の匂いをかいだ。
あたまとこころの中が
風と土の匂いだけになった。
やがて少年は透き通って
見えなくなった。
風か土のどちらかになった。

その先に、必ず良きものがある。

その先に、必ず良きものがある。

世界の果てのある国の人々は、やはり、困難な日々を生きていたが、なぜか、その先に、必ず良きものがある、と無闇に感じていた。そして、そのためにできる限りのことをした。体力と知力と無限の想像力と、怒りと冷静さと優しさで、挑戦を繰り返した。ときにさぼり、愚痴り、絶望しながら☺️

耐え難い現実が続く時、tea trainがやって来る。

耐え難い現実が続く時、tea trainがやって来る。

耐え難い現実が続く時、tea trainがやって来る。座席は、薄暗い個室のティールーム。花と葉とアンティーク。ハンサムな猫の給仕がベルガモットのお茶を淹れてくれる。3段のお皿に焼きたてのお菓子達。長いソファに顔をうずめて大声で泣く。疲れて眠る。ハンサムな猫の給仕がそっと毛布をかけてくれる。

いくつもの部屋。

いくつもの部屋。

世界の果てに住む男はいくつもの部屋を瞬時に行き来していた。イギリス湖水地方の湖畔の家。プリンスエドワード島のクラブアップルの林の中の家。フィンランドの小島の家。南仏の海を見下ろす小さな家。男は各部屋で、片付けをし、お茶を飲み、眠ったり。ふだんの現実もそのひとつにすぎなかった。

小径の贈り物

男の子は女の子に 
小箱の贈り物を送った。
小箱の中身は、
雨上がりの朝の
クリスマスローズの小径だった。
女の子は小径を静かに歩いた。
日々に疲れていたが、歩きながら
男の子になんの小径を贈ろうか
考えた。
贈り物のことを考えると
すこし疲れがひいた。

ロマンティックジム

ロマンティックジム

ロマンティックジムの
トレーナーが言った。
まずは呼吸。
冬の空気を吸い、
吐くときはいらない情報を
すべて出す。
凝り固まった想像力をストレッチ。
日々のダメージをかわす反射神経と
運命と欠落を背負ったまま走れる
脚力を。
ロマンティックの道は
1日にしてならずです。
週2で来てください。

極点の駅で。

極点の駅で。

極点の駅で、零時発の氷の列車が
出発の準備をしていた。
麝香猫の親子はあたたかくしながら
真冬の寝返りをうった。
月夜をゆく帆舟で
船長は海図に詩人の血を一滴。
すべての彷徨う魂に
ロシアンティーがふるまわれた。
花園は東風にそよぎ続けていた。
欠落の讃美歌が響き
幻想はきりがなかった。

こころに置く暖炉。

こころに置く暖炉。

男の子は、女の子に小箱を贈った。小箱の中身は、こころに置く暖炉だった。女の子は眠る前の心細い時、こころの暖炉に火を入れた。薪は、良い記憶、残像、残響、感触。ひどく寒い日は、こころの暖炉に鍋をかけ、気持ちをコトコト煮込んで熱々にした。暖炉の火はいつも強く女の子を芯から暖めた。

宝物箱

宝物箱

きょうもひどいいちにちだった。

そう思いながら、男の子は
夜更けに宝物箱の整理をした。
みんなに点呼をとり、
ひとまず安心した。

男の子の暮らす世界の果ての
ある街では、誰もが宝物箱を
つくっていた。

とても親しくなるとそっと
お互いの宝物箱を見せ合った。

譜面から溢れ出す。

譜面から溢れ出す。

#冬の辺境の冬の旅人

旅人は辺境の村のポトフ屋にいた。クマのような男が入ってきて、店の隅で、鞄から、どっさりと譜面を出し、ギターでうたをうたいはじめた。譜面から、花や雪や海峡や夜明けや鳥や精霊が溢れ出した。男はうたい終えると、溢れ出したものたちを鞄にぎゅうと押し込み出て行ってた。

自分の無限を見に行くために。

自分の無限を見に行くために。

#冬の辺境の冬の旅人

旅人は厳しい吹雪の辺境をただ進んだ。厳しさは、身の程がよくわかった。厳しさに耐えれるよう、身体とこころと自らの幻想をあたためた。鞄の中の小屋でしっかり休み、しっかり進んだ。自分の無限を見に行くために。

スピードスイッチ。

スピードスイッチ。

世界の果てのある国では、情報の、生活の、思考のスピードが上がりすぎていた。みんなせっかちになり、あせっていて、すぐに絶望した。そこで、神様がスイッチをひねり、その国のスピードを落とした。その国のひとたちは、我に帰り、ゆっくり歩き、すぐに絶望しなくなった。

「美しい本」

「美しい本」

「美しい本」

世界の果てのある国では、美しい本をつくることが義務だった。下手でも時間がかかってもよかった。そのひとらしければ、美しいと認定された。美しい本をつくろうとしないひとは罰せられた。ひとが亡くなると、つくった美しい本が森の公園の書斎に並んだ。鳥と子供らの声に囲まれて。