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短いおはなし7

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2023年3月の記事一覧

夜露の分だけ宝物が増えた。

夜露の分だけ宝物が増えた。

ちいさなひとがムスカリの茂みで丸くなって眠っていた。女の子がいくら呼んでも眠っていた。ちいさなひとは音楽を夢みていた。白いチューリップは頬を染めて海に憧れていた。ほのかな潮風が春をほどいた。ちいさなひとのポケットの中で夜露の分だけ宝物が増えた。

このままならない庭をそよがせて進む。

このままならない庭をそよがせて進む。

きつねは思った。ままならないし、3歩進んで2歩下がるのがおれの日々なんだろうな。上手くいくのをイメージしすぎるとよくない。今日もなにかあるだろうしなにか後退もするだろう。気取らずに実直に俺のこのままならない愛らしい庭をそよがせて進もう。

摘たての朝を。

摘たての朝を。

ある町の男の子は贈り物のセンスがなかった。けれど好きなひとに何か贈りたかった。街でいろいろさがしたけど見つからない。庭で摘んだ、摘たての朝を箱に入れた。箱が朝露でゆがんでしまった。男の子は贈り物のセンスがない。

しっかり勝つには、しっかり負けないとあかん。

しっかり勝つには、しっかり負けないとあかん。

カエルの賭博士が言った。ツキっちゅうもんはなんだかんだで均等や。だからしっかり勝つにはしっかり負けなあかん。人生もや。いつも勝たんでええ。みんな、いつも教、に入っとるけどいつも勝っていつもお洒落でいつもきちんとなっとらんくてええんや。6勝4敗で勝ち越せばええ。しっかり負けながらな。

夜明け前の「ドライアド」

夜明け前の「ドライアド」

夜明け前の「ドライアド」。

「ドライアド」のオーダー
ありがとうございます。
精霊便(スマートレター)にて
お送りさせていただきました。

精霊が踊り眠る森へ。

お料理は結界。

お料理は結界。

きつねは悪夢で起きて、自分ができてないことで自分を責めそうになったが、やめた。朝日の中でつくる朝ごはんのことを考えた。白味噌のお味噌にいちょう切りの大根。粒のたったごはんにごま昆布。だし巻き卵。大葉に大根おろし。きゅうりの漬け物。葉物のお浸し。ちいさく花も生ける。お料理は結界。

朝日の中の朝日食堂

朝日の中の朝日食堂

ある町に、朝だけ開く「朝日食堂」があった。たくさん射しこむ朝日を浴びながら、美味しい朝ごはんをもりもり食べて、人々は元気や正気を取り戻した。今日は、とれたてわさび菜などとベーコンの自家製シーザードレッシングサラダ。もりもりの大皿でどんと出された。もう泣くな、とでも言うように。

なにひとつうまくいかないときでも、ごはんは美味しくできる。

なにひとつうまくいかないときでも、ごはんは美味しくできる。

憂鬱で不調の時でも
ごはんは美味しくできる。

なにひとつうまくいかないときでも
ごはんは美味しくできる。

赤だしのお味噌汁
辛子明太子のせごはん
ホタルイカの沖漬け
だし巻き卵
いちご

地に足をつける。

人生は必ずリカバリーできる。

人生は必ずリカバリーできる。

世界の果てのある国では学校で、成功するための勉強ではなく、リカバリーを教えた。だからその国の子供たちは、みんな、転んでも、すくっと立ち上がった。傷にも失敗にも騒ぎたてず、すくっと立ち上がった。相手を傷つけてしまったら時間をかけてつぐなった。人生は必ずリカバリーできると教えられた。

白鳥のレコードを抱き抱えて。

白鳥のレコードを抱き抱えて。

きつねは、きょうも何もうまくいかなかった、と思いながら帰途についた。明日は憂鬱で将来は不安で過去は思い出したくなかった。きつねは前から欲しかった白鳥のレコードを買った。それを抱き抱えて夜遅い電車に乗った。眠りに落ちた。白鳥のレコードからオーロラがそよぎ、きつねの頬をなでた。