渦中から君へ7
ようやく君が寝た。
保育園では正午前に昼食を食べてすぐに昼寝になるようで、そのリズムだと夜もわりと寝つきが早い。しかし今日もばあばと遊んでた君は昼寝の開始が遅かったようで、その分、夜の寝る時間も遅くなる。
もうだいぶ寝そうな感じになりながらも、さっき君は自分の手のひらを天にかざしていた。ぼくも隣に寝そべって手のひらをかざしてみたら、君はぼくの手をとって指をいろんな方向に曲げようともてあそんだ。それからぼくがチョキの形を作ると「かに」と言いながら自分でも同じ形を作ろうとするのだが、うまくできない。ぼくが手伝ってあげても、自力でチョキの形が作れない。いろんなものを掴んだり握ったりができても、チョキは難しいようだ。つまりいま君とじゃんけんをするならパーを出し続ければぼくは負けることはない。
農業は嫌いじゃないんだが、本業をやらずに毎日やるのは精神的にこたえる部分がある。
どれだけ続くかもわからないし。
それでもまともに農業をやる時間がとれたことで嬉しいこともある。それはラジオクラウドが聴けることだ。
僕はTBSラジオのいくつかの番組をラジオクラウドで聴いているのだが、そのうちの一つ「アフター6ジャンクション」は月曜から金曜でやっている番組なもんだから、なかなか視聴が追いつかない。2年前の番組開始から徐々にたまっていった未聴分はコロナ騒動の前までに約3ヵ月分にまでなっていて、果たしてこのタイムラグをどう埋めようかと悩んでいたくらいなのだった。
1月半ばで止まっていたラジオクラウドをトラクターや消毒の噴霧器などに乗りながらガンガン聴き進み、この1ヵ月弱であっという間に4月分まで差を縮めた。そしてそれはつまり、コロナの影響が広がっていく様子をパーソナリティのライムスター宇多丸たちの会話などから後追いしていくということにもなった。
2月の頭にはおそらくコロナの報道はされはじめていたけれども大掛かりなラジオのイベントは開催され、それが徐々にライブの中止などに広がり、3月に入ると毎回のオープニングトークで話題にされるようになる。そして3月の終わりごろの3連休には、ずいぶん多くの人が外に出ていたということが話題になっていたし、それから間もなく志村けんが入院する。「ひどくならなきゃいいですね」と話していたりするのだが、当然のことながら数日後に志村けんは亡くなってしまう。今日聴いた分の放送ではアベノマスクがからかわれ、番組を中断して行われた緊急事態宣言のための会見に対しても宇多丸が露骨に悪態をついていて驚いた。4月のはじめ、宇多丸とパートナー、そしてゲストの間にはアクリル板が張られ、マスクをつけながら放送をしている。このペースで行けば、今月中には余裕で追いつくことになるだろう。
この番組を聴くと、読みたい本や漫画、見たい映画やドラマシリーズがただただ増えて困る。ぼくは自宅休養中ではないので、自分の趣味にさく時間は平常時から増えていない。むしろ本業をやっている方が時間的な余裕はあるかもしれない。だから本当に困る。
君と遊んでいるとき、君はぼくが本やスマホに目を向けることを許してくれない。持っている文庫本やスマホを手で払いのけ、「こっちを見ろ」「ここに座れ」と指示してくる。だから仕方なく君が室内すべり台で遊んだり、ぬいぐるみを寝かしつけたりするのを正座して眺め、的確なタイミングで拍手などを送るのである。
だから君が寝てからのこんな時間にこれを書き、チャンスがあれば映画を見たりゲームをしたりしている。
睡眠時間を犠牲にして。
昨日(というか今朝)は、ようやくWOWOWでやってたのを録画した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観賞できた。どうしても見たくって午前1時半に意地で起きて見ていた。本当なら映画館で見たい作品だったけれど、君が生まれてからなかなか劇場には行きにくい。だからWOWOWでやるのを心待ちにしていたのだ。
最高だった。
本当に他の作品では味わえない類の幸福と切なさを感じた。今日、作品公開時に行われたアフター6ジャンクションのタランティーノ監督インタビューの回を聴き返した。トラクターを運転しながらめっちゃ泣いた。実はそうやって農業やりながら見た映画のことを思い出して泣いたりすることはたまにある。でも誰がそばにいるわけじゃないし、マスクでも隠せるからね。もし誰かに見られたら花粉症ですと言う準備もあるんだけど、まだその必要は起きていない。
しかし今回は無事に追いつけたとしても、また本業を再開すれば再びラジオクラウドはたまっていってしまうんだよな。これをどうするか、抜本的な解決策はまだ見出せていない。
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