画像生成AIと著作権
Stable Diffusion,NovelAI,Midjourney等の画像生成AIがGAFAのようなITの巨人の独占ではなくなった今日において、これらの生成画像の著作権の取り扱いは大きな課題となっています。本記事では、こうした生成画像と著作権の関りと特に注意が必要な場合について、その利用という観点から検討します。
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画像生成AIの著作者は誰か
画像生成AIによる生成画像の著作者として、①学習データとなったイラストの著作者、②画像生成AIの開発者および③そのプロンプト(呪文)を入力した利用者を考えることができます。①②については後程検討することとして、まずは③の考え方について検討してみます。
AIのオペレーターと著作権
画像生成AIの著作権が利用者に帰属するという考え方は、その利用者が画像生成AIを自らの創作の道具として使用したと評価できる場合には、現行の著作権制度においても成り立ちうる考え方です。著作物性の一般的な判断基準としては、そのコンテンツを制作した者に「創作意図」と「創作的寄与」が認められるかどうかによります。「創作意図」とは、特定のコンテンツを創作しようという意思であり、「創作的寄与」は、そのコンテンツの制作過程にその者の個性が寄与していることを指します。
創作意図
このうち「創作意図」については、完成品の完全なイメージを事前に保持していることは必要ではなく、画像生成AIにより何らかのコンテンツを創作しようという意思があることが通常であるため、問題とされることは少ないでしょう(タイピングミスにより意図せず画像を生成してしまったというような例外的な場合には創作意図が否定されることとなります)。
創作的寄与
問題となりうるのは「創作的寄与」の判断です。AIによる生成画像については、プロンプトやステップ数、スケールおよびシード等の生成条件を入力した者が誰であっても、同一の条件下であれば同一の画像が出力されることとなるため、その者の個性を認めることが難しいという問題があります。もちろんこれも程度問題であり、絵筆により絵具でキャンバスに描写する場合とillustrator等のベクトル系描写ソフトで描写する場合では、後者のほうが個性が出にくいというようなことは、画像生成AIに限らず認められます。ただしこれまでのツールと画像生成AIとの大きな違いは、その創作過程のほぼ全部をAIが実行しているという点にあります。そのため利用者が画像生成AIを道具として使用したと評価することが難しいのです。
取捨選択と創作性
上記のように画像生成AIは、オペレーターが誰であっても同一に作動するという点では没個性的に画像を生成しますが、画像生成AIを使用したコンテンツ制作の大きな特徴の一つは、そのAIにより数十枚、数百枚あるいは数千枚の画像を生成し、その中から成果物を取捨選択するという制作方法にあります。その取捨選択の過程において、プロンプトの変更やステップ数やスケールの調整を行い、ある特定の生成画像をシードとして固定して生成するというような利用者の行為が介在することとなります。
プロンプト(呪文)とコンテンツ
このような生成条件の試行錯誤とアウトプットの取捨選択においては、オペレーターAとオペレーターBでは、その制作過程と生成される成果物に違いが生じてきます。ある生成画像からオペレーターAは光のエフェクトを追加するために{lens flare}というプロンプトを挿入するかもしれませんし、オペレーターBは明暗のコントラストを出すために{chromatic_aberration}というプロンプトを挿入するかもしれません。あるいはオペレーターCは、ステップ数を増加させるかもしれません。結果として、取捨選択が完了した時点でのアウトプットはそれぞれの個性を反映したものとなるはずです。
著作物性の有無
プロンプト、ステップ数、スケール、シードなどの生成条件の操作と出力結果の取捨選択を全体として評価したときに、利用者が画像生成AIを道具として特定のコンテンツを創作したと認めることができる場合、その利用者に著作権が発生することとなります。ただしどの程度の関与があれば機械による生成から人間による創作になるのかはあいまいであり、また特定のコンテンツを観察しただけでは、それがこうした取捨選択の結果であるのか、またはたまたまそうしたコンテンツが生成されたのかを見分けることは難しいという問題もあります。
結論としては、現行の著作権制度を前提とした場合、そのプロンプトを入力した者は、著作者である場合もあり、また著作者でない場合もあり、個別の画像により評価が分かれる可能性があります。
生成後に加工した場合と下絵を提供した場合
ただし生成画像に対して利用者がさらにphotoshop等により加工した場合、生成画像そのものに著作権がなくとも、加工後の画像については著作権が成立する場合があります。これも程度問題となり、色調やコントラストの調整から手足の描写の乱れなどの生成画像の細部の修正、オブジェクトの書き足しや表情の変更に至るまでどの程度の加工をしたかにより著作権が認められるかどうかが分かれることとはなりますが、生成画像の全体に対して著作権が及ばない場合であっても、少なくとも加工した部分については著作権が成立すると思われます。
img2imgにより制作工程を自動化した場合
またimg2imgの方法により生成条件として下絵を提供した場合は、生成結果についても著作権が認められる可能性が高いでしょう。この場合、下絵の提供を創作行為と評価して生成画像をオペレーターの一次著作物とするか、または下絵を翻案した二次的著作物とするかは、判断が分かれるところとなりえますが、この点が問題となることは多くないと思われます。
イラストレーターが画像生成AIを使用する場合、このような方法により背景を描写したり、彩色工程を自動化したり、ポーズなどの差分の作成に使用することが多いと考えられます。こうしたケースでは、イラストレーターの創作部分についてはもともとイラストレーターの著作物であり、加工後の全体の画像については、その寄与の程度によりますが、通常はイラストレーターの著作権が及ぶものと思われます。
AIの開発者と著作権
画像生成AIの開発者は、生成されたコンテンツの著作権者となりうるのでしょうか。この場合においては、オペレーターのときとは異なり「創作意図」が問題となりえます。開発者は画像生成AIそのものを創作していますが、その画像生成AIから出力される特定のコンテンツまで創作しようという意思があることは通常は考えられないためです(ただし葛飾北斎風のイラストを制作することを目的として、葛飾北斎の日本画を学習データとしてモデルを構築し、特定のコンテンツを生成させたような場合、「創作意図」が認められる可能性があります)。開発者としては、自らの与り知らない利用者の行為によって自己名義の著作物が量産されることはリスクとなる場合もあるため、このような結論にも妥当性があります。
利用規約と著作権の移転
しかし著作権が開発者に原始的に発生しない場合においても、画像生成AIの利用規約により、著作権が利用者から開発者に移転する場合があります。画像生成AIの利用者は、ライセンサー(=開発者)との間で当該AIの使用許諾契約を締結してAIを稼働またはAIに接続してAIを利用しているのであり、開発者は、その契約内容により著作権を自らに移転させることができるためです。このような規約上の権利の移転は、Midjoruneyのような有料のサブスクリプションサービスを無料で使用する場合などに、商用利用を制限する趣旨で開発者によって設定されている場合があります。
「各種画像生成AIの利用条件について」
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利用規約と著作権の許諾
上記のように著作権が移転する場合でなくとも、利用者に著作権を保持させた上で、開発者に一定の権利を許諾するよう求められる場合もあります。例えば開発者がそのAIの宣伝のために生成されたコンテンツを広告掲載するような場合や、品質の維持向上のために分析に使用するような場合です。このようなときは、規約の定めの条件により、開発者は生成されたコンテンツの使用権を有することとなります。MidjourneyやDream by Wombにおいてこのような規約事項が定められています。
イラストレーターと生成コンテンツの著作権
画像生成AIによる生成コンテンツの著作権の取り扱いが問題となる事例として、プロンプトを入力した者以外の者がそのコンテンツを無断で使用したような場合のほか、そもそもその画像生成AIが既存のイラストを学習して構築されたモデルであることから、学習データとされたイラストの著作者が、自らの著作権を侵害されたとして申し立てる場合があります。既存のイラストレターの作風を模倣する画像生成AI「mimic」が問題視されたのもこうした経緯によります。
二次的著作物としての生成画像
著作権法の原則から考えた場合、こうした申し立てには十分な理由があります。ある特定の著作物に依拠してその「本質的特徴」を残したまま別の著作物を制作した場合、それはもとの著作物の「二次的著作物」として、もとの著作物の著作者の権利が及び、無断でこのような二次的著作物を使用することはもとの著作物に関する著作権を侵害することとなるためです。
そのため例えばある特定のイラストレーターの作品が学習データに含まれており、画像生成AIからその作品に類似する作品が生成されたような場合、そのAIが当該イラストを学習データとして使用していることから「依拠性」が認められ、イラストレーターの著作権が及びます。より分かりやすい場合、そのイラストレーターの名前をプロンプトに入力するとそのイラストレーターの作風に類似した作品が生成されるような場合もあります。
著作権法30条の4とイラストレーターの権利
ただしこうした権利行使については、立法的な措置により一定の制限がされており、著作権法30条の4において「情報解析」のために著作物を使用する場合においては、そのもとの著作物の著作権は及ばないとされています。結果として、イラストレーターの権利は、画像生成AIそのものに対しては行使ができないこととなっています。
著作権の侵害となる場合
しかしながら、画像生成AIの学習データベースやそれを使用した学習済みモデルに対して権利行使ができないとしても、そのAIの利用者が特定のイラストレーターの作品に依拠して、これに類似した画像を生成する意図でプロンプトを操作し、現に類似した作品を生成した場合、当該利用者が画像生成AIを道具として使用し、もとのイラストの二次的著作物を創作したとして、もとのイラストレーターの権利が及ぶ可能性はあります。
このような場合、イラストレーターとしては、生成画像の原著作者としてその使用の差し止めや使用料の請求ができることとなりますが、諸説あるところであり、いまだ実務の判断は形成されていません。
パブリックドメインとなる場合
上記で検討した①オペレーター②開発者③イラストレーターについて、そのいずれにおいても、著作権が成立する場合と成立しない場合があり、その判断基準についても現在では定説が形成されていないため、画像生成AIによるコンテンツについては、その権利の所在はあいまいなのが現状です。
仮に①オペレーター②開発者③イラストレーターのいずれにも著作権が帰属しない場合、または生成画像が著作物とは認められない場合、そのコンテンツは著作者不在または創作性の欠如により「パブリックドメイン」となります。「パブリックドメイン」とは、そのコンテンツの著作権がなく、誰でも自由にそのコンテンツを使用できるコンテンツを指します。「青空文庫」に収録されている小説のように、著作権が保護期間の満了により失効した著作物もこれに当たります。
フリーライドの問題
このような場合においては、開発者との利用契約により拘束されたオペレーターは別として、コンテンツが公開された場合においては、開発者と何ら契約関係のない第三者はそのコンテンツを自由に使用することができることとなります。著作権の侵害がないため、それを差し止められるおそれもありません。イラストレーターやオペレーターの立場からすると、自らの創作行為や生成行為の成果物にフリーライドされてしまう形となります。
ただし上記で検討したように画像生成AIによる生成物が「パブリックドメイン」であるかどうかはいまだあいまいであり、特定のイラストを観察しただけではその判断が不可能であることから、このような行為は第三者との紛争を生じるリスクが大きいといえます。
生成コンテンツが共有著作物となる場合
「パブリックドメイン」となる場合とは別に、仮に①オペレーター②開発者③イラストレーターのうち二者以上に著作権が帰属する場合、そのコンテンツはそれらの者の「共有著作物」となります。「共有著作物」となった場合、それぞれの権利者がそのコンテンツの権利の持分を所有しているため、権利者の間で合意しない限りその権利を行使できません。
したがって、そのイラストを商用利用したい場合や第三者に譲渡したい場合、他の権利者の合意を得る必要があります。これは①オペレーター②開発者③イラストレーターがそれまで何ら関係を有さない第三者であったような場合、合意の形成が難しく、その著作物の利用に当たって大きな障害となります。
このような結論は当事者にとっても、著作物の利用による文化の発展という著作権法の目的にとっても不利益をもたらすため、立法的な解決が必要と思われます。現行の著作権制度を前提とした場合、上記で検討した結果を踏まえると、こうした共有著作物となる場合も考えられます。
取り扱いに注意すべき事例
上記で検討した結果を踏まえ、現行の著作権制度を前提として、とりわけ取り扱いに注意が必要となるケースについて考えてみます。
最も問題となる可能性が少ない事例としては、
においては、そのイラストを利用者が使用したとしても、そのイラストの内容が差別的または攻撃的な表現を含む場合や第三者の名誉を毀損するような表現もしくは特定人の個人情報を含むような場合を除いて、第三者から異議の申し立てを受けて紛争が発生するリスクは少ないといえるでしょう。これに対して問題となりやすい事例としては、
が挙げられます。このような場合、開発者や依拠された作品を創作したイラストレーター、もしくは特定の個人からその著作権または肖像権を侵害したとして、その使用について異議の申し立てを受けるおそれが大きいといえます。こうしたリスクが懸念される場合、権利行使しうる者との間であらかじめ契約により使用についての合意を得ておくことが無難といえます。
商用利用と自己責任
なお開発者がそのコンテンツについて権利を放棄する旨の規約がある場合や商用利用を許諾する規約がある場合においても、そのコンテンツの使用は原則として自己責任となるため、画像生成AIによるコンテンツの使用に当たっては、十分な注意が必要です。
節度ある利用
また当然のことながら、人間の手による著作物によっても問題となるような行為(差別的または攻撃的な表現、名誉を毀損する表現、第三者の知的財産権を故意に侵害する表現)をした場合にそれが生成画像であることによって責任が免除されるわけではないため、良心をもって使用することが大切となります。
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