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ハレもケもハレ15 : 食卓は三つ子の魂を持ち寄る場所

お付き合いをしている彼と同棲を検討し始めたのをきっかけに、人生とは?結婚とは?家族とは?を考え始めた今の心境を書き綴ることにしました。
結婚してからも変わらず、「ふたり」の選択におけるあれこれを好きに書き綴っていこうと思います。
お好きなところだけつまみ食いしていただけると幸い。

今回は、価値観の違いに気付いた最近の出来事についてです。

🕊

彼と一緒に暮らし始め、家族になって1ヶ月とすこしが経った。

高校卒業と同時にはじめた一人暮らしの居心地が良すぎて、ずっと自分以外の他人( これは、両親も含む )と暮らすことに恐れ慄いていたけれど、杞憂に終わった。ふたりでの暮らしは穏やかで、びっくりするほどすんなりと馴染んでいる。寧ろまだ1ヶ月しか経っていないのか、という気持ち。もう何年もこうして暮らしているような気がする。もちろんそれはわたしの知らないところにおける彼の努力と忍耐の上に成り立っている部分も大きいと思うのだけれど。

だからなのか、毎日家に帰るのが楽しみになった。特別なにをする訳でもないにせよ、帰って彼と過ごす時間を早く過ごしたくて、だらだら残って仕事をしていた数年間から一転、早起きして朝仕事を片付け、そそくさ退勤するようになったのである。
4月に転職した彼の研修期間が続いていた8月のうちは、一緒に夜ごはんを作ったり、彼が駅に着く時間に合わせて駅で待ち合わせてスーパーに寄り、「パーティーしちゃう?」と大きなパック寿司を買って帰ったり。そんな夜が好きだった。


けれどそれが、9月からすこし変わった。

正式に彼の部署配属が決まり、研修こそ続くとはいえジワジワと業務が増えてきたのがここ数日のこと。わたしはわたしで9日に迫った学会の抄録締め切りに間に合わせるべく、業務後に残って仕事をするようになったし、ワクチン4回目を打ったのをいいことに( もちろん最大限の配慮をしつつ ) 少しずつ外食ができるようになった。2人とも遅くなるときは各自で夜ごはんを食べるようになったし、それぞれ外でご飯を済ませてくることも増えた。

その結果、見事に4日間連続で夜ごはんが別々になった。


各自家には帰ってくるので、まったく会わない訳ではない。すれ違わないようにという意識はあるので、顔を合わせて話す時間こそ僅かにあれど、日によっては「お疲れさま」と「おやすみ」を交わすのが精一杯な日もあった。朝から晩まですれ違い、どうしても顔が見たくて、半分眠りながら彼の帰りを待っていた日だってある。


「なんか、このまま行くとどんどん生活がすれ違う気がする」と話を出したのはわたし。各自ストレッチをしながらポツリと呟いたそれに反応して、スマホを伏せ、身体ごと彼がこちらに向き合う。

結論から言えば、夜ごはんに対する価値観が違うだけのことだった。違う「だけ」だけど、話さないと気付けないようなこと。
話していてお互いに気付けたことだったけれど、それぞれの過ごしてきた家庭の違いだった。


わたしの実家では、家族全員が揃って夜ご飯を囲むことが当たり前だった。テレビを消して、その日あったことをそれぞれが持ち出していろんなことを話すのが常だった。それに対して彼の家では、遅くまでお仕事なさっていたお父様が食卓にいないのは当たり前のことだったという。お兄様と3人で、お父様がいるときは観ないような、くだらないバラエティを観ながらあれやこれや話すのが夜ごはんの時間の楽しみ方だったのだと。三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。そりゃこうなるわ。

一緒に暮らし始める前から食事中にテレビは点けないでほしいという話はしていたので、食事中こそ団欒の時間はあるものの、そもそも夜ごはんに対する家族としての捉え方がスタートから違っていたのだからすれ違う訳である。陸上の大会に出ることこそ示し合わせていたものの、マラソンに出るつもりだった人と槍投げに出るつもりだった人が一緒に表彰台に立つことが無いように( 伝わってる? ) 目指している方向が微妙に違っていたのだった。


その結果、彼は「自分の仕事が遅くなって夜ごはんの支度をお願いしてばかりにならざるを得ないのは申し訳ないから別々にしよう」と提案してくれる訳だし、わたしはその優しさが汲み取りきれずに2人で食卓を囲む時間が減ることにモヤモヤしてしまっていたのだ。話し合ってみればごく簡単なことだった。


結局、一緒にご飯が食べたいのだとわたしが求めてばかりで何も変わらないのはただの我儘になってしまうので、無理のない範囲で夜ごはんを作って待つことにした。彼は彼でわたしの負担ばかりが増えないよう、休日に作りおきを作ってくれたり気持ち良く2人とも手が抜けるように美味しい既製品を準備してくれた。帰宅時間に関してはわたしの勤務先のほうが自宅から圧倒的に近いのでやむを得ないこと。動かすべきは、お互いの価値観だった。



言いたいことをそれぞれ伝え、和解したうえで仲良く並んで歯を磨いているとき、彼がポツリと言った。

「分かってるつもりでいたけど、やっぱあなたは自分じゃないんだよね。」

「わかる。つい忘れちゃうよね」


居心地がいいのだ本当に。黙って向き合いながら各自違うことをしていても、ふと話しかけたくなっても。背伸びしたり無理に頑張ったりしなくてもいい。人の顔色ばかり窺う性格がいつまで経っても変わらない自分が誰よりもありのままでいられる人がわたしにとって彼だ。

だからこそ、何度自分の中で繰り返してもつい忘れてしまう。彼はあくまで他人であるということ。もちろん戸籍上は家族になった訳だけれど、「自分以外の人」という括りとしての他人であることに変わりはない。もっとも近しく、味方でいてくれる他人であることを、わたしも彼もつい忘れてしまう。25年以上も違う人生を生きていたのだ。同じ家庭で育った訳ではないし、人の愛し方も生活の向き合い方も一緒になんてならない。だからこそちゃんと言葉にしなきゃならないし、だからこそ面白い。


「ね、あした何食べたい?」

だから、わたし仕事を早く終わらせて帰るからさ。明日は一緒に夜ごはんを食べよう。たくさん話をしよう。だって家族になったんだから。








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