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#13 英語の発音がゴミだと言われる 薬局で睡眠薬を買う 30代からの英国語学留学記 2018年2月15日 その2

ランチタイムはいつもの嫌われ者3人組

先日と同様にGloucester Green outdoor street marketに赴く。ケバブ屋の屋台があるからクソ面倒なオヌールもここへ行くのはOKらしい。

先日同様、活気あふれるオープンエアーなマーケット。テンションが上がる。昨日はゴア式インドカレーだったので、今回はちょっと趣向を変えて全然別の国の料理、それも日本じゃ中々見かけないものを選ぶ。
ギリシアの旗を掲げた屋台があり、そういえば今までの人生でギリシア料理食べたことがないなぁ、と思い早速列に並ぶ。他の屋台とは違い、瀟洒なデコレーションが際立ち目を引くギリシア料理の屋台。そのためなのか他の屋台よりも人気のようで長蛇の列。普段は列に並んでまでメシなんぞ食いたくはない、と思う性質だなのだが、ここは異国のブリタニア。しょうもない己のモットーなんぞ忘れて異国情緒に身を委ねるのも良いではないか。

ただギリシア料理がどんなモノなのか事前知識ゼロで列に並んだ。好き嫌いゼロの健康優良中年である僕にはどんな物が出されても恐れることはないと高を括っていたが、いざ出された料理を見て驚愕した


写真取り忘れたのでwikipeidaより
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pita_giros.JPG

これ、どうみてもケバブじゃん!!!

後で知ったのだが、オスマントルコ時代の影響を受け、ギリシアでもケバブのような食べ物がファストフード的に広く食べられているらしい。
名前はギロス、特にパン(ピタというらしい)に挟まれたものはPita Gyros ピタギロスと評されるとのこと。
ただトルコのケバブとは挟まれる野菜の種類が異なったり、太いポテトフライが入っていたり、ソースがヨーグルト由来のものだったり、ムスリムが絶対食べない豚肉が使われていたりと微妙に差異があるようだ。

今回購入したピタギロスは、メインとなる肉は豚肉。トルコ式のケバブとの違いを見せつけるためなのだろうか。ポークケバブというものは絶対に存在しないため、ここがギリシア的な要素なのだろうか。

勿論、僕は豚肉を食べれないムスリムではなく、食のタブーなんぞ全くない、宗教的に堕落した一般的な現代日本人なので、そこはどうでもよいのだが、問題はこれを見たオヌールがどうリアクションするか、ということである。
散々ケバブ嫌だと主張しておきながら、ケバブ染みたモノを俺が食べていたら、あいつはどう反応するだろうか。
極めて面倒な展開になるに決まっている。

そしてその予想は当たる。嫌なことに予想より更に悪い方向へ


何故お前はそんなものを食べるのか?ギリシアは俺たちの敵だ。最低な振る舞いをしたな。お前は謝るべきだ。次からのランチはずっとケバブを食え!いいな!

案の定、無茶苦茶な論理を振りかざし僕を罵倒するオヌール。

ただ僕は忘れていた。
トルコとギリシアは無茶苦茶仲が悪い関係である、ということを。

オスマン帝国時代にトルコがギリシアを領土にしてから因縁は始まる。
のちにギリシアは独立したが遺恨は残り、WW1終了後、敗戦国になったトルコに対し、ギリシアが調子に乗って侵略戦争をしかけるも根性を見せたトルコが撃退。その後、住人交換を行うも上手く行くことはなく、様々な所でお互い禍根を残している。
そう、二国間はかなりバチバチの関係なのである

トルコ人のオヌールにとって、僕が単純に見た目がケバブに近い食べ物を買った、ということよりも、嫌いな国であるギリシア料理を買ったことに対して不満を爆発しているようだった

しかしながらギリシア人でもトルコ人でもない僕が、第三国であるイギリスで何を食べようと勝手である。そもそも料理自体に罪なんてない。

例えるなら日本で韓国海苔巻きのキンパを食べているイギリス人を罵倒するネトウヨのような偏狭な発想である。

しかしながらあまりの剣幕に気圧され、且つ言い返す英語力が僕にはない。

攻めるのは簡単だが、非母国語で弁明するのはとんでもないエネルギーがいる。英語の瞬発力が当時の僕には(今もないのだが)備わっていないのである。

だがそんな時はカルロスがいつも守ってくれる。

恥を知れ!何を食べようが人の勝手だろ。お前は我儘すぎる!黙れ!汚い言葉を友人に使うな!そもそも俺はケバブを暫く食べたくない!次のランチもここかケバブ屋以外の場所だからな!

カルロスは本当に良い奴である。

因みにカルロスのランチはこの日もパエリアであった。曰く、昨日と違う味付けだから同じパエリアではない、とのこと。なんだそりゃ

カルロスの仲裁と、形式的に自分がトルコとギリシアの歴史を知らず悪いことをした、と謝ることで場を無事収まる。



オヌール的にはこれで終わった話であり、急に機嫌が戻ったのだが、イチイチ僕がランチで食べる料理に対してケチをつけられるのは如何なものか、と不満は残った。何で二十歳そこそこの若者にこんなことで文句を吐かれにゃならんのだ。

カルロスのようにバシッとシンプルに言い返せない自分の心の弱さを恥じる。英語力云々の問題ではなく人間力の問題だ。

因みに件のギリシア料理のピタギロスだが、トルコ式ケバブとは似て非なる物だと感じた。
そして
普通にうまい。
味のバリエーションがケバブより豊かな気がした。あとデカいポテトがパンの中に入っているのが妙に印象に残った。

モヤモヤしながら3時間目のSprakingに突入。
予想通り相手にされない生徒には相手にされず、まじめな生徒とは普通に会話ができる。
この授業は人数が多すぎるためか、先生の介入する余地が少ないのが問題なのでは、と思う。先生自体は良い感じに見えるのだが、一人で10組以上の思い思い会話をしている生徒全部カバーするのは無理がある。構造上の問題だ。

ただとてもショックな出来事が一つあった

いつも僕を邪険にするアラブ人と組まされることになった。相変わらず彼は僕と組んだ途端、グループワークを拒絶しスマホに夢中

Hey, Listen to me!と話しかけ、なんとか会話を続けようとする

「黙れよ。お前の英語の発音、ゴミ(rubbish)なんだよ。だから会話なんかしたくねんだよ。帰れよ」


二十歳そこそこのガキに、恐らく親の金で渡英しているキッズにここまで言われるとは思わんだ。

発音があまりうまくないことは自覚していたが、出会って3回目の同じ留学生にそこまで言うだろうか。

こんなこと言うのも惨めな話だが、このアラブ人キッズの発音も到底聞き取りやすい英語とは言いづらいものだ。自分を棚に上げてよくもここまで暴言を吐けるもんだ。

言い返したかったが、いざ強烈な言葉で自分の能力が低い断言されると何もできなくなってしまう。
彼以外のパートナーと変わっても会話をする勇気がでず、ゴニョゴニョと適当に誤魔化しながら時間が過ぎるのを待つしかなかった。

イギリスで初めて味わった直接的な大きな屈辱であった

授業は実りの無いまま終了。ショックが大きく中々立ち上がれない。フラフラになりながら外に出る。Your pronounciation is rubbbish! Go Home!という例のアラブ人キッズの訛りある言葉が脳裏にこびりついて離れない。

なんとかしなくては、なんとかしなくては
しかしどうやって?何をすべきなの?

息を飲むほど美しいオックスフォードのシティーセンターを俯きながら独りでウロウロ。美しすぎるこの街の情景が余計に心を傷つける。こんな素晴らしい所で無様に彷徨う30代のアジア人男性は本当にゴミなんだな、と自らを卑下する言葉を心で何度も吐き捨てる。

だがそんな自傷行為をしても何も始まらない。

ふと顔を上げるとそこには薬局が

OXFORD MAILより
https://www.oxfordmail.co.uk/news/19619980.boots-confirm-oxford-city-centre-shop-will-stay-open/

そうだ!おれはここ四日間全く熟睡できないから、こんな後ろ向きになるのだ。先ずは無理やりにでも眠って心身ともにリフレッシュしなければ。

Bootsというイギリスで最も規模のデカい薬局に行き、睡眠薬を買うことにした。イギリスの薬局では日本では処方箋がなければ買えないような薬も普通に買うことができる。
イギリスの医療システムはある意味で洗練されており、英薬を飲めば容易に治るようなモノは各自薬局で買って自力で治し、素人医療でどうしようもないものは国のお金で原則無料でケアしてくれる、というシステムを取っている。
英国人であれば国が運営しているNHSという国民健康保険サービスにより、まさに揺り籠から墓場までケアしてくれるのは凄いと正直思う(そしてこれがあるからイギリス人はアメリカの医療制度を心の底から馬鹿にしているのだが)
ジョンレノンがつけているあの有名な丸眼鏡もNHSを通じて国が無償で提供していた眼鏡らしい。
自分も専門家ではないので知識は浅く、細かいことは分からず、色々と問題はあるのだろうが、他国と比べても結構攻めたユニークな医療制度であることは事実である。

日本でいう所のマツモトキヨシのような存在であるBootsでさえも、結構強力な薬を買えてしまう。お薬マニアではないのだが、現状を打破するために何が必要かと考えると、まずはちゃんと眠れることだと思いった僕はBootsで睡眠薬を購入することに決めた。

今の今まで一度も睡眠薬に手を出したことはなかった。依存したら終わりではないか、という恐怖があったのと、日本では中々この種の薬は気軽に手に入らないからである。
だがイギリスの薬局では軽微な病は自分で治せ精神より、ある程度の薬は容易に入手できる。

意を決してSleeping pillsのコーナーへ向かうと日本では見たことがない沢山の薬が陳列されており驚く。
効き目が強すぎるものは流石に怖いのでA traditional herbal remedyとパッケージに書かれたケミカルっぽさが何となく薄そうな睡眠薬を購入。

睡眠薬なので裏から薬剤師が出てきて面接を受けるのではないかとドキドキしたが、お酒を買うより簡単になんら問題なく無事睡眠薬Kalms Nightを購入できた。

Kalms Night

家に帰って宿題と自由提出のエッセーを書く。だが3時間目に言われた「お前の発音はゴミだ。帰れよ」というアラブ訛りの英語が頭をグルグルと回り中々捗らない。

晩御飯。シナンはまたしてもジムでおらず(毎週水木をジムの日にしているらしい)ムハンマドもいない。一人で冷凍食品らしきラザニアを黙々と食べるのは寂しい。

この状態では精神衛生上よろしくないのは明らかなので、晩御飯後は即シャワーを浴びて寝る準備。人生初めての睡眠薬摂取。睡眠薬の類に悪いイメージしかなかったため、かなり躊躇したが、既に買ってしまっているし、今更使わないという選択肢はない。A traditional herbal remedyだから大丈夫だろう。そんなに酷くはないさ。

意を決して飲み、布団に入る。
いつも同様、暗く後ろめきな感情に支配されているが、それを引き裂くほどの強烈な、今まで感じたことがない不自然な眠気が体の中心部からヌメっと粘着質に体を覆うような感覚があり、一瞬で眠りについてしまった。

薬の力をつかい、4日目にしてやっと眠ることができたのである。

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