【まくら✖ざぶとん】⓺⓺『忍者虚鉄➋』
おっと前回はいつのことか姿を消して三年は経たずも三十席は経て、恩を売るかわりに仇を買って売買成立させた雇い主からバイバイする混遁の術をつかった忍者・虚鉄の後日譚。
発つ前に後を濁したのは虚鉄の主義でも趣味でもなく忍者衆の仕来り、暗殺指令が出された時点で当人の行方は杳として知れず、餅は餅屋のごとく忍を追わせるなら忍者、同業他者だけが〈混遁の術〉で生じた波紋の大きさからおおよその足取りを掴んで追跡できるってわけ。
ところはとある居城の天井裏、その城の雇われ忍者にすまし顔でなりすます〈変わり身の術〉をつかった虚鉄のもとへ、ミッシガッシと音を立てて忍び寄るのは変わられ身のソレガシではなく密使たる忍者、かつて後を濁した国での後任者たる後忍者とあらば虚鉄暗殺の主命を与っているが、音なく動けるはずの忍者がミシガシさせたのは殺意なきことを示すため。
天井裏の暗闇で面会した前忍者と後忍者が一言も交わすことなく取り出したのはそれぞれの家紋が入った割符、それを無言のまま交換する引継ぎ作業こそ暗黙の照会であり忍者衆の仕来り。忍術比べの果し合いならともかくも取るに足らぬ雇われ仕事での同志討ちは掟破りの御法度、暗殺忍務を媒介した忍者同士は切傷も殺生もなくただ接触して折衝するのみ。
後忍が替え玉の首を適当に仕入れて持ち帰ったら、交換した割符こそが虚鉄を討ち取った証に早変わり。忍者は死すとも顔を晒さず。虚鉄の顔が割れていなければ忍務を授けた雇い主は暗殺完了の旨を信じるほかなく、忍道の仁義を切って後始末を任せた後忍が仕上げたのは〈身代わりの術〉。殊勲を上げた後忍に与えられるのは主君からの褒美、餅は餅屋で忍は忍者だけどミイラ取りがミイラにはならず忍者殺りもまた忍者だってわけ。
交換した割符は捨てずに取っておき、いつか二度目の交換で名刺代わりの割符が揃ったら公然と互いが互いに成りすます公忍関係の出来上がり。忍。仁。任。認。…また忍。仁。と積み重ねるそれこそ忍者たちの共尊共営。
おっとっと唱え忘れてた、〈混遁の術〉の後は〈変わり身の術〉からの〈身代わりの術〉、ひっくるめて忍法〈隠遁の術〉!!!
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!