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【まくら✖ざぶとん】①⑧⑤『トリッパーズ'ホテル➋《Q》&《A》➊』

まったくさっそく此度はいつかいつぞやの話の続き。いったいぜんたいいつのことやら世にも摩訶不可思議なホテルの寓話。まずはおさらいがてら前回のくだりをさかのぼりプレイバックフラッシュバック

そんなこんなで《扉人》に迎えられて《トリッパーズ'ホテル》の中に入ると、そこに広がるエントランス'ロビーの奥にはホテルフロント
フロントにはチェックイン/チェックアウトのための〈コンシェルジュ=Concierge〉ならぬ〈Quandcierge(クォンシェルジュ)〉が待ち受けており、ホテル関係者はその頭文字を取って《Q》と呼んでいる。〈トリッパー〉たる宿泊客〈待つ人=Attendant(アトンダン)〉《A》と呼ばれる。

《Q》は質問する。
「本日のご宿泊でこの時空〈去られ〉ますか〈至られ〉ますか
〈去る〉過去〈至る〉未来への〈時空旅行〉を指す。
《A》は回答する。
〈去り〉ます
過去未来の自分がその世界に存在していない時空には行けない。自分がやがて知りうる未来には誰もが遅かれ早かれ辿り着くものだから、初めてホテルを利用する《A》の大多数は〈去る〉ことを選ぶ。
生まれ育ち慣れ親しんだ時空を若くして離れようとする人は多くないし、未来に期待を抱いている人間よりも過去の後悔に苛まれている人間のほうが〈時空旅行〉に発ちたがりがちだ。

《Q》は説明する。
「それでは、当ホテルを御利用いただくにあたっての注意事項をお伝えいたします。このホテル全体が時空のワームホールとなっており、日付の境目がそのまま時空の裂け目となります。〈時空旅行〉を成立させるためには、以下の4点が必要になります。

就寝前〈モーニング・アラーム〉をセット。
就寝前に(備え付けのヘルメットを装着して)〈ルーピング・ルーティン〉を15分。
⓷日付が変わる前に就寝する。
起床後に(備え付けのヘルメットを装着して)〈ルーピング・ルーティン〉を15分。

客室には時計付きの〈タイム・ベッド〉が備えてあります。〈モーニング・アラーム〉で、〈時空旅行〉目的地ならぬ目的時をセットしてください。表示は西暦から月日、時間の順番[2021-05.01-00:00]となっております。
それから客室に備え付けの脳波測定用のヘルメットを装着した上で、祈祷読経瞑想イメージトレーニングなど、それぞれの宗教的儀礼に基づく15分の〈ルーピング・ルーティン〉を執り行ってください。時間はそれより短すぎても、長すぎてもいけません。
その後は、かならず日付が変わるまでに眠りについてください。眠れない場合は、客室〈スリーピング・ピル〉の備えもございます。〈モーニング・アラーム〉をかけてから覚醒したまま日付を越えてしまうと、時空の裂け目〈ワームホール〉に取り残されることになります」

アラームで覚醒しても、そこはまだホテルの客室の中です。何も変わっていないように見えても、起床後は異なる時空軸に存在しています。寝る前と同じくヘルメットを装着して15分の〈ルーピング・ルーティン〉をこなして、個体内時間感覚を合わせることで異なる時空に心身を順化させてください。〈時空旅行〉の過程で体内時計が狂って〈時差ボケ〉が生じると、同じ時空軸でのそれと違って二度と元通りにはなりません。眠気がなくならぬ傾眠状態眠気がおとずれぬ覚醒状態が永続すると、精神構造に少なからぬ異常支障をきたす方が多いようです」

〈時空旅行〉精神を壊された時のための任意保険にご署名いただけますと、ホテル側で保管した正常な精神組成を上書きするサービスを行っております。〈ルーピング・ルーティン〉中に採取した脳波データ〈インレストァルレーション=inrestorallracion〉すると、〈時差ボケ〉からの回復が見られ精神破綻が改善した事例が一定数、確認されております」

《A》が返答する。
ホテルに、自分の精神(こころ)も預けるわけか」

「ええ。当ホテルではお客様の実体=corporality(コーポラリティ)だけでなく、人格=personality(パーソナリティ)もお預かりいたします」

――それが、我々の〈宿主〉たる心得でありますから。

えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!