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洋書レビュー Elif Shafak: The Island of Missing Trees

Elif Shafakについて

エリフ・シャファク(Elif Shafak) という作家の「The Island of Missing Trees」という小説を読みました。とても良かったので、紹介させてください。
エリフ・シャファクは、トルコ人でありながら、さまざまな国に住んだ経験を持ち、トルコ語と英語両方で執筆するという独自のスタイルを持った女性作家です。

前作・「10 Minutes and 38 Seconds in This Strange World」

前作、「10 Minutes and 38 Seconds in This Strange World」は英国における文学賞の最高峰、ブッカー賞にもノミネートされた作品です。「レイラの最後の10分38秒」のタイトルで邦訳も出ています。イスタンブルの娼婦・レイラがまさに息を引き取りながら、その人生を走馬灯のように振り返る物語です。

10 Minutes and 38 Seconds in This Strange World

レイラの最後の10分38秒

この邦訳本は、早川書房さんが試し読みをnote記事に公開しています。
かなり長い部分を日本語で試し読みできるので、ぜひ読んでみてください。

Elif Shafakの魅力

合計10作品中、私が読んだことのある作品は3冊ですが、私にとってのシャファクの物語の魅力は、宗教・政治・文化・歴史など様々な要素が混ざり合い、時に対立する世界の中で、「言葉にできないもの、語られないもの、無視されてしまうもの」の言葉をフィクションの力で描こうとしている点です。
トルコやイギリス、キプロスを舞台にした物語は、日本では馴染みのない設定も多く、敬遠したくなります。でもだからこそ、想像力を目一杯働かせて読むと、自分を囲っている世界の線が少しだけ広くなったような、そんな気持ちになります。
また、シャファクの作品はプロット的な驚きはあまりありません。それでもどんどん読めてしまうほど、一文一文が美しいのも大好きな点です。

The Island of Missing Trees

さて、The Island of Missing Treesの話にもどります。

この本は今年出たばかりの新作小説で、2021年のコスタ賞にもノミネートされています。残念ながら、日本語訳は今の所出ていません。

コスタ賞のホームページ。シャファクの本は左から7番目です

あらすじ


トルコ人の母とギリシャ人の父を持つAdaはイギリス育ちの10代の女の子。父と母は、トルコとギリシャのふたつの勢力が対立するキプロスの街、ニコシアで生まれ育ち、恋に落ちたが、Adaが生まれる前にイギリスに移り、Adaはキプロスに行ったことも、自分の親戚に会ったこともない。母・Defneは物語が始まる前の段階で既に亡くなっている。クリスマス休暇のはじまり、Adaと父・Kostasの二人が住む家に、突然Defneの姉(Adaの叔母)のMeryemが泊まりに来る。「ただでさえ、お母さんが亡くなってからお父さんとの関係がうまくいかないのに、突然他人同然の叔母が泊まりに来るなんて!」と混乱するAda。
一方、人間と過ごす時間より、動植物と過ごす時間の方が気楽に感じる動植物学者のKostasは、キプロスから持ってきたイチヂクの木を、イギリスの寒い冬を越えられるようにと、一時的に土の中に埋める
その埋められるイチヂクの木が、はるばるニコシアからイギリスまでやってきた彼女の人生について、彼女が見守ってきたDefneとKostasの人生について、そして、彼女から見た世界について、静かに語り始める…。

私の感想

まずはじめに驚きだったのは、キプロスのニコシアについて。一つの街が二つの国に分断され、それぞれの首都と指定されているとは。この本はそういった歴史についてはあまり詳しく書かれていません。そのため、「ニコシアの歴史の勉強」的な期待にはほぼ答えてくれませんが、前提として、そんな場所が存在すると知らなかったので驚きました・・・。

本来暖かい地域で育つはずのイチヂクを、イギリスなどの寒い地域で育てる時、イチヂクの木が冬を越せるようにと、「根を切らずに冬の間だけ横に倒して土に埋め、春になると掘り返してまた起こす」という方法が実際にあるそうです。

この物語は、埋められたイチヂクの語りと、Ada親子の語り両方の視点で進んでいきます。特に、人間とは異なる動植物を代表するイチヂクの語りは、世界を少しいつもと違う視点で見ているようで、とても魅力的です。

土の中から静かに語るイチヂク、言い換えると、人間の目からは見えない・忘れられがちな動植物の視点と、
紛争や暴力によって、ばらばらになるほかなかった人々や行方不明になってしまった人々、また残された人々の抱えるトラウマが、まるで共鳴するかのように語られます。

イチヂクが語るというとファンタジー的に感じるかもしれませんが、読んでみるとそうではないことがわかります。「不思議な世界がもう一つあって、そこへ行って不思議な体験をする」のではなく、今私たちがいる世界を、動植物の眼差しを想像して見ることで不思議さを感じる物語です。

前作の「10 Minutes and 38 Seconds in This Strange World」では頭をガツンと殴られて、そのまませまい世界に閉じ込められ、その中でも逞しく生きる命の鮮やかさに切なくなりました。

対して、今作は、植物が根を張るように、水が浸透するように、心の中にまで届き、小石を残していくような作品です。

The Island of Missing Treesが試し読み・試し聞きできるサイト

最後に、この作品の試し読み・試し聞きができるサイトと、この作品ではありませんが、シャファクがTEDに出演したときのYoutubeをご紹介します。
この本を手に取る後押しになりますように。

試し読み(序章が無料公開されています)


試し聞き(シャファク本人による一部の朗読と、本の紹介です)

TEDトーク(日本語訳もあります)


お読みいただきありがとうございました。
Elif Shafakという作家に興味を持つきっかけになれば嬉しいです。

Irene

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