『東京タラレバ娘』に怯えた20代と『ハイパーミディ中島ハルコ』に背中を押されるこれから
今日は成人式。20歳の頃のことなんて随分昔のことのように感じるほど私は大人になってしまった。
結婚、妊娠、出産とライフステージを変化させていく友人を横目に、私は特に代わり映えのしない毎日...。なんてしんみりとした感情は一ミリもなく、1人だって人生はめちゃくちゃ楽しい。
自分がこれから何をしてどう生きていきたいのか、そんな小さな「覚悟」のようなもの。それさえ見失わなければ本当に幾つになっても楽しいものだ。
実を言うとそう思えるようになったのはここ2〜3年の話で、20代前半の頃は謎のタイムリミットに内心焦っていた。その背景にはとある2つのマンガ作品との出会いがあった。
"東京オリンピックまでに"という呪い
私が成人式を迎えた2年後に東村アキコ先生の『東京タラレバ娘』の連載がスタートした。
あの時〇〇していたら、〇〇していれば...。そんなタラレバばかり言っていたらアラサーになってしまった主人公・倫子が率いる3人娘たち。6年後の東京オリンピックまでには結婚しようと奔走する姿をコミカルに描いたラブコメディ作品だ。
倫子たちは、6年後の2020年に東京オリンピックが開催されることをきっかけに「結婚」をより意識するようになるのだが、このやたら現実とリンクした時間軸と倫子たちの物語は私に小さな呪いをかけた。
"東京オリンピックまでに"
結婚なのか、妊娠なのか、出産なのか、仕事で独立するのか。何かしら今より違う自分になっていないと、よく分からないけどダメなんじゃないかと思うようになった。
2014年に連載がスタートした『東京タラレバ娘』は、3年後の2017年に最終回を迎えた。
私にかけられた小さな呪いを払拭するような、笑いあり涙あり希望ありな最高の最終回だった。けれど、私がこれから向かっていく先には、倫子たちが経験したように仕事がスランプに陥ったり、とにかく結婚に焦ったり...そんな心穏やかではない未来が待っているのかと当時の私は少しため息をついた。
タイムリミットが迫った時に現れたのは
『東京タラレバ娘』が最終回を迎えた翌年の2018年。
いよいよ2020年が現実みを帯びてきて、世の中はオリンピックに向けて何やら土地開発や建設工事が行われるようになった。
その年の12月25日に東村アキコ先生は、またもやとんでもない作品を世の中に放った。
その名も『ハイパーミディ中島ハルコ』。作家・林真理子先生の『中島ハルコの恋愛相談室』が原作となっている作品だ。
本作の主人公はしがないフードライターの菊池いずみ。38歳独身、そして10年に渡り不倫を続けている彼女が取材先のパリで出会ったのは、とにかく派手で型破りな女社長・中島ハルコだった。
いずみを始めとする人生に悩みを抱えた人たちがハルコさんの元に集まり、ハルコさんに振り回されている内にいつの間にか悩みが解決していたり、女性として洗練されていく。ハルコさんが悩める女性たちを愛という名の刀で切り裂いていく痛快コメディ作品だ。
2巻でハルコさんはかつての同級生から、定年退職した旦那の接し方について相談されるのだが、ハルコさんは彼女にこんな言葉を突きつけた。
人は誰だって人生のオトシマエをつけなきゃいけない時がくるのよ。あんたみたいな専業主婦には定年のダンナ。私みたいに一人で生きてきた者には孤独ってやつ。お互いどっちも放り出せないもんだとしたら知恵とお金を遣わなきゃね。「ハイパーミディ中島ハルコ」2巻より
この突き放すような言葉が、2020年という迫りくるタイムリミットに焦る私の背中を押した。いや、蹴り倒した。
『東京タラレバ娘』の倫子たちのように結婚に向かって奔走しようが、仕事に邁進しようが、人生は良い所取りという訳にはいかず、みんなに等しく苦楽が訪れるだろう。どの道を選ぼうと、自分の人生を生きていくには強い覚悟が必要なのだ実感させられた言葉だった。
ハルコさんに背中を押されて
20代前半のあの頃、『東京タラレバ娘』を見て怯えた2020年は気付いたら終わっていて、なんだか珍妙な世の中になっていた。
こんなに家に籠り切りの毎日を私はもちろん、誰が想像しただろうか。終わりの見えない"おうち時間"なんて毎日に正直飽き飽きしているけれど、ハルコさんに出会ってから心に宿した小さな「覚悟」と一緒に、これからも私は楽しく生きるんだと思う。
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