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『プルーピリオド』は7巻からの矢口八虎がとても魅力的なんだって話。

昨年「マンガ大賞2020」では大賞を受賞、そして今年はテレビアニメ化が決定し、ますます盛り上がりを見せている山口つばさ先生の『ブルーピリオド』。

主人公・矢口八虎が美術室で見た1枚の絵をきっかけに、初心者ながらも美術の世界へと突き進んでいく物語も、1月21日発売された最新刊で9巻にまで到達しました。

どの巻も、美しくも厳しい美術の世界のリアルや、その世界で自分を表現するライバルたちのアツいセリフが詰まっていて、思わず没頭して読み進めてしまうくらい読み応えがある『ブルーピリオド』ですが、私は特に7巻からの矢口八虎がとても魅力的で目が離せないのです。

矢口八虎と今まで

矢口八虎は、スラッとしたイケメンでノリも良いし成績も中の上くらい、言わゆるスクールカースト上位の男子高校生です。人間関係も何事も器用にこなすタイプなので、一般社会にうまく順応するタイプの人間です。

けれど、友人とサッカーの試合を見て盛り上がっている最中に

他人の努力の結果で酒を飲むなよ お前のことじゃないだろ『ブルーピリオド』1巻

と心の中でつぶやくほどに、"何も持っていない自分"そして"何かに情熱を燃やすことも極めることもない自分"と言うものを冷静に理解していて嫌気が刺しています。そんな彼が、美術室で出会った絵をきっかけに、初めて自分で絵を1枚完成させるという体験をします。

自分自身を表現すること、そして絵を描くことにすっかり魅了された八虎は美術の世界へと身を投じていくのです。

ブルーピリオド』1巻〜3巻までは八虎が美術の世界へと足を踏み入れて、美大の最高峰である東京藝術大学を目指し予備校へ通うお話。そして4〜6巻は知られざる東京藝術大学の受験についてのお話が収録されています。

美術に関しては全くの初心者の八虎が、予備校生たちに触発されて才能を開花させていくところ、そして、読者の私たちにとっても勉強になる美術のノウハウはとても読み応えがあるし、私自身もすごく魅了されました。

矢口八虎が痛いほどに"凡人"として描かれる7巻

その後、矢口八虎は見事、東京藝術大学に合格し7巻からは八虎のキャンパスライフが描かれています。
今までは、美術の楽しさを実感しながらも周囲との実力に苦しみながら絵を描き続けていた八虎。その過程が彼を心身ともに成長させ、覚醒させてきました。ここに至るまでの八虎の物語は目を見張るものがあったし、その勢いはやはり八虎も「天才」なのだと思ってしまうほどでした。

合格後も念願の東京藝術大学を舞台にさぞ活躍を見せるのだろうと思っていたのですが、決してそんなことなく、むしろ7巻からは矢口八虎が痛いほどに"凡人"として描かれているのです。

今まで八虎が描いていたのは「受かる絵」。そこに彼なりの思いや情熱はありましたが、"受験生に対して与えられる課題をクリアする"するために絵を描いていた八虎にとって、東京藝術大学に入学した後の方が過酷なものだったのです。

周りの同級生たちと違って、特別好きなものがない、これから作っていきたい作品のビジョンもない...。

もしかしたら、八虎みたいな人が世の中大多数なのかもしれませんが、東京藝術大学に入学した同級生たちには揺るがない「それら」があるのです。実力はもちろん、自分の中の美術の核たるものを持っている...いわば、本物の天才たちが溢れている環境なのです。

予備校に通い初心者ながらも、ものすごい勢いで覚醒していった八虎は天才に見えていたけれど、こうして東京藝術大学に入学した途端"凡人"として描かれているところがとても人間くさくて魅力的に感じるのです。

何もしなければただの凡人

ブルーピリオド』はマンガ作品でフィクションではあるものの、この八虎が"凡人"に見えるという描かれ方は現実世界に生きる私たちにとても勇気を与えるものなのではないでしょうか。

本作には様々なタイプの天才が登場します。天賦の才を持っているものもいれば、努力を重ねたり、とにかく色々なものに触れてインスピレーションを受けて才能を開花させるタイプもいたり、本当に天才の種類は様々だと思います。

ただ、7巻からの八虎を見て感じたのは、天才は最初から存在しない、そして何もしなければただの凡人だということ。

世の中に「天才」と呼ばれる人はどれだけいるのでしょうか。私もですが、「天才」と讃えられる人は世の中的にはとても少ないのではないでしょうか。

だからこそ、この"凡人"として描かれる八虎にとても心惹かれたし、その中でも前に進み続けて"凡人"で終わらせない姿に魅力を感じるのかもしれません。


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