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SFボーイ・ミーツ・ガール『宇宙検閲官』注目すべきは平凡なヒロイン!?彼女が強調する本格SFとしての魅力

ボーイ・ミーツ・ガール。それは、少年と少女の出会いから始まり、様々な困難や運命に翻弄されながらも物語を紡いでいく...そんな作品に対してよく用いられる言葉だ。2人の出会いから始まるのだから、ボーイ・ミーツ・ガールものには当然、記憶に残るような魅力的なヒーローやヒロインが欠かせないと思う。

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だが、「LINEマンガ」で連載中の『宇宙検閲官』(貞松龍壱)は、主人公・牧野マキが登校途中に謎の男・ロジャーと出会ったことをきっかけに物語が大きく動いていくという、超王道なボーイ・ミーツ・ガールものの流れを見せながらも、ヒロインである牧野マキが従来のボーイ・ミーツ・ガールものらしからぬ稀有な魅力を放っている。

ミッションは滅びゆく地球の運命を変えること

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物語の舞台は、隕石が頻繁に落ちるようになった2019年の地球。そこで暮らす高校生の牧野マキは、登校途中にサングラスをかけた謎の男・ロジャーと出会う。隕石の墜落から助けてもらったことをきっかけに、行動を共にするようになるが、このロジャーこそがタイトルにもなっている宇宙検閲官なのである。

ロジャーは、滅びゆく運命にある地球を救うというミッションのために未来から2019年に派遣された宇宙検閲官。実は、マキがロジャーに助けられるのは今回が2度目。なんと10年前に事故で死ぬはずだったところをロジャーに助けられていたのだ。

ロジャーと出会ったことで死の運命を回避してしまい、未来に歪みを生じさせてしまったマキ。こうして彼女は、突如地球の未来を賭けた宇宙検閲官たちの戦いに巻き込まれていくことになる。

平凡なヒロインが強調する、本格SFの一面

サラサラの黒髪、スッとしたきれいな顔立ち、どこかミステリアスな眼差し...。と、文句なしのイケメンとして描かれているロジャー。彼の魅力的なビジュアルや振る舞いによって、従来のボーイ・ミーツ・ガールものではお馴染みである、互いに影響しあって心惹かれていくような恋愛的要素を期待せずにはいられない。けれど、ヒロインであるマキの存在によって、この期待は良い意味で裏切られる。

ロジャーがミステリアスなイケメンオーラを放つ一方で、マキはかなり平凡な雰囲気を醸し出しているのだ。それは、親しみやすいキャラというある種の魅力であるものの「相手がロジャーなら、同じくらいインパクトのある個性的な美少女がヒロインだろ!」という、私の中にあった従来のボーイ・ミーツ・ガールもののセオリーを外しにきた。

だが、この平凡なヒロイン・マキの存在こそが、『宇宙検閲官』の本格SFものとしての一面を強調しているように感じた。

ビジュアル、醸し出す雰囲気、服装、どこを取ってもマキは普通の女子高生に見える。普通に学校へ行き、友達と何気ない会話を楽しみ、仲の良い家族と平凡な日常を送る...。そんな普通の女子高生である彼女が、宇宙検閲官というあまりに突飛な存在と関わることになり、彼らの闘いに巻き込まれていく事になるのだが、彼女が普通かつ素朴に見えるほど、宇宙検閲官の存在や彼の闘いが、未来的かつ異質なものであるというSF要素が際立つ。

また、本作では、マキが平凡であるからか、ロジャーとの間に恋愛的要素をあまり感じさせない。ロジャーを始めとする宇宙検閲官たちは、敵である侵略者と闘う際に「絶対兵器」と呼ばれる巨大なロボットのようなものを操縦するのだが、このバトルシーンにおいても、2人の間に恋愛要素を感じさせないからか、読者にダイナミックな感覚と没入感を与えているような気がしてならない。

『宇宙検閲官』は「LINEマンガ」にて隔週火曜日に最新話が更新され、単行本1〜2巻が絶賛発売中だ。従来のボーイ・ミーツ・ガールもののセオリーを覆し、本格SFとしての魅力を持つ本作をぜひ読んでみてほしい。


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