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#映画感想文233『パリタクシー』(2022)

映画『パリタクシー(原題:Une belle course)』を映画館で観てきた。

監督・脚本はクリスチャン・カリオン、主演はダニー・ブーン、リーヌ・ルノー。

2022年製作、91分、フランス映画。

日本版の予告は、ちょっとミスリードというか核心に触れなさすぎである。だから、劇場で何度も予告編を見ていたものの、食指が動かなかった。ただ、監督のクリスチャン・カリオンのインタビュー記事を読んで、これは観なければと思った。何とテーマが「ミソジニー」だというのだ。

(イランを舞台にした『聖地には蜘蛛が巣を張る』の鑑賞後だったので余計に観たくなった)

タクシー運転手のシャルルは、日々のストレスフルな仕事とパリでの暮らしに疲れ切っている。そんな彼のところに、介護施設に入る女性を送り届けてほしい、という依頼が入る。面倒くさそうにしていたシャルルだが、92歳のマドレーヌの身の上話を聞いているうちに、イライラや日々の緊張が和らぎ、心の交流が始まっていく。

1950年代のフランスの女性は、男性の許可を得なければ何もできず、家庭内暴力に苦しむ女性も数多くいた。マドレーヌはDV被害者として、その理不尽さと毅然と闘ってきた女性であり、運動家であったことが徐々に明らかになっていく。

ちょっと残念なのは、92歳の彼女の人生が40歳ぐらいまでしか描かれていなかったことだ。あとの50年はどのように暮らしていたのか。どんな仕事をしていたのかをもっと知りたかった。

この映画が薄っぺらくならなかったのは、ダニー・ブーンの不愛想で疲労困憊した労働者の空気感とリーヌ・ルノーの堂々たるたたずまいによるところが大きい。現代のパリの街と回想シーンで構成されるため、脚本に若干の弱さがあることは否めない。その欠落を主演の二人が存在感によって見事に埋めているように感じられた。

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