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#読書感想文 マイケル・ギルモア(1996)『心臓を貫かれて』

マイケル・ギルモア、村上春樹訳の『心臓を貫かれて』を読んだ。1996年10月に文藝春秋より出版された単行本である。

父親による暴力に苦しんだ家族の物語である。被虐待児であるゲイリー・ギルモアは数々の犯罪を犯し、死刑を言い渡される。死刑制度を復活させたユタ州で、ゲイリーは上告せず、死刑執行してほしい、と州に対して主張した。そのことで、一躍時の人となった。

暴力は連鎖し、トラウマは遺伝する、というのは、あながち非科学的というわけでもないのだろう。

アメリカの暴力は、強烈に描かれることが多い。しかし、見えにくい日本の暴力のほうが、より恐ろしい気もする。多くの被害者は沈黙を選ぶ。加害者が身内なら、なおのことだ。

僕はもともと継続する見込みのない家族に生まれ落ちたのだ。そこには四人の息子たちがいたけれど、誰一人として家族を持たなかった。誰一人として伝承や血縁を広めようとはしなかった。(中略)彼らは自らの死をもって、血の流れを止めてしまったのだ。

マイケル・ギルモア(1996)『心臓を貫かれて』p.556

死刑となったゲイリーの弟であるマイケル(著者)は結婚したものの、うまくいかず離婚してしまう。その後も、いくつかの恋に破れる。自分たちは家族を持つことを許されなかったのだ、と結論付ける。家庭内暴力の苦しみを再生産したくないと願う人は少なくない。それに加えて、犯罪加害者の家族であることは苛烈であろう。こういった問題は、欧米でもアジアでも、そう大きくは変わらない。

この本を書いたことにより、マイケル・ギルモアの魂が少しでも癒されていたのならいいな、と思う。

Mikal Gilmoreで、Amazonを検索すると、著作がいくつか出てくる。音楽ライターとしての仕事を続けられているようで、ほっとした。1951年生まれなので、今年71歳になるそうだ。悲劇に見舞われたのだとしても、容赦なく人生は続いていく。その厳しさに身がすくむような思いがする。

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