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#映画感想文001『AKIRA』(1988)

大友克洋監督の『AKIRA』をIMAXで観てきた。

1988年製作、124分の日本のアニメーション映画である。

以前の職場の同僚に「いやー、『AKIRA』ってすごい映画なんですよ。知ってます?」と言われ、「おまえ以外、全員知っとるわ」とブチ切れた記憶がある。無神経なそいつは、わたしが映画などを一切観ずに生きていると思っていたのだろう。やだやだ。

おそらく、『AKIRA』を見るのは、今回で4回目ぐらいだったと思う。

10代の頃は、映像的なグロテスクさしか印象に残っていない。登場人物たちの背景はそれなりに複雑だとは思うが、わからなくても十分に面白い。(当然、漫画を読み込めば、さらに面白くなると思う)

映画館で観ることができて、本当によかった。アニメーションとしての美しさや線の細やかさが素晴らしいのはもちろんのこと、改めて、すごさを感じたのは、その音である。音の振動が体に伝わってくる。あの感じは、家では体感できない。映画体験としての気持ちよさがあった。

さて、『AKIRA』である。昨今の政治状況を眺めながら「東京なんて、ネオ東京みたいになってしまえばいい」と心の中ででうそぶいていたものの、『AKIRA』をちゃんと見て、「ああ、これはまずい。ネオ東京、無理」と思ったりもした。(あんなポップに爆破が起きていたら暮らせねえよ)『ブレードランナー』の世界がさらに猥雑に暴力的になった世界である。しかし、現実の東京五輪との奇妙な符号などは、感慨深くもある。そして、『エヴァンゲリオン』などの作品に与えた影響の大きさなども、今でこそわかる。

アキラの持っているパワーは、いかようにも解釈できる。(核エネルギーのメタファーにも見える)たかが人間が不可侵領域に踏み込むことで、コントロールできなくなり、破滅に向かう。悲劇的な結末が待っている。

しかし、映画『AKIRA』には不思議な明るさがある。それは、金田の存在によって支えられている。ストーリーの中で、金田の内面や葛藤が描かれることはない。10代の私は主人公を金田だと思っていた。今回、見直して、『AKIRA』の主人公は、明らかに鉄雄であり、その周辺の人々たちの群像劇であることに気が付く。

鉄雄の物悲しさや脇役感に苛まれる描写、パワーを手に入れたあとの高揚感はどれも痛ましい。(『エヴァンゲリオン』における碇シンジくんの悲しさにも通底している)

一方の金田は、崩壊しつつある世界を親切に交通整理をしているだけで、物語を推進する力がない。ネオ東京を動かしてもいない。そう、金田は狂言回しに過ぎなかったのである。わかりにくい世界を案内してくれるだけの兄ちゃん、そのことに、拍子抜けした。(これは『ドラえもん』を見て、ドラえもんが主人公だと思っていたり、『バカボン』を見て、バカボンが主人公だと思っている人には理解できないかもしれない)

「さんをつけろよ! デコすけ野郎」という名シーンがあるが、これは、なぜ金田が今ここにいるのか、という説明である。つまり、金田が鉄雄と対峙するのは「友達だから」という至極単純な理由なのである。それ以外に動機がない。そして、友達だから、最後まで鉄雄を見捨てない、あきらめない、という、これまたわかりやすく、観客を納得させられる動機付けなのである。

この金田の姿にわたしは、父性と母性を感じたりもした。自身の身の危険を顧みない(あまり考えていない)金田の行動は、暴走した子どもを止めなければならないという親にも似ている。

親に捨てられた子どもである金田と鉄雄が、保護者と子どものような関係性になり、それ自体にも、また鉄雄は怒りを感じている。なぜ、対等ではないのか、と。金田は魅力的な男の子なのである。それは生来のものゆえ、鉄雄の手には入らない。長年の鬱積した負の感情、怨嗟や嫉妬がある。

鉄雄の金田に対する感情は、愛憎半ばであるものの、最終的には信頼の大きさが見て取れる。金田に助けを乞う鉄雄の姿は、なす術のない子どもである。高いところに上って降りられなくなってしまった子ども。そう、観客だけでなく、鉄雄が信頼しているのも「金田」なのだ。

金田は圧倒的に陽の存在である。だからこそ、観客は金田を信頼して、この物語の世界に入ることができる。映画鑑賞後も不思議と嫌な感じが残らないのは、この金田の明るさによるところが大きいのではないか。金田の無力さとその献身に清々しさすら感じる。もちろん、破壊のカタルシスも否定はしないけれど。

ここ数年だけでも、金田のバイクシーンのオマージュやパロディが繰り返されている。(『レディ・プレイヤー1』や『NOPE/ノープ』など)やはり、『AKIRA』は世界の終末を想起させる象徴的な作品なのだと思う。

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