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#映画感想文165『NOPE/ノープ』(2022)

映画『NOPE/ノープ』を映画館で観てきた。監督はジョーダン・ピール、2022年製作、131分のアメリカ映画である。

IMAXではない通常映画館で観たが、十分楽しめたと思う。

アメリカの田舎で、牧場を経営している兄(ダニエル・カルーヤ)と妹(キキ・パーマー)。彼らの馬は、主にハリウッド映画の撮影で使われている。そんな二人の頭上に、雲のような未確認飛行物体が現れる。その映像を記録に収めて、テレビ局に売れば、一攫千金を狙えるのではないか、と兄妹は思いつく。そんなたわいのない動機で、二人はどんどんリスクを冒していく。

SNSでは絶賛の嵐で、興奮気味のコメントもたくさん見る。ただ、個人的には、あまりピンと来ていない。もちろん、面白かったが、途中から、バズるためだけにここまで危険なことする必要あるかな、と思ってしまった。

以下が『NOPE』からの教訓と警告である。

・チンパンジーを見世物にするな
・未確認飛行物体も見世物にするな(じろじろ見るな)
・馬を大事にしろ
・カマキリに気をつけろ
・動物をじろじろ見るな、直視するな
・家電量販店の店員に気をつけろ
・電気のない暮らしは大変
・兄ちゃんは馬に乗ってから、急にかっこよく見えてくるぞ
・妹は金田のようにバイクに乗れるぞ
・スティーブン・ユアンはアジア人の闇を抱えているっぽい人専属俳優になっているぞ(ちなみに彼の英語はめちゃ聞き取りやすい)
・すごい映像を撮りたいからといって、カメラマンは走り出してはいけない

わたしの駄文ではなく、小野寺系さんの論評を読んだ方が、その複雑さがよくわかるので、「よくわからなかった」という方には一読をおすすめする。

主人公のお兄ちゃんが、寡黙なのか、暗いのか、単に思慮深い人なのか、どんな人物なのかが、序盤でわからない。得体の知れない何かに対峙する人物もまたよくわからない人、という脚本なので、少し戸惑った。わけのわからないものと闘わなければならなくなった人は、たいてい「普通」「凡人」「常識人」で、観客が感情移入しやすくなるような配慮が徹底されている。本作は、「この兄ちゃんは悪い人ではないんだけど、何を考えているのかようわからんな」という人物として描かれているので、観客は明るい妹を頼りに鑑賞を続けることになる。

本作の主題は「見る」「見られる」という行為で、監督は黒人であり、アメリカにおいて、黒人(有色人種)が見られる側(差別される側)であることが示唆的に描かれているのだという。

で、これは、女性の方がわかる人が多いと思うのだが、女性は凝視されたり、ジロジロ見られた経験が少なからずある。それは「値踏み」であったり、性的対象として性的なまなざしを向けられる、ということであったりもする。それに「ぞわぞわ」した感覚を味わった経験のある人は、チンパンジーの怒り、未確認飛行物体の怒りにも、ちょっと共感ができてしまうかもしれない。「見られる側」は何も感じていない、何も考えていないわけではない。いつ復讐するかは誰にもわからない。「見る側」は自分が見ていることに無自覚である。

「おまえらは無法者なんだから、それを意識しておけよ」と警告している作品なのだと思う。

監督はエヴァンゲリオンが好きらしく、出てくる未確認飛行物体は、確かに使徒っぽい)

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