拒絶を恐れずに生きる方法 その1
「拒絶」は人類にとって、最もつらいものである。
精魂込めて作品を作り上げ、文学賞や漫画賞に投稿しても、受賞者以外の全員は落選する。何か反応があればいいが、箸にも棒にかからなければ、「落ちた」という事実しか残らない。これも「拒絶」の一種である。
投稿論文が査読を通らず、学術誌に掲載されない。reject(「拒絶」)される。これは研究者や大学院生にとっては死活問題であり、痛みを伴う。時間もお金も費やしたのに成果が出ないことに人は焦る。
愛情を注いでいた子どもが急に家を出ていき、音信不通になったりすることもあるだろう。突然、出奔する父親も珍しくはない。家族から「拒絶」されることも、よくある。ただ、家族であるだけ、まだ納得ができるかもしれない。互いに互いを知っているからこそ、許せず、離れることが最善の選択になることもある。
いじめによって自死を選ぶ子どものニュースは後を絶たない。家と学校と塾(習い事)ぐらいのコミュニティしか持たない子どもにとって、その絶望の深さたるや。子どもには、移動の自由も選択の自由もない。経済力のない子どもは黙ってろ、なんて考えが、わたしは子どものときから大嫌いだった。経済力がなく、自分で選べない子どもの不自由さに大人はもっと配慮すべきだと本気で思う。話が逸れてしまったが、コミュニティにおけるリンチもまた「拒絶」の一種である。
わたしのように上司の癇に障ることをしてしまい、職場を追い出されることもある。この「拒絶」は、コミュニティからの追放、収入源が絶たれる、社会的な身分を失う、など複合的で打撃は大きい。
でも、生きている以上、好むと好まざるとにかかわらず、「拒絶」は必ずやってくる。不意に訪れることもあれば、予兆のあとにやってくることもあるだろう。どちらにせよ、「拒絶」のあと、わたしたちはひどく傷つく。平気な顔をして笑っていたとしても、胸はズキズキと痛んでいる。静かに精神をむしばんでいく。
「それを糧にしろ」とか「悪い経験も無駄にはならない」という表現が好きではない。たとえば、強姦されるとか、殴られるとか、しなくてもいい経験は、いくらでもある。それに意味があるとか価値があるという言い方は、あまりに乱暴だ。しかし、その「痛み」を知っていることは、他者を理解する上で、必ず助けになると思う。知っているのと、知らないのでは、大違いだ。もちろん、知らなくてもよかったことだと前置きはしておくが、似たような痛みを感じている人を慮ることができるのは素晴らしいことだ。
TEDでは、「拒絶」を克服するための方法が語られている動画があるので、紹介したい。
①ブレネー・ブラウン『心の脆さ(傷つきやすさ)の力』
人は会社で業績を評価されたとしても、たった一つのマイナス査定のことばかり、気にしてしまう。愛について語るとき、みな失恋の話を持ち出してくる。これは「恥と恐怖」と関係しているそうで、彼女自身も「自分が関わるに値しない人物だと思われることは恐ろしい」と率直に述べている。そして、自己価値感(肯定感)の高い人々の共通点は「勇気」「思いやり」「関係性」「心の脆さ」だった。自己肯定感の高い人たちは、あるがままの自分を受け入れる勇気を持ち、また傷つくことも、人生の一部であり、それが美しいことだと言っていたという。そう、愛の告白をして傷つくこともある。挑戦をして失敗することもある。「拒絶」され傷つくことは当然で、そのことを慈しむ、味わう、という感覚に近いのだと思われる。残念ながら、わたしはその域に達していないのだが、こういう話を聞くと心構えができる。
②Jia Jiang 『What I learned from 100 days of rejection(私が拒絶される100日から学んだことは何か)』
彼は北京出身で、渡米して、アメリカの大学を卒業し、就職をして、起業までしている。経歴だけ見れば、勇気のある人で自信家であると他人からは思われるだろう。しかし、彼は起業する際、資金調達で投資家からの支援が得られず、ひどく傷ついてしまう。こんな小さなことで絶望するようでは、目標にしていたビル・ゲイツにはなれない、と彼は気がつく。そこで彼は、「拒絶」されることに100日間挑戦していく。すると、無理なお願いをしても、コミュニケーションを取りながら、思ってもみなかった方向に展開したり、意外なことが起きたりする。「拒絶」を怖がって、何もしなければ、何も起こらなかった。彼は、生じる可能性のある痛みを恐れるより、「拒絶」があったとしても、それに向き合い、対処することの方がより重要だと述べている。この動画を見て、わたしは「拒絶」に敏感すぎるのかもしれない、と思えた。たとえ、「拒絶」されても、人生が終わるわけではない。恐怖のあまり、チャンスを逃してしまうことや、あれこれ考えたあげく何もしないという無駄な時間によって失われるもののほうが大きい。
③Guy Winch 『How to fix a broken heart(失恋から立ち直る方法)』
恋愛はヘロイン中毒と同じような状態になるので、失恋すると離脱症状が起きる、という話に驚いた。恋愛はドラッグなのだ。いろいろ合点がいく話でもある。
④Elizabeth Gilbert 『Success, failure, and drive to keep creating(成功、失敗、そして創造し続けること』
彼女は、ジュリア・ロバーツが主演した映画の『食べて、祈って、恋をして』の原作者である。この動画では、作品を出版社に送り、何度も不採用通知を受け取った経験が語られている。彼女は「拒絶」されるたびに、「さあ、仕事に戻ろう(自分の居場所に戻る)」と書き続けることをやめなかった。だから、成功できたのだ、ということではなく、成功しようが失敗しようが「自分の居場所」を維持すること、作っておくことが重要だと述べている。わたしたちは、無名であれ、有名であれ、生き続けるのだから、自分にとって安全な巣を作っておかなければならない。
というわけで、「拒絶」というキーワードをもとに、TEDの4つの動画を紹介した。なぜ、こんな動画ばかり見ているのかと問われれば、わたしが人一倍「拒絶」を恐れているからだ。そして、実際「拒絶」されると、自暴自棄になってしまったり、せっかくの過程までゼロにしてしまったり、全否定したり、とろくなことをしない。
わたしは他者からの「拒絶」があると、自分を全否定してしまう悪癖がある。自分で自分を「拒絶」してしまう。
今年(2021年)の1月と2月は、落ち込みが激しかった。今、思えば、去年から継続していたプロジェクトの締め切りもあり、過労状態に陥っていたのだと思う。
このときは、本当に「さっさとこの人生を終わらせたい」というような思考に囚われ、非常に苦しかった。しかし、そこで、もし死ぬのだとしたら、伝えなければならないことがあるのではないか、とベッドに横たわりながら考えた。
5人ぐらいの人が頭に浮かんだ。お世話になった人、優しくしてくれた人、愛を示してくれた人たちだ。彼らには伝えるべきことがあると思った。
疎遠になってしまっているので、突然連絡しても迷惑だろう。それに、気持ち悪いとか気味が悪いとかで「拒絶」されるおそれもある。
しかし、悶々と悩んでいても仕方がないので、「勇気」を出して、メールを送ってみることにした。
(この話、その2に続きます!)
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