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キム・ジヘ(2021)『差別はたいてい悪意のない人がする』の読書感想文

キム・ジヘの『差別はたいてい悪意のない人がする 見えない排除に気づくための10章』を読んだ。2021年8月に大月書店から出版された本で、翻訳は尹怡景さんだ。

この本は著者のキム・ジヘさんが「決定障害」という言葉を面白がって使っていたところから始まる。決定障害とは、ぐずぐずして決められない、決断をするのに時間がかかってしまう人、というぐらいの意味だ。日常では何の問題もなかった。あるとき、シンポジウムの壇上で、その言葉を使ってしまう。イベントが終わったあと、バスの中で、「なぜ、あなたは決定障害という言葉を使ったの?」と問われ、著者は、はっとする。韓国社会において、「障害」は日常的に否定的な意味で使われている。障害を持った人々はそれらの表現をどのように感じているのか。彼女は自分が差別する側になってしまったことに驚き、戸惑う。しかし、そこで「何が悪いの?」と開き直るのではなく、彼女は考え始める。

障碍者差別や人種差別、女性差別の話も、もちろんあるが、正規雇用と非正規雇用の話もあり、胸が痛くなった。わたしはどちらの立場も経験している。正規雇用のときは、責任と残業がセットだったが、疎外されていると感じることは、ほとんどなかった。一方、非正規雇用のときは、仕事のパターンは決まっているので楽だったが、やりがいがあまり感じられず、正社員とのあいだに壁があり、常に疎外感を感じていた。

自分が正社員になると、非正規の人たちの気持ちがわかっているはずなのに、あまり配慮することができなかった。忙しいことを言い訳に何もしなかった。でも、そういった正社員の行動やふるまいは、彼らに孤独感を感じさせていたはずで、今更ながらに反省もしている。良い意味でも悪い意味でも立場が人を作る、というのは本当なのだ。

「差別なんて私には関係のない話だ」と思っている人たちに、ぜひ読んでほしい。わたしたちは、ときどき、悪意もなく、善良であるにも関わらず、差別的なことを言い、差別的なふるまいをしてしまうのだから。

あらかじめ、本で学んでいたら、当事者になるまえに「差別」に気付くことができるかもしれない。それこそが、読書の効用だと思う。

(そして、この本を翻訳した尹怡景さんはすごいと思う。多くの翻訳は、外国語を母語にする。彼女は母語の韓国語を外国語に翻訳している。韓国語と日本語が似ているとはいえ、素晴らしい才能の持ち主なのではないだろうか。そんなことも気にかけながら、読んでいただきたい)

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