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#映画感想文331『ぼくの家族と祖国の戦争』(2023)

映画『ぼくの家族と祖国の戦争(原題:Befrielsen)』(2023)を映画館で見てきた。

監督・脚本はアンダース・ウォルター、出演はピルウ・アスベック、カトリーヌ・グライス=ローゼンタール、モルテン・ヒー・アンデルセン。

2023年製作、101分、デンマーク映画。

第二次世界大戦の末期、デンマークはナチスドイツの占領下にあった。ただ、植民地政策までは行われておらず、自治はある。そんななか、ソ連がドイツに侵攻したことにより、ドイツから20万人以上の難民がデンマークに雪崩れ込んでくる。支配者が弱者となり、被支配者のもとに助けを求めてくる。デンマーク側からすれば助ける義理はないのだが、これまでどおり支配者のようにふるまい、命令するドイツ軍人に逆らうことができない。しかし、ドイツは確実に弱体化しており、そのドイツに従うことに対するデンマーク国民の反発も大きく、誰が味方で誰が敵なのか、容易に判断することができなくなっていく。

市民大学の学長ヤコブは、難民を受け入れざるを得なくなり、体育館を彼らのために開放する。ドイツ軍は難民に食料や医療を用意しておらず、体育館の中は感染症が蔓延していく。ドイツ人医師は、感染者を隔離しないと大変なことになる、ワクチンの準備ができないのなら墓を準備してくれと述べる。学長のヤコブは、ドイツ人を助けることを一切拒否していたのだが、その妻は赤ん坊と母親を助けるために行動をしてしまう。周囲のデンマーク人は裏切り者、非国民であると彼女を攻撃する。ヤコブもそんな妻の行動を咎めていたが、ドイツ人が感染症で死んでいくのを目の当たりにすると、徐々に考えが変化し、助けたいと考えるようになる。しかし、息子はそんな父親をナチスの協力者だと反発していく。

家族すらも一枚岩ではない。彼らの周囲にいる人々、学校の同僚たちもそれぞれの政治的な立場と思惑がある。家族の中でも対立が起こり、デンマーク人同士でいさかいが起き、誰も救われない、というエピソードが延々と続いていく。

ヤコブ一家が救おうとしたドイツ人たちも普通の人たち。そして、ヤコブ一家を攻撃するデンマーク人も普通の人たちなのだ。戦争により、本来の自分ではいられなくなってしまうのは恐ろしいことだ。はっきりと主義主張をするより、日和見とノンポリを選んで、時代の波をかわすことも一つの生存戦略になるのだろうと思わされたが、それを選べない人もいる。

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