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児童養護施設の子

私の住んでいた町には地区ごとに児童養護施設があった。

私が住んでいた地区にある児童養護施設は、廃校になった中学校を改装したもので、元・中学校校舎という大きい建物に見合う分の数の大勢の子供達が生活していた。

小学生のころはクラスメイトの6分の1くらいが施設の子で
「今日〇〇の家、行っていいー?」
「俺んち、×××××(児童養護施設の名前)だから無理ー!」
というような会話が日常的に聞こえていた。

流石に中学生くらいになると自分が児童養護施設の子であることをおおっぴらに言うことはなくなるが、それでも児童養護施設の子が減るわけではなく、それどころか年を増すごとに同級生の子に「児童養護施設の子」というのは増えていった。

少子高齢化なのに施設は常にパンク状態。

年々児童養護施設の子が増える理由。
親が病気や事故で亡くなったり、親代わりに育ててくれていてた祖母が亡くなったり……という理由で入所するのは少なく
子供が小学校や中学校に入学したタイミングで母親が子供を捨てて(男と)蒸発するというのが多かった。

「もう中学生(小学生)なったし母親がいなくても一人でなんとかできるでしょ。母親やーめた!」「これからは一人の女として生きる!男!男!セックス!セックス!」

父親は元からいないか、出て行った母親と同じように子供を置いて他所の女のところへ行ってしまう。

大抵の場合、嫁に出ていかれるような旦那は子供の世話どころか自分自身の世話も出来ない自活力ゼロのダメ男だ。

そして破れ鍋に綴じ蓋とでもいうのだろうか、こういうダメ男の世話をするのが好きで好きでたまらないダメ女が同じくらい存在するのだ。

父親が自分の世話をしてくれる女のところへ転がりこむのではなく、自分の世話をしてくれる女を自分の家に住まわせることもある。

子供の存在を無視して。

最初から両親がいなくて祖母と暮らしていた子というのも、妊娠したけど男に逃げられた母親が赤ん坊を実母に押し付けて別の新しい男と蒸発して新しい家庭を作っている、というパターンが定番だった。

ついでに言えば私が中学に上がったとき一斉に同級生の親が離婚して母子家庭が増えた。こちらも蒸発した母親と大して変わらず、働きに出た先で男を作って恋愛に夢中になって子供を放置。家に男を連れ込んだり、男の家へ入り浸っていたり、子供を置いて蒸発する母親と五十歩百歩だった。

思春期なのに親に捨てられたり、知らない女(男)が家に住みついたり、母親が新しい彼氏に夢中になってセックス三昧なんて子供がグレるには十分な理由だ。


話が児童養護施設の子に戻るが、児童養護施設の子は何もしていなくても「児童養護施設の子」というだけで大人たちから石を投げられていた。

30歳も40歳も、それ以上にも年齢が違う子供に向かって。大人が。

小さい頃はなんで大人たちはこんな酷いことをするんだろうと思っていたが、大人達が「お前たちがいるせいで俺の金(税金)が無駄になった!!!」「誰のおかげで生きていけると思っているんだ!!!」「早く出ていけ!!!」等、学校帰りの施設の子供に怒鳴り散らしているのを聞いて、児童養護施設の子供を虐げる理由を理解した。

この人たちは児童養護施設がなければ、児童養護施設の子がいなければ、その運営に使われる税金は全て自分達に還元されると思っているのである。
=児童養護施設があるせいで自分に還元されるはずの金が帰ってこない、自分の金が他人に勝手に使われていると激怒しているのである。

100歩譲って施設や役場にクレーム入れるならまだわかるが、
絶対に自分より弱い小学生相手にこのようなことをしているのだ。

目の不自由な人や足の不自由な人に向かって「お前のせいで金が無駄になった」とは言わないのに、小さい子供に、しかも子供本人には何の非もなく、むしろ被害者なのにこのような仕打ちをしているのだ。


どの学生時代にもイジメはあったが、不思議と子供達のあいだでは「児童養護施設の子には手を出さない」という不可侵条約みたいなものが存在していた。

クラス内に児童養護施設の子が多すぎて「こいつは他とは違うからイジメようぜー!」とならないというのもあったし

大人達が施設の子供に対して石を投げたり、子供にいうことを聞かせるために施設名を出して「×××××の子は可哀相なんだから我慢しなさい!!」「×××××のガキに比べたらお前は幸せなんだから我儘言うな!!」「親がいるだけ感謝しろ!!」「お前みたいなガキは×××××に入れてやる!!」などと言っていたので、どんなに気に入らない子でもこれ以上追撃する気にはならなかったというのあるだろう。

子供同士でイジメる前に既に大人達がイジメているのだ。

私もクラスの他の子も、仲のいい友達に児童養護施設の子がいた。クラスにたくさん児童養護施設の子がいるから、仲良くなった子が施設の子だったということは当たり前にある。

児童養護施設の子を虐げる大人に逆らえば、仲のいい友達がさらに大人から罵られ怒鳴り散らされ石を投げられる。子供に出来ることと言ったら黙ることしかない。これ以上友達が酷い目に合わないように。

ここまで読んで、児童養護施設の子のことを可哀相だと思うだろうか。
親に捨てられ、大人から石を投げられる児童養護施設の子が。

だが、私や私と同じような毒親家庭の子は児童養護施設の子が羨ましかった。安心して眠れて食事がとれる児童養護施設の子が。

親や保護者、引き取り手がいなければ保護してもらえるが、
虐待では保護してもらえない。「家族でよく話し合ってください」で終了だ。

学年の途中で施設に入った子のことを友達とよく話していた。
『〇〇ちゃんはいいね、保護してもらえて。』




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