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夜のピクニック #読書の秋

秋晴れの空の下、最大の学校行事が今年も開催される。

全校生徒が同じ上下白色の体操服を着て歩き続ける。想像するだけで異様な風景のように思えるが、その真っ白い隊列の中では今まさに青春が繰り広げられている。


舞台は北高、主人公は高校3年生の少年、少女たち。


卒業後それぞれの道を進む前、高校3年間最後であり最大の行事、それが夜間も含め一日中歩き続けるその名も「北高鍛錬歩行祭」である。

ただ歩き続けるだけのこの行事がもたらすものとは。一体何が起きるのか。

自分と向き合い、他者と向き合い、高校生という子供と大人の狭間で、言葉にしていいこといけないこと、空気を読むということを学んだ高校生たちの葛藤や勇気、あどけなさ。それがどうも今の私には心地よく、懐かしく感じ、何かあの頃に置いてきてしまった感情があるのではないかと気付かせてくれた。

この本は、ただの青春恋物語ではない。主人公は融と貴子という男女ではあるが、恋物語でないところがいやらしくなく、大人になっても読み返してしまう理由の一つのような気がする。


私がこの本を最初に手にしたのは、主人公と同じ高校3年生の夏。たしか読書感想文の対象であったからである。あの頃は「一日中歩き回るの無理、絶対イヤだな。でも夜もずっと行動できるのは楽しそう」程度にしか思わず、特に大きな執着もせずにサラッと読書感想文を書いて終わった記憶がある。

そんな私がなぜ、12年経った今もこの本を手放せずにいるのか。

3月初旬に終わった高校の卒業式後、数名の友達と卒業旅行を計画していた。その名も「夜のピクニック」。はっきりとは思い出せないがこの本を読書感想文に選んだ友達が多かったからこの名前になった気がする。関東・関西両方とも行こう!と夜行バスやらいろいろ計画していたが訳あって私たちの「夜のピクニック」は実行できなかった。誰が悪いわけでもない。それどころではなかった。

それから私にとって「夜のピクニック」は思い出深いものになり、手放せないものとなった。

もしもあの時私の夜のピクニックが決行されていたらどうなっていたのだろうか。

甘酸っぱい青春、密度の高い1日や一瞬一瞬の大切さを、毎日目の前の仕事をこなすことに必死になっている私に思い出させてくれる本である。

ビジネス書や同世代が主人公の本を手に取ることが増えてしまう今日この頃、私たちが通ってきた青春時代を「読書」という形でもう一度体験するのも悪くない。



最後に誰かと夜空を見上げたのはいつだろうか。

ゴールに向かって駆けていく少年少女の絵が目の前に浮かぶ。


#読書の秋2022 #夜のピクニック

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