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寂しいときに読む本

一人の時間は嫌いじゃない。

でも、夕焼けに染まる綺麗な空と、暗い影に賑やかな街が包まれていく時間は、拠り所のない寂しさを覚える。

友達を駅まで見送りに行って一人で家に戻る帰り道は特に嫌いだ。それまで張り切ってはしゃいでいた子供のような自分から、一人の大人に戻る時間であり、家族の帰りを見計らって夕飯の仕度をしているだろう料理の匂いや、いそいそと家に帰る親子を見て、ひとりでいることの寂しさを感じてしまう。

そんなときに読みたくなる本といえば、江國香織の「ホリー・ガーデン。」

主人公の果歩と幼馴染の静枝、そして果歩に思いを寄せる中野という3人の人物描写に引き込まれる作品。果歩と静枝は東横線沿線の生まれ育ちで、尾山台という、私が上京したときに住んでいた街も登場する。そんな親近感も含めて、何度でも読み返したくなる。

果歩は過去の恋愛により、異常な儚さまでを感じさせるのだが、そんな彼女のセリフは印象的で、私の心に、深く残る。

"つまづく石でもあれば私はそこで転びたい"

"大丈夫大丈夫、何も考えないでいればすぐすんじゃうわ"

"そうしないと、自分が大人だっていうことを忘れちゃうからよ"


私はいつも、過去か未来に逃げていて、現在を生きてこなかった。
だから、この世界に属さない人間のような、
リアルな感覚を得られずに生きてきた。

せっかく決まった転職先でも入社1日目から、次の会社を探すような
そんなところがあった。

たとえ仕事で何か成果を出して褒められても、
うん、でもこれで生きていくわけじゃないし。
なんて、思っていた。

不思議の国のアリスのような、と
私は思って社会人生活を過ごしていた。

今を楽しみ、今いる中で頑張る、そういうことが大人というものなのかもしれない。

果歩は過去の経験が深いトラウマとなって、
今をまるで現実味のないように生きている、そんな気がする。

私と少し似ている。
だから、ふわっとした、とりとめのない一言一言に
現れる心の隙間に共感しているのだと思う。

この登場人物たちはみんなそれぞれに、でこぼこしていて愛らしい。
完璧な人も出てくるし、不完全な、異常な人も出てくるが、
作者は全ての人を等しく愛し、生かしてくれている。

そんな愛情を感じられるこの本を片手に、
少し早いけど毛布にくるまって寝てしまおうと
不完全な私は思うのだ。

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