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「じゃー、今日からバイトに入ってくれることになった、渡瀬さん。みんな分らない事教えてあげてね。」

元気の良いお姉さんは木田さんと言って、このレストランで一番古い従業員らしく、店長のいないこの店では店長と同じ役割を担っていた。

「渡瀬さん、よろしくね。私米倉って言います。実は3ヶ月前に入ったばっかりだからあんまり先輩って感じじゃないの。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」

新しいバイト先で周りの人と仲良く出来るかどうかは、そのバイトを継続出来るかに等しい。
だから、今のところ順調に笑顔で声をかけてくれる周りの皆さんにだんだん私の緊張もほぐれてきていた。

ふと見ると、厨房の前で見た事がある“髪型”が揺れていた。

(あ、あの髪の毛、面接の時の……)

そう思った瞬間、下を向いて作業していた彼が顔を上げた。


大げさではなく、①本当に時間が止まったと思った。
私は、変な髪型の奥に隠れていた彼の横顔に見とれてしまったのだ。

(面接の時、変な髪型の人だと思ったのに)

自分の鼓動が早くなるのを受け入れられず、少し速足で前を通り過ぎる。

「あ、渡瀬ちゃん、この人紹介しておくね。君嶋くん!古株だから何でも聞いちゃって大丈夫だよ。」と木田さんの声。

「君嶋です。よろしくお願いします。…高校生?」

そう言って彼は私を見つめる。

「は、はい。もうすぐ卒業します…。」

「そうなんだ、じゃーよろしくね。」


その日の夜、私は自分の部屋のベッドで、君嶋さんの変な髪型と綺麗な横顔を何度も何度も、思い出していた。

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本当に時間が止まったと思った。
└人は相手に一目ぼれをする時に、7秒近く相手を見つめていると言われています。つまり、時が止まった様に感じるのは7秒間本当に止まったまま見つめているからなんですね。






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