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“持続可能”の意味と向き合う 八重山食卓会議 前編

照りつく太陽が輝く梅雨明けを迎えた7月初旬、私たちは沖縄県八重山(やいま)地区の石垣島を訪れました。今回の食卓会議も、めぐるめく事務局に加えて、全国各地から多領域の食農に関わるメンバーが現地に集いました。

食卓会議とは…地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。

訪問した八重山(やいま)地区とは、12の島と多くの無人島で構成される沖縄県の石垣市・竹富町・与那国町の一市二町のことを指します。なかでも、石垣島は温暖な気候と雄大な自然が特徴的で、東京から直行便が出ている人気のエリアです。

今回の案内人は、石垣島・嵩田地区で『ポトリ果マンゴー』を栽培している、かわみつ農園の川満起史さん。昔からこの地で暮らす人々の想いを受け継ぎ、フルーツを介して人流を創出する『石垣フルーツストリート』の実現に向けて活動しています。

観光地のイメージが強い石垣島ですが、当たり前に暮らしを営む人たちもいること。今回は、その暮らしと観光のコントラストを色濃く感じる2泊3日のフィールドツアー&交流会となりました。


<案内人・かわみつ農園川満起史さん>
<嵩田地区の長閑な風景>

持続可能な暮らしとは何か

到着して最初に向かった場所は『はなやガーデン高宮』のガレージ。嵩田集落付近に暮らすみなさんが迎えてくれました。

 自己紹介もままならないうちに、「まずは石垣島の自慢の食を存分に味わってほしい」と食事を振る舞っていただきました。島で獲れた野菜をふんだんに使用した手作りのピザ、石垣の特産品である石垣牛の中でも、近年注目され始めている出産経験のある牛「経産牛」のステーキ、そして新鮮なパイナップルやマンゴーなど。豊かな食材が並ぶ食卓を一緒に囲みながら、地域の方々と交流を深めました。

 全国各地から集まった多領域の食農に関わるメンバーたちは、食材の説明を受けながら「こんなに甘みを感じるマンゴーは初めて!」「脂があっさりしていながら、しっかりと牛肉の旨みを感じる!」と驚きを隠せない様子でした。

「これも食べてみて」「これも美味しいよ」と、はじめましてにもかかわらず、気さくに話しかけてくださる島民のみなさんの姿勢はどこからくるのかと思っていたところ、昼食後の交流会で川満さんから理由を聞くことができました。 

「嵩田地区は戦前から戦後にかけて自由移民が開拓した地域です。入植から76年、開拓1世が土地を拓き、2世が市場を拓いてきた地域で、現在は約150人が暮らしています。1992年には『ゆんたく会』という地域交流のためのコミュニティ活動が生まれ、現在も毎月行っているんです。この背景があるからこそ、どんな人たちも受け入れる姿勢が自然と身についているのだと思います」

そんな歴史的背景のある『ゆんたく会』のなかで、それぞれの事業や得意を活かした地域づくりができないかという意見から約30年前に『嵩田グリーンツーリズム構想』は生まれました。島の豊かな自然を活用しながら、地域に暮らす人の「やってみたい」を掛け合わせた数々の夢やアイディアが詰まった構想です。

 案内人の川満さんは、この構想について「今の時代だからこそ実現できると確信している」と話します。そして、川満さん自身もアグリカルチャーの聖地『石垣フルーツストリート』と名付けた体験スポットを創出し、地域を再生するべく邁進しているのです。

約30年前の『ゆんたく会』の中心で、まさに『嵩田グリーンツーリズム構想』を考案した花谷友子さんは「今の世代の子たちが、当時の夢を夢で終わらせることなく実現しようとしてくれることがとても嬉しい。今とってもワクワクしています」と話していました。

<当時の『ゆんたく会』の様子を語る友子さん>

石嵩田地区の歴史的背景を知ったところで、川満さんが突然ボードゲームを取り出しました。SDGsや持続可能な社会について遊びながら学ぶことができる学習ゲーム『Get The Point』の八重山諸島版です。

ゲームのなかには<再生できる資源>と<再生できない資源>のカードがあり、そこから<衣服><車><家>など暮らしに必要なアイテムをつくります。アイテム毎にポイントがあり、ポイントが高い方が勝ちなのですが、ポイントだけを追求すると資源は枯渇してしまうのが難しいところ。どう資源を残しながら持続可能な暮らしをするのか、地域の方々と交じりランダムに構成されたチームで勝敗を競います。

 このゲームを行うことで、参加者のなかでいくつかの問いが生まれます。

「自分たちは、どういう暮らしをしたいのか」
「その暮らしは、どのような豊かさをもたらすのか」
同じチームでも、個人の考え方や価値観が異なるなか、何を優先して支え合っていくのかを語り合い、行動に移すことの大切さを体感しました。

日常の中にある本当の豊かさとは

豊かな石垣の自然の恵みをいただき、ボードゲームで交流をはかった後はフィールドワークです。シーサーや沖縄の陶器「やちむん」を制作している、やちむん工房の中辻さん、そして生花を栽培・販売しているはなやガーデン高宮の高宮さんの見学をさせてもらいました。

 2ヶ所でお話しを伺って、どちらからも感じたのは「豊かな暮らしの中に生業がある」ということ。誰かに認められることや自分だけが儲かることを目的とするのではなく、結果として求められることで今の暮らしが成り立っている。柔らかい表情でご自身の生業について話す姿をみて、参加者それぞれが”はたらくとは何か”を考えさせられました。

こだわりのその先にあるもの

続いて訪れたのは、パイナップルを栽培している島本農園。パイナップルとマンゴーの国内栽培の発祥の地と言われる嵩田地区のなかで、「神のパイン」と称されるパイナップル『島本一号』を開発しました。品評会でも数々の受賞歴がある島本農園のパイナップル2万玉は、ほぼ全て個人のお客様との直接取引で完売。市場には出回ることはないそうです。

全国に多くのファンをもつ島本さんに、おいしさの理由を伺うと「時間があれば見回りをし、糖度を調整するために間引きをし、良いものを選別する。当たり前のことを当たり前にしているだけ」と淡々した答えが返ってきました。しかし、安定したおいしさのための試行錯誤に8年を要したとお聞きし、”当たり前”の言葉の重みを感じました。

1日目の最後は、案内人である川満さんが運営するかわみつ農園に伺いました。

川満さんは、かわみつ農園の三代目。“正真正銘の完熟マンゴーを、一番の食べごろにお届けする”をポリシーに、40年前からマンゴー栽培を行っている歴史あるマンゴー生産農家です。樹についた果実を1個づつ袋で包み込み、袋の中で完熟して落下したものを収穫する『ポトリ果マンゴー』を栽培しています。

 「熟す前にハサミで剪定するのではなく自然落果したものを収穫するため、言葉のとおり”完熟”の状態で届けることができる。本当においしい状態で届けたい」

 現状維持は衰退」と考える川満さんは、NFTを活用してマンゴーの苗木を販売するなど新しいことにも挑戦されています。

 

フィールドワークで石垣島の人たちと対話し、その暮らしや営み、想いに触れ、持続可能な未来とは何か改めて考えさせられた一日となりました。 

後編では、2日目、そして最終日の食卓会議の様子をお届けします。

 

 

 

 

 

 

 

 

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