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【めぐるめくトーク Vol.5】資源循環に取り組むわたしたちが10年後の社会価値をつくる!

農と食がめぐり続けるやさしい世界をビジョンに、地域のタベモノヅクリ(※)の持続可能なチャレンジの循環を目指して活動している、めぐるめくプロジェクトが贈るトークイベント「めぐるめくトーク」。
 
※タベモノヅクリ:めぐるめくプロジェクトで定義している「食の生産・加工」を表す言葉。食べ物+モノづくりの造語。
 
2024年3月14日、東京・大手町の「3×3 Lab Future」にて第5回目がおこなわれました。今回のテーマは、「資源循環に取り組むわたしたちが10年後の社会価値をつくる!」。
 
食や農に密接に関わる地球環境の未来を考えるとき、持続可能性は欠かせないテーマです。そこに向かう方法のひとつとして「資源として扱えるものを再利用すること」にフォーカスし、トークイベントを企画しました。
 
地域の魅力を空間創造に込める株式会社乃村工藝社、国内木材を使った地産地消型の木質バイオマス発電事業の中で生まれる発電の排熱を活用し食の商品開発を行うNTT東日本、そして未利用資源である酒粕を活用した資源循環モデルに取り組む株式会社ユーグレナ。今まさに、世界中で加速している「循環型社会」への取り組みをおこなう企業の3名をお呼びして、お話を伺いました。
 
自治体や教育機関、さまざまな規模の企業の方々にご参加いただいた【めぐるめくトークVol.5】をレポートしていきます。


町の特徴と愛着を込めた建物づくり

オープニングトークのあと、最初に登壇したのは乃村工藝社の岡本さんです。

岡本 悠雅
乃村工藝社/クリエイティブ本部 未来創造研究所 

高知県出身。祖父は愛媛のみかん農家。新卒でプランナーとして乃村工藝社に入社。
ワークプレイスや企業ブランディング拠点、宿泊施設や商業施設、都心のエリア開発や地方創生など、領域に捉われず、様々なプロジェクトのブランディング・企画開発業務に携わる。同社の創造的研究機関である未来創造研究所にも所属し、ソーシャルグッドな視点で空間および空間創造の可能性を拡げる活動も行っている。

商業施設やホテルなど空間の総合プロデュースを手がける乃村工藝社の仕事は、図面やデザインにするだけではなく、お客様の要望を聞きながら課題の整理をしたり、企画に落とし込んだりするところから。今回お話しいただいたのは、昨年の5月末に開業した北海道小清水町の役場リニューアルプロジェクトについてです。

「人口4500人未満の小清水町は、消滅可能性都市にも選ばれる小さな町です。町民の方々の大切な拠点にしたいという町長や副町長の思いを受けて、プロジェクトを開始しました」
 
町の中心拠点としてこだわったのが、用事がなくても訪れたくなる複合施設にすること。役場の機能に加えて、フィットネスジムやカフェスペース、ランドリーまでを併設した新しい形の町役場を生み出しました。
 
また、空間デザインはもちろん、施設のネーミングやロゴデザイン、町民の約1/4が訪れたオープニングイベントに至るまで総合的にプロデュースした乃村工藝社。町民の愛着を育む工夫を随所に散りばめて、利用する方々に「わたしの場所だ」と思ってもらえる場所を目指したそうです。小清水町の特産品であるじゃがいもを彷彿とさせる照明にしたり、渡り鳥のオブジェを館内に点在させたりするなど、町の当たり前の魅力を施設内で可視化し、町の方々により愛着を持ってもらえるようにしました。

「地域に住む方々と話すと『自分の町には何もない』とおっしゃいます。でも、東京で生活する我々からすると、“何もない”場所はひとつもないんです」
 
洗い出した町の魅力を体験できる形で空間に活かすことで、乃村工藝社は町全体に新しい愛着を生み出しています。

森林の荒廃を食い止める、熱エネルギーへの挑戦

続いて、NTT東日本の田村さんが自社の取り組みについて紹介。「なぜNTT東日本が資源循環に取り組むのか、とよく聞かれるんですが……」と、まずは取り組む理由から説明しました。

田村 僚真
NTT東日本/新規事業開発チーム 

埼玉県大宮市(現さいたま市)出身。新卒でNTT東日本に入社後、地域企業のDXコンサルティングや、デジタル技術を活用したまちづくり・再開発案件に従事。2023年より、木質バイオマスなどのエネルギー地産地消×施設園芸・食品加工×ICTの新規事業に参画。

「当社はもともと地域に密着して、通信事業を展開してきました。自治体の方々を中心に地域の方とお話しして地域課題をお聞きするなかで、通信に限らず地域の課題にフォーカスしていこうと考え始めたのが大きな理由です」
 
今回、田村さんが紹介したのは、NTT東日本が取り組む「エネルギーの地産地消」。地域にある資源を地域内で循環させていくモデルの中で、特に力を入れているのが木質バイオマス発電と、そのエネルギー発電の際に生まれた排熱を使っての食品製造です。

「日本は先進国の中でも森林資源が豊富な国にもかかわらず、林業が衰退している現状があります。戦後植林された人工林も伐採されず、今後ますます森が荒廃していく未来が見えつつある。そこで“木を活用する”という観点から、木質バイオマス発電に取り組み始めました」
 
具体的には、木材をチップにしたものを利用してガス化、そのガスで発電機のエンジンを回して発電する仕組み。電気のみならず“熱”が発生するのが大きな特徴だそう。田村さんは現在、この熱を活用したドライフルーツと椎茸の栽培に取り組んでいます。
 
「木質バイオマス発電の価値を高めるためにも、熱の活用を模索しています。それが森林資源や林業の利益へと還元されていくと捉えているからです」
 
会場で参加者に配られたドライフルーツは、基本的には地元の農家さんから農作物を仕入れてつくられたものです。ここでも地産地消を意識しながら、各地域に拠点を持っていきたいと話した田村さん。現在の課題としては「背景のストーリーをどう伝えるか」「熱エネルギーをどのように効果的に活用できるか」を考えており、食品製造以外の活用方法についても今後も多角的に模索していきたいとのことでした。

<ドライフルーツ原材料は果物のみで砂糖不使用。噛むたびに濃厚な味や香りが広がります。>

お酒と田んぼを循環させるスタイルを全国に

各社の取り組み紹介の最後は、株式会社ユーグレナの渡辺さんです。ちょうど秋田県男鹿市の田んぼを視察した帰りとのことで、長靴で登壇しました。

渡辺 悠介 ユーグレナ/サステナブルアグリテック事業部 

生産流通チーム チームリーダー
ユーグレナ・エアポート コミュニティディレクター

千葉県船橋市出身。新卒で日本ヒューレット・パッカード入社。その後、広告代理店にて勤務。システム導入、レスポンス広告全般、会員プログラム、顧客育成を得意とする。
現ユーグレナには2018年入社。マーケティング・リサーチ、プロモーションを主務とし、ファンコミュニティ、ポイント交換プログラムを導入。サステナブル配送プロジェクトの推進など顧客体験を拡充。顧客を購買データと調査データの両面から知り尽くすデータ分析のエキスパート。直近では、めぐるめくプロジェクトにて稲とアガベ社との資源循環型農業モデル案件を推進。

 ユーグレナは、ありたい姿として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げ、事業が拡大するほどに社会問題の縮小につながることを意識して事業展開をおこなっています。2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養を実現し、現在はヘルスケア、バイオ燃料、ソーシャルビジネスなどの事業を手がける会社です。

今回は、秋田県男鹿市の酒蔵「稲とアガベ」と一緒に、未利用資源である酒粕を使った循環プロジェクトを紹介しました。秋田県だけで年間400トンも破棄されている酒粕を、ユーグレナの持つ研究力を活用して肥料化するものです。
 
「『稲とアガベ』でも発酵マヨという調味料にするなどの取り組みをしていますが、まだまだ酒粕の廃棄量は減っていません。肥料を活用した田んぼで米作りをし、そのお米からまたお酒を作るという無限ループの循環をイメージしています。現在は耕作放棄地も多い秋田県ですが、こういった取り組みが増えていけば土地の活用にもつながると考えています」
 
この循環モデルが実現すれば、酒造りをしている全国各地のモデルケースとなります。「稲とアガベ」の代表、岡住さんと一緒に男鹿発の全国展開を目指していると話してくれました。

ちなみに、「稲とアガベ」が手がけた発酵マヨは、昨年クラウドファンディングで1,200万円の支援を集めた人気商品。イベント当日も、小清水町のじゃがいもに合わせて発酵マヨが振る舞われました。

【トークセッション】「わたしたち」が10年後の社会価値をつくるために

3社の紹介のあとは、めぐるめくプロジェクトの広瀬も交えたトークセッションです。各社の話を聞いていた広瀬から「儲からないけどCSRアピールのためにやっている、とは違う印象を受けましたが実際はどうなんでしょうか?」と、最初から突っ込んだ質問が。ざっくばらんなトークが聞けるのも、こういったイベントならでは。
 
岡本さん(乃村工藝社)
「私たちは地域の魅力を引き出して多くの人に伝えることで、地域を元気にしていると考えています。たしかに一見お金にはならないかもしれませんが、みんなの中にある『地域の当たり前を大切に守りたい』という思いを代表して、我々がまずは手をあげて地域に入っていく価値がある。長期間をかけて、経済的にも潤っていく土壌を作っているところだと捉えています」
 
田村さん(NTT東日本)
「通信という我々の生業は、今後人口とともに減っていく一方。そういう意味でも、人口減少社会をどうにかしたいという気持ちがあります。今後10年、20年で日本の自治体が消えていくと言われているなかで、改めて日本全体で地域の在り方を模索していかなければいけない。そこに、我々が持っている資産や技術を活用していきたいと思っています」

渡辺さん(ユーグレナ)
「弊社は社会課題の縮小を目指している会社なので、こういったことはどんどんやりましょうという姿勢です。ただ、始めたことを持続させていくためには、やはりお金は生み出さなくてはいけないので、そこにどう知恵を使うかを考えているところではあります」

その後、地域との関わりのきっかけや、取り組みに発展していく過程などの具体的な話までトークは広がりました。それぞれ地域に入り込んで事業を作っているからこその困難や難しさ、同時にやりがいなども伺いました。ユーグレナの酒粕を使った肥料づくりに、NTT東日本の木質バイオマス発電を活用できないか……など、すでに新しいコラボレーションが生まれそうな気配も。

会場からも、それぞれの取り組みに対して「財政危機に陥っている自治体ではどのようなことができるか」「自治体の担当者が変わってしまっても、長期的に良いプロジェクトを進めていくには?」など、かなり具体的な質問が飛びました。

最後に、広瀬から「すぐ来年には成果が出るという簡単なものではないと思います。10年後の未来に向けてどんな仲間を見つけたいか、メッセージをお願いします」という問いかけがあり、会場に集まった方々に向けた3名の呼びかけでトークイベントは終了しました。
 
田村さん(NTT東日本)
「10年後には、今日お伝えしたような木質バイオマス発電ができる拠点を100ヶ所作ることを目標に掲げています。ドライフルーツと椎茸だけではそこに辿り着くことは難しいので、ぜひみなさんのお知恵をお借りしたい。熱の多様な活かし方をどんどん作っていきたいと思っています」
 
岡本さん(乃村工藝社)
「乃村工藝社が取り組むソーシャルグッド活動のひとつに『地域の当たり前を価値に変える』というものがあります。
地域では当たり前になって埋もれている価値を掘り出して、一緒に盛り上げたいという思いがあればどなたでも大歓迎です。
日頃からさまざまな自治体や会社さんとお付き合いしている我々だからこそ、みなさんのハブとなって化学反応を起こしていきたいです」
 
渡辺(ユーグレナ)
「社会にいいことをやっていても伝わらなければ意味がないと思っているので、メディアやPRの方々とつながりたいですね。私たちの事業は社会課題の縮小が目的なので、極端なことを言えば他社に真似されてもいいんです。ですから、まずは知ってもらうことに注力していきたいと思っています。また最終的には現地を訪れてもらう仕組みも作りたいので、旅行会社の方々ともつながっていきたいです。10年先の未来を一緒に作れる方々と出会いたいと思っています」

共創でさらに“めぐり”が生まれる未来へ

イベントの終わりはネットワーキングの時間が設けられ、登壇者も含めて参加者が意見交換をおこないました。
 
今回のめぐるめくトークからも、新たなコラボレーションが生まれ、10年後の未来に向けた「めぐり」につながるかもしれません。


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